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【理系研究職】正社員として安定してはたらきたい人へ:理学博士KOTORAのキャリア相談室vol.9 | リケラボ

【理系研究職】正社員として安定してはたらきたい人へ:理学博士KOTORAのキャリア相談室vol.9

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「安定」について、前回は正社員をキーワードに1社で長く働いて「安定」するために必要なことについて考えました。でも、そもそも現職が不安定だと感じている人や何らかの不満を抱えている人、他にやりたい仕事がある人にとっては、そこで長く働くことが「安定」にはつながらないでしょう。

そこで今回は転職して安定に向かう道について考えてみたいと思います。

転職するときに考えた方が良いことについては、以前に記事にしました。
理学博士KOTORAのキャリア相談室 転職を考え始めた人に必ず伝える7のコト

ここで書いたように転職には必ずリスクがあるので、「安定」を目指して転職するなら「転職で何を得たいのか」を明確にする必要があります。

非正規求人=正社員になれない求人ではない
正社員への近道になることもある

前回、正社員だから安定というわけではない、と書きましたが、転職にあたって雇用形態にこだわりたいという人は多いでしょう。現職が雇用期間に定めのある仕事、例えば、ポスドクや派遣で働いている人が、「転職して安定を目指すなら雇用期間に定めのない仕事にしたい」と考えるのは自然なことです。ただ、正社員待遇にこだわるあまり、絶好のチャンス!と思われる求人を逃してしまう人がいるのも事実。業務内容や就業環境、将来性など、どの側面から見ても求職者の希望やキャリアプランにぴったりなのに、雇用形態が採用時点では正社員ではないという理由で応募しないという選択をしてしまったり、すでに正社員を辞めてしまって求職(無職)期間が長くなっているのに、とても良い求人を「正社員ではないから」という理由だけで逃してしまっている人も多く、もったいないと思うことがよくあります。

正社員登用制度有の契約社員の求人

例えば、契約社員の求人には、将来的に正社員として登用される可能性の高いものも少なくありません。中途採用は全員契約社員で入ってもらって、半年に1回正社員登用試験を受けられる、実際に契約社員で入った人の多くが3年以内に正社員になっている、という企業もあります。でも、求人票には「雇用形態:契約社員」「備考欄:正社員登用制度あり」としか書かれていないことが多く、正社員の求人を探している人の目には留まらないのです。以前に「博士課程中退からの逆転キャリア」という記事でご紹介した博士課程を中退したAさんも正社員志向が強く、現職の採用内定時、契約社員での提示だったので入社するかどうか悩んでいました。でも正社員登用制度があり、登用実績も多数あることを人材会社を通じて確認できたので入社を決めています。そして入社後1年経たないうちに正社員登用されていました。

■ 働く側にもメリット大の「紹介予定派遣」

また、紹介予定派遣と呼ばれる求人も、正社員を目指すならチェックした方が良いでしょう。

正社員の求人を探している方には聞きなれない「紹介予定派遣」。派遣契約とはいえ、派遣期間後の直接雇用を前提としており、派遣契約で働き始めて、働く人・企業側双方が問題ないと合意できれば、正式に入社となる制度です。派遣期間は最長6か月と法律で決まっているので、直接雇用になれるかどうか6か月以内に必ずわかります。中途採用の求人があまり出ない企業でも紹介予定派遣求人なら出ることがありますし、最初から正社員の求人に比べて採用基準が少し緩やかな場合が多いのが特徴です。直接雇用時の待遇については、募集時に雇用形態(正社員か契約社員か)、年収の目安、その他福利厚生も明示されるので、それを参考に応募を検討してください。派遣期間中は派遣会社が間に入ってくれるので、会社や業務に対して不安なことがあれば、派遣会社の担当者に相談することができ、場合によっては間に入って調整してもらうこともできます。人間関係などの就業環境や他の社員の休暇の取得状況、実際の業務内容など、働いてみて初めてわかることは思いのほかたくさんあります。それらを派遣期間中に確認してから入社するかどうかを決められるのが最大のメリットです。最初から正社員で入るより安心だから、という理由で紹介予定派遣を希望する人もいます。

こうした正社員登用の可能性が高い求人なら、正社員として働きたい、という希望から外れているようには思えません。むしろそういう求人は、応募要件が緩やかだったり競争相手が少ないので、逃してしまうのはもったいないと思います。だから、正社員を目指して転職活動をする場合でも、念のため、正社員ではない求人にも目を通すことをおススメします。そして、雇用形態以外の内容が希望に沿っている求人を見つけたときには、正社員登用の制度や実績があるかどうか詳細を確認してみましょう。人材会社なら、求めなくても正社員登用について詳細な情報をもらえることが多いですが、求人サイトやハローワークの求人、企業HP等で直接募集している求人は、自分から直接企業へ連絡して情報を求めなければ詳しい情報は得られません。

転職活動にあたっては、将来のキャリアを見据えて、視野を広げて求人を見ることも安定につながる大事な行動と言えるでしょう。

スキルや専門性を高めて安定を手に入れる転職
目標を明確にして挑戦しよう

次は「スキルや専門性を高めて仕事に困らない人・求められる人材になること」=「安定」と考える人の場合を考えてみましょう。

ひとつの職場である程度の期間働くと、毎日が同じ仕事の繰り返しになることはよくあります。数年働いて、これ以上スキルや専門性を高めるのが難しいと判断したならば、ステップアップのための転職をすることが安定につながります。具体的にどういうスキルや専門性を得たいのか明確であれば、転職先の候補を探しやすく転職後の満足度も高いものになるでしょう。将来のキャリアを見据えて数年ごとにスキルレベルの高い仕事や責任範囲の広い仕事に転職し、目標にしていた業務内容や待遇で、満足のいく長く働ける場所へたどり着くケースがこれにあたります。また、配偶者の転勤など予期せぬ転職の機会に、すぐに良い待遇の仕事を見つけられる人とそうでない人がいます。すぐに見つけられる人は、転職の度に新しい経験を積み、スキルアップの努力を惜しまなかったことが共通していて、結果的に仕事に困らず安定した生活を手に入れています。意外に思われるかもしれませんが、こうした事例は派遣で働いている人に多く見られます。

未経験職種へのキャリアチェンジに「派遣」をうまく使う

理系・研究開発職の派遣求人は、直接雇用の求人に比べて実力より少し上の業務にチャレンジできる求人が多く、中には未経験者を受け入れて育ててくれる求人まであります。以前に「派遣で働くことを選ぶなら」という記事でご紹介したように、理系出身で研究開発関連の業務経験がまったくない人が研究開発職へ挑戦したり、栄養系出身で検査業務経験のある人が細胞培養など再生医療にかかわる業務に挑戦したり、未経験から目指す仕事へ挑戦できるのが派遣求人の魅力のひとつです。さらに契約によって期間を区切って働けるので、数年働いて技術が身についたらステップアップを目指して転職しやすいのです。

正社員から正社員への転職では即戦力が求められることが多く、特に未経験職種への挑戦はとても難しいのが実情です。未経験職種へのキャリアチェンジをかなえるには、多くの場合、待遇にこだわらずに経験を得るためのいわば修行のような時間が必要です。正社員ではあるけれどとても小さな会社で給与や福利厚生が良いとは言えない求人、人材会社の無期雇用派遣で正社員ではあるものの就業先を選べない求人、契約社員や派遣社員で期間の定めがある求人など、経験のある人が選ばない求人だからこそ未経験でも受け入れてもらえるチャンスがあります。今の職場で目指す仕事につながるスキルアップを望めない場合には、思い切って待遇を度外視して、やりたい仕事にチャレンジするのも一つの方法です。ただ、どういう状態を目指して挑戦するのかをくれぐれも忘れずに、明確な目標設定をしてから挑戦してくださいね。

安定の基盤を築こう

前回と今回の記事で、みなさんからとてもご相談の多い「安定」について考えてみました。何をもって「安定」と考えるのかは人によっても状況によってもさまざまだと思いますが、現職を続ける選択をする場合にも、退職・転職を選択する場合にも、どのような「安定」を目指すにせよ、今、働いている人は現職で成果を出すこと、周囲から仕事の評価を得ることをぜひ心がけてください。客観的に評価できる正確さやスピードで高い評価を得て、大事な仕事に欠かせない人材になる。あの人にサポートしてほしい、あの人には仕事を頼みやすい、あの人と一緒に仕事をしたいとお客様や一緒に働く同僚から評価される人になる。成果を出した仕事や周囲からの高い評価は実績として手元に残るだけでなく、確かな自信を作ってくれて将来のキャリアに必ずプラスになります。

例えば現職で状況が変わり困難に直面したとき、過去に評価してくれていた人が相談に乗ってくれたり、場合によっては手を差し伸べて救い出してくれることもあるかもしれません。また、転職の場面では具体的な成果は職務経歴書に記載できますし、面接で将来どのように仕事をしていきたいか、どのように応募先企業に貢献したいかを伝える場面で自分をきちんとアピールするための実績と自信を作ってくれます。周囲の状況やキャリアの選択に左右されない実績と自信は誰にとっても安定を支える大事な基盤となるはずです。


2020年は感染症の流行で働く環境が大きく変わる年になりました。今回初めてリモートワークを経験した人も多いのではないでしょうか。取引先が減ってしまって古くからある事業を縮小したり、新たな事業を展開するなど業務のあり方が大きく変化した企業もあります。変わったのは働き方だけではなく、何をもって成果とするのかという考え方まで変わり、そのために必要とされるスキルや能力が変化した職場もあります。こんなに変化の大きいときに「安定して働くこと」はとても難しいかもしれません。漠然とした「安定」は拠り所を失います。まずは現職で成果を出して安定の礎を作ること。そして自分が目指している「安定」をできるだけ具体的な言葉にすること。それから未来に向けてどうするのか、考えていけると良いですね。唯一絶対の正解がない問いだからこそ、それぞれの人の中に答えがあるはずです。ぜひ、あなたの中にある答えを探してみてください。

KOTORA

KOTORA

キャリアコンサルタント。博士(理学)。生物系で博士号取得後、ポスドク、大学非常勤講師などの職を経てから民間企業の非研究職へキャリアチェンジし、人材会社の中の人10年超。主に理系求職者のキャリア相談・求人紹介を担当。現在はメーカー人事に勤務。これまでに自身も派遣社員・契約社員・正社員と多様な雇用形態を経験し、担当した業務は大学での生物学の講義・実験補助・就活生向けキャリアセミナー、人材会社でのキャリアアドバイザー・人材育成など幅広い。「人材会社の中の人」「人材サービスの利用者」の両方の立場を経験した人として、文系理系問わずキャリア選択をサポートする活動をしている。 twitter:@KOTORA_CC