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酵素のチカラで食器洗いをラクにする! ライオン「Magica 酵素+」─あの製品はこうして生まれた! 研究開発エピソード

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定番商品から画期的な新製品まで──実際に開発に携わった方に、製品の特性や開発時のエピソード、研究開発職を目指す方へのアドバイスを伺う本企画。
今回は、ライオン株式会社にお邪魔し、台所用洗剤「Magica 酵素+」開発チームの森山洋匡さん(院卒・入社10年目)にお話を伺いました。

Magica 酵素+
高い洗浄力が人気の「Magica」シリーズから、2019年2月に新発売された製品。Magicaの特長である油汚れが「サラサラ落ちる」“ナノ洗浄”に、酵素の力がプラス。「ほったらかし洗い(つけおき)」をすることでこびりつき汚れを細かく分解し、ごはん粒やカレー、グラタンなどの手ごわい汚れも軽くこするだけでラクに落とせる。
https://magica.lion.co.jp/product/kouso.htm

 

台所用洗剤では難しかった「界面活性剤」と「酵素」の共存を実現

 
──商品のコンセプトにもなっている「ほったらかし洗い」とは、いったい何ですか?

手ごわい“こびりつき汚れ”が付いた鍋や食器などを、洗剤液につけ置きしておくだけで、するっと簡単に汚れを落とすことができる「Magica 酵素+」を使った食器洗いの方法です。

これまで、食器洗いについて「こびりつき汚れをスポンジでゴシゴシしてもなかなか落ちない」といった声をお客さまからいただいていました。これが食器洗いを「面倒くさい」と感じさせる大きな要因となっていたのです。

Magicaシリーズは、もともと「ゴシゴシこする負担を減らしたい」という思いのもと「ナノ洗浄(※)」による高い洗浄力を実現してきました。ナノ洗浄では、特に油汚れを楽に落とせるという点に注力してきましたが、今回はその技術力を基盤として、さらに「こびりつき汚れ」にも着目。食器洗いがもっと楽になる製品として、「Magica 酵素+」を開発しました。

 
──「こびりつき汚れ」とは、具体的にどんな汚れのことなのですか?

主に、タンパク質やでんぷんによる汚れのことです。ごはん粒やカレー、グラタンなどの手ごわい汚れを思い浮かべてもらえればと思います。
(*焦げつきは含みません)

 
──確かに、今挙げていただいた汚れはすぐにガビガビになってしまって落とすのに苦労します。そこで「酵素」に着目したのはどうしてだったのでしょうか?

ライオンでは、衣類用の洗剤や自動食洗機用洗剤などに酵素を活用してきており、酵素が特にタンパク質やでんぷんの汚れを落とすのに有効であることが分かっていました。しかし、台所用洗剤に酵素を取り入れるには難しい理由があって、これまでは使われてこなかったんです。

 
──技術の基盤があるライオンさんですら台所用洗剤に酵素を取り入れるのが難しかったのは、なぜですか?

台所用洗剤の主成分である洗浄成分「界面活性剤」が、酵素を失活させてしまうためです。簡単にいうと、界面活性剤が酵素を攻撃してしまい、酵素の特異的な働きを発現するのに重要な立体構造が崩れてしまったり、機能を発揮する部分を隠してしまったりして、酵素本来の力を出せなくなってしまうことがあります。

そのため、「Magica 酵素+」の開発では、酵素が機能を失わないように、組成全体を少しずつ調整して最適な配合バランスを見つけることが大きな課題でした。当社では長年にわたって基礎研究も行われているため、酵素に関する知見が蓄積されていたこと、そして性能の良い酵素を提供してくださるパートナー企業の協力により、実現することができました。

 
──ぴったりの配合を見つけるまでの道のりはどんなものだったのでしょうか?

酵素を安定化させるというのが一番の課題だったので、社内の知見や、公にされている論文や報告書などを集めて使えそうな材料の見当をある程度つけながら、ひたすら効果を試していきました。開発初期は、100〜200mlほどの量で配合を試しながら、微調整を繰り返して、方向性が少しずつ固まっていくと数リットルにスケールを上げて検証していきます。配合の検討にいちばん集中していた2〜3ヶ月間は、一日中実験台に向き合って、ビーカーで混ぜては、評価し、結果を見てはまた配合を考えて…という日々を過ごしていました。今回の開発では、すべて合わせると2500通りほどの配合を試しました。

 
──2500通り…! 気が遠くなるような数字です。そんなにも試して、反対にどの候補を採用するか悩んだりはしなかったのですか?

それが、酵素を安定化させられる配合パターンは本当に数通りしか残らなかったんです。香りや色味なども含め、製品としてすべてを成り立たせられる組み合わせを見つけるのはとても難しくて。どれにしようか迷うというようなことはありませんでした。

 
──それほど、酵素が力を発揮できる洗剤を作るためにはジャストの組み合わせでないとダメだったということですね。難しいわけです…。

そうなんです。安定化に有効な補助剤のようなものを発見することもそうですし、その量や、ほかの成分とのバランスなども含めると、最終的にはこの組み合わせがぴったりということになりました。

 
──ぴったりの配合を決められたときはどんな気持ちでしたか?

もちろん嬉しい気持ちはありますが、配合を決められた時点では開発が完了したわけではないので、そこで落ち着くというようなこともあまりなくて。ビーカーでうまく作れたものも、スケールが変わるとうまくいかないこともありますし、工場で生産するうえでの課題も出てくる可能性がありました。その後の段階に備えていろいろな手順を進める必要があったり、準備が続いていたので、ずっと走り続けていたという記憶が強いですね。

 
〈Magica 酵素+の「ほったらかし洗い」実験!〉

手ごわいこびりつき汚れに「Magica 酵素+」をかける。今回のサンプルはカレー。
(※ほったらかし洗いをする時は、汚れに直接「Magica酵素+」をかけてから水につけると、より効果的とのことです。)

水につけて「ほったらかし」。右が「Magica 酵素+」、左が同社従来洗剤を使用。

少し経つと、「酵素+」をつけたほうの汚れが徐々に剥がれてきた!

比べてみると一目瞭然。
そして、両方の鍋を水の中で一振りしてみると…

「Magica 酵素+」のほうは汚れが一瞬で落ちた!

「Magica 酵素+」でほったらかし洗いした方は、一振りしただけでほとんどの汚れが落ちた。水が濁っているのは、汚れが水に細かく分散されたから。

 

食器洗いをラクにして、趣味や家族との楽しい時間を増やしたい

 
──森山さん個人として印象に残っている開発中のできごとはありますか?

たくさん試作を重ねるうえで、割と初期の段階で見定められていた方向性があったのですが、それが途中で「やっぱりダメだ」ということになったんです。酵素の安定性についてはある程度のレベルまで高めることができていたものの、そのほかの性能との両立がちょっとうまくいかなくて。そのときは「あ〜…」とがっかりしたこともありましたが、次に進めていた検討の中から候補が見つかって、なんとか今の形につなげることができました。

それから、さまざまな使用環境下でもきちんと性能を発揮できるようにケアしているのもこだわったポイントです。

 
──どんなことを想定されたのですか?

たとえば、日本の四季による温度変化ですと、冬場はマイナスになることもあれば、夏場は場所によっては40℃以上の高温になることもあります。洗剤を使うとき、引き出しに保管するときなどのいろいろな環境や温度変化を想定して、機能や匂いなど、物性や性能を評価していきました。酵素の安定化はデリケートなので、高温な環境に長期間置いておくと機能が失われてしまう心配がありました。だからこそ、きちんと性能を発揮できるかの検証はとても重要でした。

 
──どうやって検証を進めたのでしょうか?

生活者のみなさんに実際に使っていただく期間を想定して、数ヶ月間保存してからもしっかりとパフォーマンスを発揮できるか確認します。ある程度過酷な環境下で試してみることで保存時に起こりうる変化を進みやすくし、できるだけ早く傾向を見定められるようにするなど、検証方法にも工夫をしています。

 
──発売されてからの手応えはいかがですか?

発売されてからも私自身はまだちょっとどきどきしているのですが、「こびりついて苦労していた汚れが楽にとれました」などの声をいただくことがあったり、身近な人が使ってくれて「ゴシゴシこすらなくても落ちるようになったよ」などと言ってもらえることがあって、非常にうれしく思っています。

私たちは、「Magica 酵素+」を使って「ほったらかし洗い」で楽に食器洗いができるようになることで、趣味や家族との時間などのポジティブで楽しい時間を増やしていただきたいなと思っています。また、誰が洗っても汚れがきれいに落ちるので、夫婦間での家事のシェアがもっとスムーズになったり、お子さんにもお手伝いしてもらいやすくなったり…家族みんなで前向きに家事をできるようにな暮らしにも「Magica 酵素+」が貢献していってくれると期待しています。

私自身も、「ほったらかし洗い」をしている間に子どもと遊ぶ時間をとれたり、子どもが「やってみたい」と言ってくれたときにも少ない力で汚れが簡単に落ちるので、手伝ってもらいやすくなったりしていることを実感しているところです。

 

新設ラボでの試行錯誤が、現在の糧になっている

 
──学生時代はどんな研究をされていたのですか?

大学・大学院では、基礎工学部で高分子という素材の研究をしていました。その中でも特に、再生医療に活用される高分子を研究対象にしていました。温度によって性質が変わる「温度応答性高分子」と呼ばれるもので、温度が高くなると水に溶けにくく、低くなると溶けやすい、という性質を持っています。これを活用することで、生理活性物質という体内で役に立つ、薬にもなる成分をうまく抽出できるようになります。

高分子という素材は、いろいろな製品に使われる材料で、洗剤にも使われます。そのため、テーマとしては直結していなくても、基本的な素材の概念や特性を学生時代に学んできたことは現在の研究開発の仕事にも活きていると感じています。

 
──そのほかに学生時代の経験が活きていると感じることはありますか?

私が所属していたのは比較的若い研究室で、先輩が1学年上にしかいませんでした。今思うとそのおかげで、自分で研究の進め方を考えたり、人数が少ないからこそ教授との距離も近く、直接ディスカッションさせてもらえる機会にも恵まれていました。一般的に、企業での研究はスピード感が求められるので、学生時代に自律的に研究を計画し、進める訓練ができていたことは、今とても役立っています。

また、私は今入社10年目で後輩もどんどん増えてきていますが、後輩から相談を受けて一緒に考える際にも、学生時代に後輩と接する機会が多かったことが活きているのではと思います。

△「製品が完成して発売されても、実際に使った生活者の方々の満足の声が届くまではほっとできませんね」と森山さん。使う人への想いが、より良い製品の開発につながる。

 

研究に行き詰まったら、身体を動かしてみて

 
──森山さんは、スポーツがご趣味だと聞きました。研究の息抜きに身体を動かすこともあるのでしょうか?

そうですね、私は高校までサッカー部に所属していて、大学ではフットサルをやっていました。今でもときどきサッカーをしたり、ランニングをするのが好きで。身体を動かすことで気分を切り替えられたり、頭がすっきりして状況整理がはかどったり、アイディアが浮かぶこともあるので、良い気分転換になっています。みなさんも、研究やお仕事に行き詰まることがあったら、身体を動かしてみると良いと思いますよ。

それと、日ごろからさまざまな情報を拾うといううえでも、自分の趣味を大切にすることは必要だと思います。私にとってはスポーツがそのひとつですし、ほかにも学生時代に大学の垣根を越えて同じ研究分野の仲間と交流を持ったりもしていました。こういった経験が、会社での人との関わりもスムーズにしてくれている部分があると感じています。なにごとも、きっと将来の自分に活きることがあるはずなので、無駄なことはありません。研究に全力で取り組むことはもちろん、いろいろなものに目を向けながら過ごすと良いのではないでしょうか。

 

まとめ

台所用洗剤では、これまで実現が難しかった「界面活性剤」と「酵素」の共存。ついに製品化できたのは、長年「洗剤」の開発や基礎研究を続けてきたライオンの技術力と、限られた期間でぴったりの配合を見つけ出すための努力と集中力、そして「食器洗いをラクにして、楽しい時間を増やしてほしい」という想いだったのですね。

「ほったらかし洗い」の実験で、実際にこびりつき汚れが簡単に落ちる様子は、衝撃的でとっても気持ちが良かったです。

そして、スポーツを気分転換にされていたり、学生時代から積極的に人と関わったり、後輩に頼られてきた経験が森山さんのお人柄や明るい表情にも表れているようでした。とっても爽やかな笑顔でわかりやすくお話してくださり、ありがとうございました!

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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