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安定して働くために必要な考え方:理学博士KOTORAのキャリア相談室vol.8 | リケラボ

安定して働くために必要な考え方:理学博士KOTORAのキャリア相談室vol.8

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安定して働きたい、安定してるから正社員がいい・・・仕事についてのご相談の中で「安定」という言葉をよく聞きます。安定して働くってどういうことでしょうか。「正社員で辞めずに働くこと」で安定を得られる人もいれば、「転職してスキルアップすること」が安定につながる人もいて、「安定」に続く道は人によって異なるように思います。人によって異なる「安定」について、今回は正社員をキーワードに考えてみたいと思います。

正社員を安定と考える人へ
~1社で長く働くためにはコツがある~

正社員は安定している、安定しているから正社員がいい、など正社員という雇用形態を安定と考えている人がとても多い印象を受けます。でも、安定を目指して転職活動をして、念願の正社員として働き始めても「今の職場は合わないから辞めたい」「自分に合う職場に巡り合えない!」と悩んで相談に来る人もたくさんいます。正社員だからといって辞めずに働き続けることは決して簡単なことではありません。大学を卒業して、新卒一括採用で正社員として働き始めた人のうち3割もの人が何らかの事情で3年以内に離職することが知られています。一方、中途採用を考えている人事担当者の多くが自社で長く働くことを応募者に求めています。どこかの会社を退職して自社に応募してくれる人に「長く辞めないで働き続けること」を求めるというのは、少し矛盾しているようにも感じますが、せっかく採用するのだから自社でこそは長く働いて欲しいと考える人事担当者が多いのは当たり前のことでもあります。なぜなら、企業は研修や現場でのトレーニングを通じて社員を教育・育成しています。せっかく採用して育てた社員が仕事を覚え本格的に活躍する前に辞めてしまうことは企業にとって痛手になります。短い期間で転職を繰り返してきた求職者が書類選考で不利になりがちなのは、育てても長く勤めてもらえなさそうという印象を人事担当者が持ってしまうからです。

では、1社で長く働くために必要なことはなんでしょうか。価値観や考え方によって多様な意見があり、正解がある問いではありませんが、転職を考えている多くの相談者の悩みと同じ悩みを私もかつて抱えていました。職場の人間関係です。

昔、上司と合わなくて退職しようか悩んでいたときに、友人に相談するとこんなことを言われました。「上司と合わないからってあなたが退職するのはもったいない。数年経てば自分か上司が異動になるでしょう?心身の調子を崩してるというのでもない限りは上司とぶつからないように気をつけながら過ぎるのを待つのがいいよ。」

数年過ぎるのを待てばいい、というアドバイスは悩んで視野が狭くなっていた当時の私にはとても新鮮でした。友人は全従業員数50人以下で事業所がひとつしかない小さな会社に新卒から10年以上勤め続けていました。小さな会社ではたとえチームが変わってもずっと同じ人と顔を合わせて仕事をすることになります。人間関係に悩んだこともあったとも聞いていました。そんな状況の友人からすれば、私が勤めていた会社は全国に拠点があり営業部門や間接部門など多数の部門が別のオフィスで仕事をしている環境。たった数年のことでそんなに悩むなんてもったいないという意見でした。友人の意見を聞いて納得した私は退職を思いとどまり、実際に2年後には異動になって状況が改善しました。

人材会社で多くの人の相談を受けていると、ひとつの会社に長く勤めている人は、自分の置かれている状況を客観的に評価する視点と、困難な時にも状況を受け入れて過ぎるのを待つ姿勢を共通して持っていることが多いように思います。長く働けば難しい状況になることは必ずあります。そのときに転職が最適解なのか冷静に考えた上で、現職を継続することを選びなおすことのできる人はひとつの職場で長く働ける人になりやすく、たとえ将来的に転職を選んでも転職後の新しい職場で長く働くことができるでしょう。もちろん、心身の調子を崩している場合には、一刻も早く休職や退職・転職を検討した方が良いと思います。でも、そうでないならば、本当に退職・転職が最適解なのか、冷静に考えた方が良いと思います。

求められる人材になること
~予期せぬ事態に慌てないために~

安定して働くためには辞めなければいいなんて、身もふたもないことを・・・と思われたでしょうか。そうは言っても、自分の希望や気持ちとは関係のない理由で退職・転職をせざるを得ない場合もあることも考えておかなければなりません。人材会社にいると、思いがけずそういう状況に陥ってしまった人の相談を受けることがしばしばあります。いま安定して働けそうな企業も、10年後20年後にはどうなってるかわかりません。製薬や家電、半導体業界では国際競争に負けて大規模なリストラをせざるを得なかった事例もあります。会社の経営状態悪化だけではなく、自分や家族の病気・看病・介護など理由はさまざまですが、まったく想定していなかった出来事により突然転職や退職が視野に入ることがあるのです。仕事を調整したり、しばらく休職したり、現職を継続できるように努力した結果、続けられる人もいますが続けられなくなる人もいます。そういった不本意な状況変化にも備えておくことは、安定して働いていくために大事なことです。現職で企業にとってやめてほしくない人材になること、転職で次を見つけやすい人材になること、つまり、求められる人材であり続けること。そのために現職でやれることがないか考えてみましょう。

中途採用では主に職歴とスキルが判断材料とされます。職歴は一朝一夕でできるものではないので、ここではスキルについて考えてみます。スキルは働きながら価値を高めることができます。まず自身が持っている・持ちうるスキルを専門性と汎用性に分けて考えてみましょう。

専門性の高いスキルについては、とにかく学び続けて知識を深め、幅を広げること。例えば分析なら、使える機器を増やす、より難しい機器を使えるようにする、メンテナンスまで担当する、分析できる対象物を増やす、多様な前処理方法や分析手法に精通する、分析結果についての統計処理や報告書作成まで担当する、新たな手法や法令の知識を更新しておく、というように知識を深め、同時に幅を広げることで分析技術者としての専門性を高めることができます。同じ会社で同じ職種が長くなると学ばなくても業務を回せるようになってしまいますが、それに甘んじないで学び続けることで自分の付加価値を高めることができます。付加価値の高い人は企業からすれば手放したくない人材になりますし、いざ転職や退職を考える場面ではライバルが少ないので仕事を見つけやすくなります。

どんな職場でも必要とされる汎用スキルとは?

汎用性の高いスキルは企業で働くときの基礎になるスキルのことです。例えば、転職の現場にいると職歴やスキルというよりも人柄抜群で良い仕事を得る人が少なからずいます。ここで言う「人柄」には柔軟性、話しやすさ、謙虚さ、誠実さ、意欲など多数の要素が含まれています。そしてチームで成果を出す仕事なら、そういう「人柄が良い」ことがそのまま成果につながるのです。これも汎用性の高いスキル、と言うことができます。ポータブルスキル(厚生労働省)、社会人基礎力(経済産業省)、トランスファラブルスキル(イギリスで博士過程学生やポスドクを対象としてトレーニングしているスキル、専門性も含む言葉で日本にも導入され始めています)など様々な言葉で定義されるスキルですが、具体的には、業務の把握、関連情報の収集、遂行の計画立案、報告連絡相談のしかた、同僚や上司とのコミュニケーション、協調性、社外の人への対応、能動的・主体的に取り組む姿勢、ストレスマネジメントなど、専門や業種・職種に関係なく組織の中で働く人が成果を出すために必要なスキルと言えます。仕事をしながら周囲を見渡せば、そういった汎用性の高いスキルに分類されることを自分よりも上手にやっている人が少なからず見つかるはず。人によって得意不得意はあると思いますが、やり方を真似たり、教えてもらったりして日常的に高めていくことが可能なスキルです。

安定を実現するために
~具体的に考える~

今回は正社員をキーワードに安定について考えてみました。転職のご相談をうかがっていると「正社員」と「安定」を結びつけて考える人が多いように思いますが、正社員になりさえすれば「安定」というわけではないということも同様に転職のご相談をうかがう中で痛感させられます。正社員として安定して働き続けるためにも、辞めずに長く働くための工夫やいざという時に求められる人材であり続けるための努力が必要なのです。だから、正社員という雇用形態にとらわれ過ぎないように、「安定」して働くために必要なことを考えてみてください。人によって必要なことは違うはず。自分にとって「安定」とはどういう状態なのか、何が必要なのか。目指す場所が具体的であれば、どのように行動すれば良いか考えやすく、実現に向けて歩むことができます。でも、何を目指しているのか漠然とした状態では、そこへ至る道が見えないため実現するのはとても難しいものです。あなたにとっての「安定」を実現するために、具体的に言葉にしてみてほしいと思います。次回は転職をキーワードに安定について考えてみます。

KOTORA

KOTORA

キャリアコンサルタント。博士(理学)。生物系で博士号取得後、ポスドク、大学非常勤講師などの職を経てから民間企業の非研究職へキャリアチェンジし、人材会社の中の人10年超。主に理系求職者のキャリア相談・求人紹介を担当。現在はメーカー人事に勤務。これまでに自身も派遣社員・契約社員・正社員と多様な雇用形態を経験し、担当した業務は大学での生物学の講義・実験補助・就活生向けキャリアセミナー、人材会社でのキャリアアドバイザー・人材育成など幅広い。「人材会社の中の人」「人材サービスの利用者」の両方の立場を経験した人として、文系理系問わずキャリア選択をサポートする活動をしている。 twitter:@KOTORA_CC