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理学博士キャリアコンサルタントが転職を考え始めた人に必ず伝える7のコト | リケラボ

転職を考え始めた人に必ず伝える7のコト:理学博士KOTORAのキャリア相談室vol.1

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はじめまして、KOTORAです。理系出身のキャリアコンサルタントです。生物学で大学院を出て、しばらく教育・研究に携わってから人材業界に入り、2社で計10年以上正社員として働いてきました。現在はメーカーの人事で社員研修をメインに担当するほか、個人の活動としてキャリアや転職に悩む人のサポートをしています。

人材会社で主に担当していたのは、理系研究職・技術職で正社員転職や派遣就業を希望する人のキャリア相談。経験や希望を聞いて将来のキャリアプランを提案し、求人を紹介する仕事です。これまで数千人の相談に応じてきましたが、キャリアは多種多様であり、ごく個人的な出来事であり、一般化できることはとても少ないと感じています。そう思う一方で、多くの相談者に「必ず伝えること」もありました。矛盾しているようですが、転職を検討するとき、仕事を探すとき、将来のキャリアについて考えるとき、知っておいた方が良いことがあります。

今回は働きながら転職を考え始めた人、特に正社員の仕事を探そうと考えている人に必ずお伝えしていることを紹介していきます。

現職を継続しながら転職活動をしよう

まず認識しておいた方が良いのは、転職にはリスクがあるということ。現職の状況にもよりますが、転職して新しい会社、新しい人間関係の中へ飛び込んでいくのだから、転職後に現在よりも状況が必ず良くなるとは限りません。年収は内定時に提示されるので、収入が良くなるかどうかは転職を決める前にわかります。でも、人間関係や現場の状況などは、入ってみないとわからないことが多く、想定外の状況に「前職の方がよかった・・・」と思ってしまう可能性もあります。だから転職は「そもそも本当に転職すべきなのか」という点も含めて慎重に検討した方が良いのです。

慎重に検討とは、転職活動を開始してはいけないという意味ではありません。どの求人に応募するのか、現職を退職するのか、選考が進んだ会社に本当に行くのか・・・など、転職活動が具体的に進んだどの段階からも引き返せる=現職にとどまる可能性を残しておく、ということです。退職を決めてしまって経済的に不安のある状況では、じっくり良い求人を待つことも選ぶことも難しくなります。わざわざ背水の陣にする必要はありません。退路を絶たずに時間をかけて取り組める状況を維持する、そのくらいの慎重さがあった方が良いと思います。

選考が進んでくると、転職が近い将来に見えてくるので、引き返せない、引き返したくない、という気持ちが強くなります。それでも、引き返せる道を残しておくことはとても大事なことです。最終選考での対応で、その会社で働くのは難しいと判断せざるを得ないこともあるからです。例えば、最終面接で出てきた社長が机に足を上げてタバコを吸いながらの対応だったとか。社長から女性の求職者に「最近の女性はなんでこんなに働きたがるのかねぇ」と質問されたとか。いずれも選考結果が出る前に求職者側から辞退を申し出ていました。世の中にはいろんな会社があります。極端な例を取り上げましたが、最終的に現職を退職して新しい会社に入社すると決断するまでは、そして現職で心身の健康を崩してしまっているという状況でない限りは、現職を継続できる状況を維持しながら活動することをお勧めします。

求人を見ると現職を客観的に評価できる

何がどうなればその転職は成功と言えるのか。ヒントは現職にあります。なぜ現職を辞めたいのか、転職したい理由を書き出してみてください。新卒の就職活動のときのように転職活動用のノートを作ってどんどん書きましょう。同時に興味のある求人を見ながら現職と比較し、現職の良いところも書き出します。具体的に求人を見始めると希望がすべて叶う求人はとても少ないことに気づく人が多いはず。年収が希望に満たないとか、将来的な転勤や異動の可能性が希望と異なるとか、とても良い条件でやりたい仕事だけど当初は契約社員採用で1年後に正社員登用試験を受けられるとか。誰にとっても希望条件が少しずつ足りない求人がたくさんあるものです。だからこそ、求人を具体的に見始めると現職の良いところや転職しても変わらないところが見えてきます。もし、この段階で現職に良いところがひとつもないのであれば、つまり、どの求人を見ても現職より状況が良くなると思えるのであれば、すぐに求人への応募を検討したら良いと思います。一方で、現職も案外悪くないと思えば、転職するかどうか自体を再検討した方が良いかもしれません。

現職の良いところを認識できたなら、転職するかどうかとは関係なく、現職でできることはもうないだろうか、と模索してみます。例えば転職・退職したい原因となっていることは、現職の社内で異動できたら解決しないだろうかと考えてみる。実際に異動願いを出してみる。現職で習得できるスキルでまだ身につけていないことがあれば習得する。会社から補助が出ている資格があれば補助を受けて資格を取る。そうやって現職でできることをできる限りやってみることで、現職での新たな道が開ける人もいるでしょう。もしそうならなくても、新たに身につけたスキルや資格は転職するときに役立ちます。もし結果的に転職することになったとしても、資格取得や異動の相談など現職社内でできる限りのことをやっておいた方が、応募先からの印象が格段に良くなります。

働く中で難しい局面に立ったとき、いろいろな可能性を模索する力は長く働くために大事な能力です。正社員での採用を考えている多くの企業は、長く働いてくれる人を探しています。そして、どんな会社のどんな仕事でも、長く働けば難しい局面に立つことはあるものです。だから、現職でできる限りのことをした、と伝えられることはとても大事なことなのです。

希望条件の優先順位を明確にしよう

状況を整理して転職することを決めたなら、転職で実現したい希望条件に優先順位をつけて応募する求人を決めていきます。希望条件がすべて揃っている求人ならすぐに応募すれば良いでしょう。でも、そのような求人は誰にとってもとても少ないものです。求人に足りない条件が自分にとって優先順位の高い条件ならば応募しない。低ければ応募を検討する。優先順位がとても高い希望条件があるなら、その条件だけを求人ごとに比較すると判断しやすくなります。条件面を現職と比較する表を作ると転職したらどうなるか、わかりやすくなります。

求人をじっくり検討していく中で、自分にとって良い求人とは何か、何がどうなれば転職は成功と言えるのか、明確になってきます。それが転職活動の軸になります。軸が決まれば求人を見た時にあまり時間をかけずに応募するかどうかを判断できるようになります。

転職成功のカギは準備にあり!

現職を継続しながらの転職活動は、求人を検討するのも応募書類を作るのも時間との戦いになります。ベースとなる履歴書・職務経歴書を準備し、そこに応募先企業に合わせた志望動機を盛り込んでいくのが一般的ですが、人材会社経由の応募では書類選考の時点では志望動機は不要の場合もあります。これは、中途採用は即戦力を求めていることが多いので、志望動機以上に経歴・経験で選考されるということを意味しています。そのため、職務経歴書の記載内容はとても重要。応募する求人ごとに最適化した方が良いでしょう。複数の業務を担当していた場合、応募している求人の業務内容に近い業務を中心に記載したほうがアピールできます。人材会社経由であれば担当者にもアドバイスを求めましょう。どのような応募書類が通りやすいか熟知しています。

応募書類を丁寧に準備することは、そのまま面接の準備になります。面接では志望動機や経験業務など応募書類に記載してある内容について、自分の言葉で説明を求められることが多いです。応募書類作成時に経験を整理し、どの経験が応募先で評価されそうかよく考えておくことで、面接時に伝えるべきことを把握できます。

一喜一憂せずにこつこつ活動する

選考での大事な心構えは「自分を伝える」こと。自分を伝えることができれば、その会社で成果を出せそうか、うまくいきそうか、選考担当者に的確に判断してもらえます。きちんと伝えた上で不採用になったなら、それはその会社に自分は合わない、合うポジションがないということだから、がっかりしなくてもいい。でも、きちんと伝えることができずに不採用になるのはもったいない。自分をきちんと伝えて、自分の力を発揮できる会社に受け入れてもらう、そんな心構えで丁寧に準備をして、落ちてもめげずにこつこつと転職活動をしていけると良いですね。

そしてもう一つ大事な視点。長く働けそうか、転職で実現したい希望が叶えられそうか、会社や対応する人を見る気持ちも忘れずにいてください。選考の場面は自分が見られるだけではなく、自分も会社を見る機会だと考えます。受付の人、会社の中ですれ違う人や選考担当者の対応は、その会社の雰囲気を知る貴重な手がかりになります。採用選考を受けにきた外部の人への対応に不安を感じさせるところがあるというのは、その会社で働くかどうかを考え直すのに十分な情報だと思います。

転職回数が多いのは不利になる?

最近は転職がさほどめずらしくはなくなりましたが、それでも日本では正社員は長く勤めることを期待されている社会だと思います。外資系やIT関連業界は少し事情が異なりますが、大手・中小問わず日系・内資系の企業では、新卒一括採用を基本とし、正社員には長く勤めてほしいと考えている企業が今も大多数を占めています。そのような会社では中途採用者に対しても長期就業を期待しています。だから、正社員での転職が無事に決まったら腰を落ち着けて働く覚悟を決めた方が良いでしょう。よほどのことがない限り、短くても数年は辞めないという気持ちでいてほしいと思います。なぜなら、例えば1年に満たないような短期間で辞めてしまうと、次の正社員の仕事を探すのが格段に難しくなるからです。

新卒で最初に入った会社を半年程度で辞めてしまった場合には、第二新卒という求職者層に入れて比較的多くの求人に応募できます。でも、それは新卒一括採用と同様に一定の条件でのみ成立する事例です。通常の中途採用では、正社員の仕事を半年や1年で辞めてしまうと、短い職歴が「長く勤められない人」という印象を作ってしまいます。「長く勤めてくれる人」を探している会社は短い職歴にはとても敏感です。そして短い職歴が何よりもやっかいなのは、応募書類の時点で選考担当者に「長く勤められない人」と認識され、書類選考を通過するのが難しくなってしまうこと。面接まで進めば退職理由を説明する機会もあるかもしれませんが、書類選考を通過しなければ説明する機会はないのです。

とはいえ、一生ひとつの会社で働くという働き方・考え方はすでに古いものになってきています。経団連のトップが終身雇用の見直しを考えるべきだという趣旨の発言をしたのは2019年5月でした。新卒一括採用に偏った雇用制度も今後10年20年かけて徐々に変わっていくでしょう。日本の雇用制度がどうなっていくのか、不確実なことも多いのですが、転職しながらキャリアを作っていく時代が来ようとしているのは間違いないと思います。だからこそ、転職を考えている人は、現職で何年勤めたのか、どんなスキルを身につけ、どんな成果を出したのかを言葉にしてみてください。それこそが現職より良い転職先を探すときの武器になります。

最後に:心身の健康は最優先

いろいろなことを書いてきましたが、もし、現職で心身の健康を崩しそう、崩しているという状況ならば、すぐに休職か退職を検討してください。転職を考えるより心身の回復を優先させましょう。なぜなら心身の健康は一度大きく崩してしまうと、簡単には取り戻せないからです。もちろん、それぞれに休職・退職を選べない事情があるでしょう。家族を養っている、住宅ローンを払っている、ひとり暮らしで頼る人がいないなど、経済的な理由が多いと思います。それでも心身の健康を大きく崩してしまえば何年も働けなくなるかもしれない、と考えてほしいのです。働くというのは心身の健康があってこそ。それを決して忘れないでください。

KOTORA

KOTORA

キャリアコンサルタント。博士(理学)。生物系で博士号取得後、ポスドク、大学非常勤講師などの職を経てから民間企業の非研究職へキャリアチェンジし、人材会社の中の人10年超。主に理系求職者のキャリア相談・求人紹介を担当。現在はメーカー人事に勤務。これまでに自身も派遣社員・契約社員・正社員と多様な雇用形態を経験し、担当した業務は大学での生物学の講義・実験補助・就活生向けキャリアセミナー、人材会社でのキャリアアドバイザー・人材育成など幅広い。「人材会社の中の人」「人材サービスの利用者」の両方の立場を経験した人として、文系理系問わずキャリア選択をサポートする活動をしている。 twitter:@KOTORA_CC