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新入社員が開発!苦手なくすりを楽しく飲める服薬補助食品 「おくすりパクッとねるねる」の開発秘話に迫る│リケラボ

新入社員が開発! 苦手な薬を楽しく飲める服薬補助食品 「おくすりパクッとねるねる」の開発秘話に迫る

あの製品はこうして生まれた!研究開発エピソード クラシエ株式会社

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2023年10月にクラシエ株式会社から発売された「おくすりパクッとねるねる」は、苦い粉薬を子どもが楽しみながら飲めるようにした服薬補助食品です。ふわふわなねるねる(泡沫)が薬を包みこんで、苦味や嫌なにおいを感じにくくし、苦手な服薬タイムを楽しい時間に変えてくれます。知育菓子®「ねるねるねるね」の性質を生かしたこの服薬補助食品の商品開発を任されたのは、当時新入社員の瀧川雄太さん。同商品のプロモーション戦略を主導したマーケティング室の木下優さんとともに、服薬補助食品というクラシエにとって新しい領域に足を踏み入れ、商品として世に送り出すまでのストーリーを伺いました。

瀧川 雄太さん:博士課程修了後、クラシエ株式会社入社。フーズカンパニー食品研究所に配属。「おくすりパクッとねるねる」の開発に携わる。現在はR&D本部ウェルビーイングリサーチセンターを兼務。
画像提供:クラシエ株式会社

木下 優さん:学生時代の専攻は食品栄養学。クラシエフーズ販売株式会社入社後営業職を経て2020年にマーケティング室へ異動。さまざまな知育菓子®の開発を経て現ねるねるねるねブランド開発担当
画像提供:クラシエ株式会社

「はじめての研究テーマ」として挑んだ服薬補助食品の開発

── あの「ねるねるねるね」で苦手な薬が楽しく飲める、なんて画期的な製品だと感動しました。どのような経緯で開発されたのでしょうか。

瀧川 のちに共同研究を行うことになる国立成育医療研究センターの薬剤師の方から、クラシエ薬品のMR(医薬情報担当者)に服薬補助食品開発のアイディアをいただき、フーズ部門にその話を連携してくれたことがきっかけです。私は20204月に入社し、食品研究所に配属されました。当社では新しく入った研究員にははじめの半年間、各々に研究テーマが与えられるのですが、私に与えられたテーマが「ねるねるねるね」の性質を生かしてこの服薬補助食品の開発を行うというものでした。

── 入社早々、看板商品+新領域という非常に期待値の高いテーマを任されたようにお見受けします。

瀧川 難題だとは思いました(笑)。私は保健学の専攻で、当時、薬学的な知識も経験もほとんどありませんでした。さらに配属されたのは食品研究所でしたので先輩方も薬を扱った経験はありません。入社したてで知育菓子®の「ねるねるねるね」のつくり方も知りませんでしたから、正直に言うと「どうしよう、困ったな」と。暗中模索からのスタートでした。

── どのように最初の1歩を進められたのですか?

瀧川 まず「ねるねるねるね」の特性を服薬補助食品に活かすにあたって残すべき「らしさ」とは何かから考えました。「ねるねるねるね」は2つの袋を順に容器に入れ、スプーンで混ぜながらつくっていくと膨らんで色が変わるというその過程が楽しい知育菓子®です。その「変化」と「楽しさ」は絶対に残したい。一方で、薬を飲むという目的にかなうものにする必要がある。なるべく簡便にするため、2つの粉ではなく1つの粉で膨らませるチャレンジをすることにしました。

画像提供:クラシエ株式会社

── 難しかった点はありますか?

瀧川 1つの粉で、2つの粉で作った時に近いふくらみの速度や加減に調整するのは非常に大変でしたが、どうしても「ねるねるねるね」をベースにつくることにはこだわりたかったので、原料の成分やサイズの試行錯誤を重ね、試作品を完成させました。溶出試験の試験法や評価までを約半年間の見習い研究の期間中に何とかめどをつけて、国立成育医療研究センターに報告に行きました。商品化の可能性が高まり、より服薬補助に適した品質を追求するべく、共同研究を始める流れとなりました。

食品だが医薬品としての評価が必要

画像提供:クラシエ株式会社

── 本格的な開発プロセスに入った後はどんな感じでしたか?

瀧川 とても大変でした!(笑)

── どういったことが特に大変でしたか?

瀧川 溶出試験といって、薬剤がどれだけの速さで溶けるかを評価する試験にとても苦労しました。薬を包む「ねるねるねるね」によって、有効成分の溶出が妨げられないことを試験によって実証するのです。医薬品としての評価を行わなければならないのですが、「ねるねるねるね」は通常の薬にはない形状ですので既存の試験方法が適用できません。新たな試験法を編み出す必要がありました。溶出試験ですので液体に沈めて溶ける時間を測るのですが、空気を多量に含んだふわふわの泡ですので、水に浮いてしまう。どうしたら沈めることができるか、いろいろな方に助言をいただきながら、最終的には円盤状のメッシュの周囲におもりをつけて一緒に沈めるという方法を独自に考え、特許も取得しました。大学院時代に分析研究を結構やりこんでいた経験が活きたと思っています。

もう1つ非常に苦労したのは、アレルゲンとなる素材を使用しないという条件でした。「ねるねるねるね」は発売当初より卵を使っているのですが、服薬補助食品ではアレルゲンとなる素材を使用せず、より多くのお子様が服用できることを目指しました。卵原料をどのように代替させたらいいか、かなり頭を抱えました。とにかく色々と試してみるなかで、あまり期待せずに試したものが当たり、アレルギー物質不使用という条件をクリアすることができました。この配合については、すみません企業秘密なので詳しくお話はできないのですが(笑)、会社として持っていたそれまでの蓄積があったからこそ見つけられたものでもあるので、偶然とはいえなるべくしてなった結果でもあり、今回の開発で一番頑張ったポイントでもあります。

── 今回共同研究ということでしたが、研究を通じて得られた学びや経験にはどんなことがありましたか?

瀧川 研究の仕事はともすればひとりの世界にこもりがちになってしまいがちですが、国立成育医療研究センターの専門知識を持った方々とディスカッションをする機会が多くあったことで、普段使わない筋肉を使うような発想の広がりを感じることができました。また学会での発表や論文にまとめることも助言いただき、商品をつくる以外に、学術的な切り口での成果の出し方もあるのか、という気付きを得ることができました。

楽しさと安心感を込めたパッケージデザイン

画像提供:クラシエ株式会社

── 続いて、マーケティング室所属の木下優さんにお話を伺いたいと思います。

木下 私は「ねるねるねるね」シリーズ全体のブランディングを担当しているのですが、「ねるねるねるね」を活用した服薬補助食品を開発するという話が決定したタイミングから、マーケティング担当として子どもに人気の味を選んだり、パッケージをデザインしたりするなどの面で携わっています。

── プロジェクトの初期から関わっておいでだったのですね。

木下 そうですね。例えば研究所に作っていただいた試作品で実際にどれが一番薬の苦味を感じにくくなっているかといった官能評価にも参加しましたし、あとは味についても、お菓子の方の「ねるねるねるね」で既に発売をしているブドウ味やソーダ味ではなく、服薬のときにしか楽しめない特別な味にした方がいいのではないかというマーケティングの目線から、子どもが好む味の調査結果とあわせて、メロンソーダ味、イチゴ味という2種を提案させていただきました。

── パッケージについては、どのようなコンセプトでデザインされましたか?

木下 「ねるねるねるね」はつくる過程が楽しい知育菓子®ですが、「おくすりパクッとねるねる」は服薬補助食品なので、楽しさに加えて安心感を与えることが必要だと考えました。まず、何のための商品かということを明確にするために、右上に「服薬補助」と大きく記載しました。さらに、「ねるねるねるね」は売り場で目立つようにビビッドな色を使ってデザインしていますが、「おくすりパクッとねるねる」は安心感を与えるパステル調の淡い色合いにしています。また、使用方法についても、お菓子では裏面に表示しますが、正面に2つのワイプで大きく示し、「簡単につくれる」という使いやすさのアピールや使用シーンをイメージしやすくしました。国立成育医療研究センターとの共同研究で生まれた商品であることもユーザーの安心材料になると考え、記載しています。

画像提供:クラシエ株式会社

── 「ねるねるね」は1986年に発売されたロングセラー商品です。「おくすりパクッとねるねる」を購入する保護者も、子どもの頃に「ねるねるねるね」をつくって食べた世代かもしれませんね。

木下 はい。商品を購入いただく保護者世代の方々には、「ねるねるねるね」を子どもの頃に経験された方が多くおられると思います。実は、「おくすりパクッとねるねる」は202212月にテスト販売を行い、202310月に本発売を開始したのですが、本発売のタイミングでデザインを少し変えています。テスト販売の際には「ねるねる」ロゴの文字はピンクと黄色でしたが、親御さんもお子様も「ねるねるねるね」の楽しさを知っていて、好きな気持ちや安心感があるから購買につながっているということがアンケートから分かったため、本販売にあわせて「ねるねる」ロゴの色を「ねるねるねるね」メインフレーバーのブドウ味で使われている緑色と黄色に変え、サイズも大きくしました。

食品開発とマーケティング。それぞれの仕事は、どんな人が向いていますか? 学生へのメッセージ

── 瀧川さんは、今の仕事に就くために役立ったと感じる学生時代の経験や学びはありますか?

瀧川 私にとってターニングポイントだったのは、ドクター進学でした。修士課程で教わった教授が厳しくも愛情にあふれた素晴らしい方で、この先生のもとでさらに研究能力を身につけたいと思ったのがドクターに進学した理由のひとつです。その時は進路については特に決めていなくて、3年間、分析化学、特に疾患に関係するような生体分子などの分析をみっちりとやりました。「おくすりパクッとねるねる」の開発中、全てが手探りというなかでも最終的に自分で正しいと思った考えや判断を貫くことができたのは、ドクターコースで厳しい先生のもとで納得いくまで研究に取り組んだことが大きかったと思います。

画像提供:クラシエ株式会社

── 食品会社の研究職に就くためにはどのような心がけで学生時代を過ごすとよいでしょうか?

瀧川 学部生のときは、医学部保健学科で臨床検査技師資格を取得するコースで学び、将来は病院で仕事をするつもりでいました。次第に「何か違う」と思うようになり最終的にドクターまでいったのですが、その過程で気が付いたことは、自分がやりたいのは、病気になる人を減らしたいということでした。病気にならないために大切なのは日々の食べ物だということで、食品業界への就職を希望したという経緯です。そういう私から学生さんへ言えることは、迷うことがあったら大変そうな道を選んでほしい、ということです。高校→大学→大学院・・・と人生が進んで専門的になっていくほど自分の道が狭まってくることも事実ですが、自分の可能性を広げていく努力を諦めないでいてほしいなと思います。

── 食品の研究開発はどんな人が向いていると思いますか?

瀧川 できなかったことをできるようにするのが研究開発の仕事だと考えています。ですから、すぐにあきらめない人が向いているというか、難しいことを楽しみながら考え続けられる人、そういう方と一緒に仕事ができたらお互いにいい刺激を与えあい楽しく働けるのではないかなと思います。

── 木下さんにお伺いします。食品会社のマーケティング部門にはどんな人が向いていると思いますか?

画像提供:クラシエ株式会社

木下 自分の軸や意志を強く持っている人ですね。マーケティングの仕事は、担当する商品やブランドのことを一人でも多くのユーザーに知ってもらい届けるために、一貫した戦略を持って情報を届けることが大切です。また、開発部門や生産部門をはじめ、さまざまな部署の関係者を巻き込みながら進めていく仕事でもあります。他者の意見も受け止め参考にしながらも、目的達成にむけた自分の意志をぶれずに持っていなければ企画を推進していくことはできません。

あと、もっとも心がけているのは、エンドユーザーの反応をよく見ること、つまりいつも消費者の目線で考えるということです。今回の「おくすりパクッとねるねる」は、苦手だったお薬を楽しく前向きに服薬できるようになるというところで、お子さま自身が主体的に服薬でき、服薬できたことで達成感を得られ、嬉しくなる商品ではないかと思っています。通常の知育菓子®とは異なるルートを開拓したりする大変さもありましたが、全てにおいて実際に購入していただく保護者や、服用するお子さまの目線という一貫した軸をもって取り組めたと思います。

── 木下さんから学生さんへのメッセージをお願いします。

木下 学生のうちにいろいろなことにチャレンジして、興味を持ったことに積極的にトライし経験値を増やしていただくとよいと思います。あらゆる経験を通して視野が広がり、その中から生涯関わっていきたいと思える自分の好きなことを見つけられると、自分に合う仕事を選ぶことができると思います。

── 今後、お二人はお仕事を通じてどのようなことに挑戦をしていきたいですか。

木下 ゼロから価値を生み出す仕事にチャレンジしたいです。何もかたちがないところから消費者インサイトやニーズを見出し、「ねるねるねるね」のようなロングセラーで長く愛されるような商品ブランドを生み出していきたいです。

瀧川 大学時代にやってきた保健学の基礎研究(病気にならないためのメカニズム)を最大限に活用して、最終的に世の中のためになる、悩んでいる人が心から笑えるようになる製品を形にできたらいいなと考えています。

「おくすりパクッとねるねる」についてSNSやお客様センターに届く喜びの声を見るととても嬉しく励みになると、お二人。
画像提供:クラシエ株式会社

リケラボ編集部より

薬が苦手で困っている子供さんや親御さんはとても多いと思いますので、そうした子どものためにと、いくつもの壁を乗り越えて製品化してくださったことに、本当に感謝の気持ちがわきました。食品業界の研究職もマーケティング職も、とても人気のある仕事です。お二人の経験を通じて、これらの仕事に必要とされるマインドや心構えを教えていただくことができました。瀧川さん、木下さん、貴重なお話を誠にありがとうございました。これからも世の中のためになる商品やサービスをたくさんつくっていただけるのを楽しみにしております!

リケラボ編集部

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