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理学博士KOTORAのキャリア相談室 〜派遣で働くことを選ぶなら〜

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人材会社で働いた10年ちょっとのうち、半分ほどの期間は研究開発関連の派遣求人を扱い、派遣で働く主に理系の人のキャリアをサポートしていました。研究開発関連職で働く派遣労働者の相談を受けていると、派遣就業に対する世間のイメージと現実には大きなギャップがあると実感します。研究開発関連職の派遣求人は事務職に比べて時間給が高く、付加価値の高いスキルがあれば生活するのに十分な収入を得られます。一方で、理系・栄養系出身なら未経験から挑戦できる求人も多く、新たなスキルを身につけたり業務の幅を広げるのに好都合です。私自身、体調に不安があって正社員で働く自信がなかったときに実験職の派遣就業を選んだ経験があり、働く立場として派遣の使い方があるように思います。

今回は、どんな理由で派遣を選ぶ人がいるのか、派遣で何を得ているのか、派遣を選ぶことのリスク・デメリット等を見ながら、派遣で働くことについて考えてみます。

 

派遣を選ぶとき:1.条件で選ぶ

私がサポートしていた主に理系の派遣労働者・派遣就業希望者が派遣を選ぶ理由は、派遣で経験を積んで正社員を目指したい、働く条件に制約がある、いろいろな職種や職場を経験したい・・・などさまざまでしたが、いちばん多かったのは働く条件に制約がある人で、その多くが女性でした。

小さい子がいればフルタイムでも残業なしでお迎えに行く必要があり、土日の出勤には対応できないことが多いです。これは親なら誰もが同じ立場なので、父親も子育てにともなう負担を分担すれば、2人とも正社員として働くことができ、実際にそういう夫婦も増えてきました。女性が出産前から正社員で働き続けていれば復帰して続けることができる会社も増えています。ただ、結婚や出産のタイミングで正社員を退職し、家事や子育ての負担を主に女性が担っている場合には、子育てしながら残業・土日出勤なしの条件で正社員を探すのはとても難しい現実もあります。さらに配偶者に数年に1度、転居を伴う転勤がある場合、女性が仕事を辞めてついていくことがいまだに多いのが現実です。

このような場合に派遣が好都合となります。フルタイムの派遣求人は社保完備で残業・土日出勤なしの求人が多いので、小さい子を育てながら無理なく働けます。契約は3ヶ月更新が多いので配偶者の転勤が決まった時点で次回の更新をしないと申し出ればスムーズに辞めることができます。登録している派遣会社が転居先にも拠点を持っていれば、転居後にすぐ働き始めることができるように求人を探してくれます。配偶者の転勤等で転職しなければならないときにもすぐに仕事を見つけられるように、そして待遇の良い仕事を選べるように付加価値の高いスキルを身に付けたいとか、子供が大きくなったら正社員へ転職できるように派遣の間にスキルアップしたいという相談を受けることが多く、希望に合う就業先を探して紹介していました。

また、他にやりたいことがある人も働く条件に自ら制約を設けて派遣を選んでいました。例えば起業のために準備している人。起業前は夕方や土日は勉強会や準備で忙しく、残業や土日出勤には対応したくない。でも、準備中も新しい事業を始めてからも軌道に乗るまでの間は安定した収入を確保したいという希望がある人。他にも、弁理士のようにかなり勉強しなければ取れない資格取得を目指している人や公務員試験を受けている人もいました。派遣就業であれば、勉強の時間を確保しながら、生活に必要な収入を得られますし、目標達成後のことを考えると正社員で長く1社で働くことは考えられないというのが派遣を選ぶ理由でした。

 

派遣を選ぶとき:2.スキル・経験のために選ぶ

もちろん派遣を選ぶ人の中には「本当は正社員で働きたいけれど、希望の仕事に中途採用されるだけの経験が足りないから派遣で経験を積みたい」という人もいます。特に理系出身の人に多かったのは、新卒の就活で決まった事務職や営業職などの職種で正社員として働いていたけれど、もっと理系の経験を直接的にいかせる研究開発職で働きたい、実験職のような手を動かす仕事をしたいと考えて派遣を希望する人です。研究開発職で働いたことがない状態では中途採用でいきなり研究開発職へ応募してもなかなか通りません。自分でも本当に研究開発職が合っているのか、自分が思い描いているような仕事なのかわからないから経験してみたいという人もいます。

「希望の仕事に就く」という目標がはっきりしている人は、派遣で習得したいスキルや経験が明確なので、時間給や通勤よりも業務内容を選んで就業していました。例えば、化学系出身で高分子の有機合成経験がある人が医薬品原薬のような低分子有機化合物の研究開発職に就きたい場合。例えば、栄養系出身で実習で菌検査や遺伝子検査の経験がある人が再生医療の現場で細胞培養の仕事をしたい場合。いずれも正社員という雇用形態での転職を実現するのはとても難しい希望ですが、派遣ならスキルアップしながら目標へ向かって経験を積んでいくことが可能です。栄養系出身の経験をいかして、菌検査・遺伝子検査→ガン細胞等扱いやすい細胞の培養→iPSやESのような幹細胞培養と順番にそれぞれ数年ずつ就業して経験を積みながらステップアップし、再生医療の現場で働く人もいるのです。派遣で実務経験を積んだあと、希望の仕事の直接雇用のポストを得た人も大勢います。

そして、ESやiPS等の幹細胞培養、生体試料の微量成分分析、医薬品候補化合物の有機合成、メディカルライティングなど付加価値の高いスキルを身につけた人の中には、高い時間給で給与を確保しながら派遣で働くことを積極的に選んでいる人がいます。派遣なら残業や土日出勤がない仕事、転勤がない仕事を選べるからです。ずっと派遣で働いていきたいから、高いスキルが身につく職場へ数年ごとに転職しながらスキルアップしていく人もいます。付加価値の高いスキルがあれば、子育てや介護で一時的に仕事を中断しても、仕事に復帰したいと思ったときに希望に合う仕事を見つけやすくなります。実際、派遣を担当していたときには数年から10年くらいの期間仕事をしていなかった人をサポートする機会がとても多く、特に上記のような付加価値の高いスキルを持っている人は、職歴にブランクがあっても給与等条件の良い複数の求人から就業先を選ぶことが可能でした。

 

派遣を選ぶとき:3.仕事復帰のリハビリとして選ぶ

長く働けない・働かない期間があった後の仕事復帰で働く人には派遣就業をおすすめしています。例えば専業主婦をしていたとか、介護で仕事をしない期間があったとか、前職を体調不良で退職してしばらく療養していたとか。長期で仕事を休んでいた人の中には、フルタイムで働きたい・働けるようになったけど自信がないという人も多いでしょう。業務範囲が限定的で、残業・土日出勤がない、自宅から近くて通勤の負担も軽い、将来的に転勤もない、そういう条件で健康保険や厚生年金に加入できるフルタイムの仕事を探してみると、正社員求人はほとんど見つかりませんが、派遣求人なら複数見つかる場合が多いのです。

正社員の中途採用は派遣に比べると最初から高い給与を提示されますが、当然ながら即戦力としての成果と長期的に働くことを求められます。そこに応えられるだけの自信があれば良いのですが、ないなら派遣就業をリハビリとして選ぶことも考えてみてください。派遣先企業がいくら長期就業を希望していても、契約が3ヶ月更新である限り3ヶ月より先のことは約束されていません。もちろん、3ヶ月更新制の派遣であっても職歴として次に繋がるように年単位での就業をした方が良いのは間違いありません。それでも、体力や業務に自信がないときに「成果を出さなければ」「長く勤めなければ」と自分を追い込むよりも「まずは3ヶ月がんばってみよう」と期間を区切れることの精神的な負担の軽さは計り知れません。派遣でフルタイムで就業して毎日きちんと出勤し、任された仕事でこつこつ成果を出して、年単位で働いて自信を取り戻してから、通勤範囲や将来の転勤可能性等の応募条件を広げて待遇の良い正社員に挑戦しても遅くはないでしょう。

 

派遣を選ぶリスク・デメリット

派遣就業は非正規雇用としてネガティブイメージで語られることが多いので、派遣のリスク・デメリットはもう十分に知られていて、ここで書く必要もあまりないと思いますが、少しだけ触れておきます。一番大きなリスクは多くの派遣契約が3ヶ月更新制ということでしょう。先に書いたように3ヶ月更新だから配偶者の転勤について行きやすいなどメリットもあるのですが、一方で、3ヶ月という短い契約を更新しながら働くため、予算や景気の動向で契約が更新されないと仕事を失います。契約更新しながら長く同じ職場で働いてきた多くの派遣労働者が、リーマンショックのときに更新がなくなることで仕事を失い社会的に大きな問題になりました。このころから派遣で働くことのデメリットばかりが注目されるようになったように思います。

派遣のネガティブイメージが強くなるに従って、派遣は正社員になれない人が仕方なく選ぶ仕事、という序列に基づいた言説を目にするようになりました。派遣で働く人を下に見る傾向は「非正規雇用」「正規雇用」という呼び名が一般的になって固定化されたように思います。実際はとても優秀な人が派遣を選ぶ例もたくさんあるのですが、派遣をよく知らない人たちによる派遣へのネガティブイメージは派遣を選ぶことのデメリットになってしまっています。なぜなら、親や友人など親しい人に胸を張って「派遣で働いています」と言いにくい状況が生じているからです。実際、私が派遣就業を選んだ時には親から随分心配されました。親はテレビなどマスコミからのネガティブイメージを刷り込まれていたので、健康保険に入れないのではないか、有給休暇はないのだろう、派遣は職場でいじめられるのだろう・・・などと心配していました。元人材会社の中の人としては、親が思うような「ひどい働き方」の派遣を紹介する仕事を私がしていたと思われていることもショックでしたが、世間ではそんな風に思われているのか、と驚きました。

基本的に派遣就業はフルタイムなら健康保険、厚生年金完備ですし、契約を更新しながらでも半年以上働けば有給休暇も取得できます。派遣だからといじめられるような職場はないとは言いませんが、決して多くはありません。少なくとも私がサポートしてきた派遣で働く人たちは、目指すものに向かって幸せに働いている人ばかりでした。そして私も派遣を選ぶときには必ず目指すものを決めて、仕事を選んで、幸せに働いていました。確かに待遇は良くないとは思います。担っている仕事の割に給与が少ない。ただ、この点は働き方改革の一環として2020年4月から「同一労働同一賃金」が施行されたので、今後派遣労働者の待遇が改善されることを大いに期待しています。

 

派遣をうまく使う

派遣を選ぶ理由をいろいろと見てきましたが、どんな理由で選ぶときにも、その仕事で自分が何を得たいのか明確にしておいた方が良いと思います。起業予定でも、配偶者転勤についていく予定でも、仕事復帰のリハビリのつもりでも、どうせ短い期間しか働かないからなんでもいい、という選び方ではキャリアとしてもったいない。予定は未定だから思っていたよりずっと長く働くかもしれません。現在の状況と照らし合わせて無理のない範囲で、できるだけ経験や知識が広がる仕事、少し違う分野の仕事やレベルの高い仕事に挑戦しておけば、将来のキャリアの可能性は確実に広がります。派遣就業であっても、その職歴や経験は次の転職のときの武器になります。戦える武器をどう作っていくかは自分で決めていくしかありません。積極的に派遣を選ぶときにも、止むを得ず派遣を選ばなければならないときにも、自分のキャリアは自分で作る、という気持ちを忘れずに、手元にある選択肢の中でベストな選択は何かを考えていきましょう。

ミニコラム
ちなみに、私が10年ほど前に体調を崩して正社員を辞めたあと、仕事復帰に選んだ派遣のお仕事は3ヶ月の期間限定、週2日午後だけの実験補助職でした。当時は体調が不安定で長期で働く自信がなかったので期間限定。フルタイムは難しかったので週2日。ポスドク経験はありましたが、自分で研究するわけではない実験補助職は初めて。契約をきちんと守って働ける範囲で、少しでも収入を得ながら、社会とつながりながら、実験職で働くってどんなイメージか知りたい、という気持ちにぴったりの求人が見つかったので選びました。結果は大正解。この就業のおかげで実験職の業務イメージが具体的になり、私は実験系よりも人事系の仕事をしていきたいということがわかりました。それでも職場では良い評価をいただいて正社員退職後の自信喪失状態から回復できました。同僚や上司はとても良い方ばかりに恵まれて、たった3ヶ月週2日の就業だったのに、今でも互いに連絡を取り合っていて時々は集まって近況報告をしながら食事をする関係性が続いています。そして、この派遣就業の間に体調が安定してフルタイムで働く自信を取り戻したので就職活動を再開。新たな会社でフルタイムの契約社員に採用され、約2年後に正社員登用されました。派遣就業って悪くないな、という印象を持っているのはこの経験が大きいように思います。でも、くれぐれも体調が悪い時には無理をしないでくださいね。派遣就業でも契約を守ることは大事。働く自信を取り戻すためには、契約通りに休まず働けることが大前提です。通院している人は医師とよく相談して無理のない範囲での仕事復帰を考えてください。

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著者プロフィール:

KOTORA

キャリアコンサルタント。博士(理学)。生物系で博士号取得後、ポスドク、大学非常勤講師などの職を経てから民間企業の非研究職へキャリアチェンジし、人材会社の中の人10年超。主に理系求職者のキャリア相談・求人紹介を担当。現在はメーカー人事に勤務。これまでに自身も派遣社員・契約社員・正社員と多様な雇用形態を経験し、担当した業務は大学での生物学の講義・実験補助・就活生向けキャリアセミナー、人材会社でのキャリアアドバイザー・人材育成など幅広い。「人材会社の中の人」「人材サービスの利用者」の両方の立場を経験した人として、文系理系問わずキャリア選択をサポートする活動をしている。 twitter:@KOTORA_CC

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