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3Dプリンタで細胞から血管をつくる!先端技術と“人間の力”の融合で再生医療の未来を切り拓くサイフューズ

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治療法がなかった病気を治せるようになったり、自分の細胞から作った組織を移植できるようになったり……。たくさんの人の夢や希望を背負い、世界中で急ピッチで研究が進められている再生医療。

体細胞・幹細胞を活用した細胞医薬や、シート状の組織はすでにいくつかの製品が実用化されていますが、立体的な器官や臓器の再生は製造の難易度が高く、まだまだ開発途上。多くの研究機関でチャレンジングな研究が続けられています。

今回取材させていただいたサイフューズは、細胞を立体的に積み上げる独自技術を持つ再生医療ベンチャー。

しかも自社開発のバイオ3Dプリンタで、軟骨、血管、神経などを作製し、実用化目前のところまで来ているとのこと!

人体に移植できる組織が、3Dプリンタで作れるようになっているとは……!

代表取締役の秋枝静香さんと、血管プロジェクトを担当する松林久美香さんに、お話を聞きました。

△右:代表取締役の秋枝静香さん 左:血管プロジェクトを担当する松林久美香さん

株式会社サイフューズ
細胞のみで作製した細胞塊(スフェロイド)を細胞版の3Dプリンタで積み重ねて組織を創る独自の技術を有し、病気やケガで機能不全になった組織・臓器の再生や、創薬に使う病態モデル作製の実用化を目指す再生医療ベンチャー。現在、軟骨、血管、神経など複数のパイプライン開発が進んでいるほか、病気のメカニズム解明に用いる病態モデルや新薬の有効性・毒性・代謝などを評価するための細胞製品開発など創薬支援分野における開発にも力を入れている。
https://www.cyfusebio.com/

 

細胞だけ”で立体的な組織を作製。
可能にしたのはバイオロジーとエンジニアリングの融合

──3Dプリンタを使って血管や軟骨、神経などの組織を作れると聞きました。どのような技術なのでしょうか?

秋枝さん: 細胞同士が集まり、くっつくという性質(細胞凝集現象)を利用して、立体的な組織を作製しています。まず初めに1万個程度の細胞を集めた団子(=スフェロイド(細胞塊))を作ります。そしてこの団子を、「Kenzan」と呼ばれる、華道で使う剣山のような土台に積み上げることで、やがて細胞塊同士が融合し、血管などのチューブ状の構造体ができていきます。細胞塊がある程度、一体化したところで剣山から外して、さらに一定期間培養し、強度や機能性を高めます。剣山に細胞塊を積み上げる工程で、当社が開発したバイオ3Dプリンタ「regenova®(レジェノバ)」を使用します。

▽画像タップして拡大

△regenova®で剣山に細胞塊を積み上げているところ。

──血管や神経にもさまざまな太さがあると思いますが、調整できるのでしょうか?

秋枝さん: 作製したいサイズ・形状の3Dデータを装置に入力することと、剣山の針の並び方をアレンジすることで、形や大きさを調整することができます。ちなみに「針に刺す」という仕組みは、当社の創業者でもある、中山功一教授(現 佐賀大学医学部臓器再生医工学講座特任教授)の発想から生まれました。骨折の治療法からヒントを得て、骨がくっつくまでピンとプレートで固めるのと同じように、「細胞同士を仮止めしておいて、融合したら土台から外せばいいのでは」とアイディアが浮かんだそうです。細胞塊は0.5mmほど。当初は手作業でひとつひとつ剣山に積み上げていましたが、何日もかかってしまうため、より速く正確な作業ができるようにと、3Dプリンタを開発しました。3Dプリンタの開発には金沢にある澁谷工業さんという会社がサイフューズの創業前から協力してくださり、現在に至っているので本当に感謝しています。

──サイフューズの組織再生技術が画期的な点はどんなところですか?

秋枝さん:100%“細胞だけ”で立体的な厚みのある大きな組織を作れるという点です。従来の組織再生の研究では、人工的な材料、牛や豚など動物由来の材料(スキャフォールド)を混ぜることが一般的でした。我々の技術では、人工材料を一切使わずに組織を作ることができます。さらにiPS細胞、ES細胞、自家細胞(患者さま本人から採取した体細胞) など多種多様な細胞に対応できるので、患者さまに最適なものを選ぶことで、より「人にやさしい」治療につなげることができます。自家細胞から作った組織(臓器)であれば、拒絶反応の心配もありません。

 

丈夫で安全そして美しい血管を生み出す職人技

──より具体的にイメージするために、血管プロジェクトを担当されている松林さんにもお話を聞いてみたいと思います。 どのようにして血管を作るのですか?

松林さん: まず大量に培養した細胞を1万個ほど融合させて、細胞塊を作ります。その後、3Dプリンタを使って積み上げている間は自動的に進むため、途中経過を監視します。剣山に細胞塊を積み上げる作業自体にかかる時間は半日〜1日ほど。その後剣山から外して、さらに培養します。その間に細胞が成長し、剣山が刺さっていた箇所の穴も埋まります。これを細胞の熟成と呼んでいます。患者さまの細胞をいただいてから、血管の状態にしてお戻しするまでに、だいたい2〜3ヶ月です。ただし、あらかじめ沢山の細胞を準備することができれば、その期間は大きく短縮できます。


──結構長い時間がかかるのですね……! 熟成工程について詳しく教えてください!

松林さん: 3Dプリンタである程度形作った構造体は、剣山から抜いただけではまだしっかりと管の形を保つことができず、強度も足りません。特に血管は、絶対に穴が開いたり詰まったりしてはいけないものです。移植するためには、さらに強度を上げる必要があります。また、今のところ一つの剣山上で作れる血管の長さは3cm弱なので、長い血管が必要な場合は、手作業で連結させていきます。これらが熟成の工程です。

──強い血管を作るためのコツはあるのですか?

松林さん: 培養の方法自体は、培養液の回し方などに工夫を加えているものの、温度やpH、CO2濃度を人間の体内の環境に近づけて保つという、一般的な方法です。心掛けているのは、とにかく自分の娘のように大切に……(笑)。細胞が栄養失調にならないよう、きちんと餌やりをするということでしょうか。

秋枝さん: でもそれって、実はとても大変なことなんですよね。うまく液を回して1分間に何回くらい回転させるのがよいのかを探す、改善する、それでようやく強くてきれいな血管になる。それに、細胞のメンテナンスをするときは、細胞が増えるスピードに合わせて仕事をしなければなりません。どうしても、細胞最優先の生活になるんです。また、空気中のカビ・細菌・ウィルスなどが入らないよう無菌状態で作業をしなければいけませんし、患者さまの細胞なのでミスは絶対に許されません。1つも間違いを起こさないよう常にカメラで記録するなど、作業現場には非常に緊張感があります。

松林さん: はい、細胞に振り回される生活です……(笑)。でも、すくすく育っていくのを見ているとかわいく思えてくるんですよね。

△インタビューを通じて、息の合った掛け合いを見せてくださったお二人。

──「細胞に振り回される生活」……! 激しく共感してくれるバイオ系の読者の方、多いと思います! ちなみに、連結するときのコツはありますか?

松林さん: とても感覚的なことなのですが、細胞の「寄せ具合」が肝になってきます。細胞を並べたときの微妙な力加減の差で隙間が空いてしまったり、構造体同士が重なったりしてしまうんです。つなぎ目がわからないくらい、なめらかに連結できるよう気をつけています。

秋枝さん: 細胞の調合や培地の成分を変えながら最適な培養方法を見つけて、ひとつひとつレシピを作って、連結させる力具合も数をこなして会得していって……ノウハウが全く世の中になかったものを、あらゆる試行錯誤を繰り返して、ゼロからこの美しい血管を創り上げ、ようやく実用化一歩手前の段階まできました。本当に松林さんの努力の賜物です。

 

──3Dプリンタと人の手による繊細な作業、両方があって初めて完成するんですね。

秋枝さん: そうです、一番重要なのは「人」ですね。

△培養中の血管。つなぎ目がほとんど分からない

 

患者さんのために、絶対に妥協できないのは「品質」

──血管作りに携わっていて、喜びを感じるのはどんなときですか?

松林さん: 品質のいい血管が作れたときです。作った血管の端をふさいだ状態で水を限界まで流し込み、破裂するときの圧力を計るという強度試験があって、そこで最高の強度が出たときだったり……それから、ミニブタに移植して血管の機能に問題がないか評価する試験で、数ヶ月後に取り出したときにきれいに残っていたりすると、本当にうれしいですね。ミニブタに移植するときは、いつも嫁に出す気分で「行ってこい……!」と送り出しています。

秋枝さん: せっかく長い時間愛情をこめて作ったものを、強度試験でパーンと破裂させたりしなければならないのは、もどかしい思いもあるかもしれませんが。

(松林さん深く頷く)

しかし、世界で初めてのものだからこそ、どのレベルで「移植OK」とみなすかの基準も自分たちで作っていかなくてはなりません。社外の色々な方にご協力いただきながら「漏れがなく、耐圧性も十分」と自信を持って臨床の先生にお渡しできるよう、品質については非常に厳しく取り組んでいます。

松林さん:糖尿病で週に2,3回透析していると、そこから感染症を起こしたり高血圧になったりして血管がボロボロになってしまいます。そんな患者さまに安心して使っていただける血管を、1日でも早く届けたいと思っています。

 

―――お話を聞くまでは、3Dプリンタと言うメカにばかり注目してしまっていましたが、この血管には、何よりも「患者さんのために」という温かい想いがたくさん詰まっているんですね…!

 

細胞に振り回されて、投げ飛ばされても「楽しい」と思える

──松林さんは、大学で細胞培養を経験されていたのですか?

松林さん: それが、まったくやったことがなかったんです。大学では理学部生物学科で、線虫という微生物をつかった行動遺伝学の研究室に所属していました。細胞培養は、血管のプロジェクトに入ったとき、先輩にゼロから教えてもらいました。

 

──もともと、理系に進んだのはどうしてだったのですか?

松林さん: 高校の生物の授業が大好きだったことがきっかけです。特に、「オペロン説」について習ったとき、タンパク質が足りなくなった際に設計図であるDNAからそのタンパク質を作るのを促進させたり、多すぎるときは抑制させたりする機構について「めっちゃ面白い!」と感じて、生物学科へ進もうと決めました。

 

──その後、どんな経緯でサイフューズに入社されたのでしょうか?

松林さん: 私の恩師と中山先生が知り合いだったことがきっかけで、「血管のプロジェクトでスタッフが欲しいのでやってみないか」と声をかけていただきました。その後しばらく中山先生のお手伝いという形で関わってから、サイフューズの一員としてプロジェクトを担当するようになりました。
初めて中山先生にお会いしたのは、2012年ごろ。当時は、再生医療が実用化するというイメージがまだあまりなく、ゴールが遠く感じたというのが正直な印象でした。まるで夢のような話だな、と思うばかりで、自分ごととしてはなかなかピンとこなかったんです。


──それでも飛び込んでみようと思えたのはどうしてだったのですか?

松林さん: 実は、スタッフをやってみないかと声をかけていただいたのが、大学院を辞めてしまったときだったんです。社会に出るきっかけを失ってしまっていたときに働くチャンスをもらえたので、とにかくやってみよう、という気持ちが自分のなかで後押しになりました。

 

──血管のプロジェクトに携わってみて、いかがでしたか?

松林さん: 作れば作るほど、良いものができていくことが楽しいです。自分で試行錯誤することのほか、社内の別のプロジェクトに携わる人や、臨床の先生からいただいたアイディアのおかげで、ぐんと前に進めることもあります。いろいろな人と関わりながら「みんなでひとつのものをより良くしていく」というのがすごく面白くて。私は学生時代までは、「生物の現象をつきとめたい」と、基礎研究に携わっていきたいと考えていました。ひたすら深掘りして究める楽しさですね。今は外に向かって技術を広げていくことが楽しいな、と感じています。
たとえば、できた血管を運ぶにしても、容器や温度、衝撃なども全部考慮して、輸送容器のメーカーさんや輸送会社さん、航空会社さんにも説明をして、ご協力いただいています。このように、いろいろな業界の方と関わることで世界が広がっていきますし。本当に、さまざまな人の協力や応援があって、研究を進めてくることができました。

──取り組むうちにやりがいを見いだせるようになったのですね。

松林さん: 自分が作った血管からとったデータが、またどんどん次のステップへとつながっていくので、小さな「うれしい」を積み重ねるうちに、将来、本当に患者さまを助けられるものになるんじゃないかという実感を持てるようになっていきました。実用化に近い国の助成金に採択していただいたり、新聞記事などさまざまなメディアに取り上げていただいたり……社会からの期待を感じるごとに、自分のなかでの期待感も上がっていったんです。

ときには、細胞中心の生活に疲れてしまったり、良い結果が出ずくじけそうになったこともありましたが、良いものができたときのよろこびも何回かに一回あるので、また頑張ろうと思えます。細胞に振り回されて、投げ飛ばされて……(笑)。それでもやっぱり楽しいと思えるんです。

 

──今後の目標を教えてください!

松林さん: まずは2019年に始まる、人工透析の出入り口の血管にトラブルを抱えている患者さまを対象にした臨床試験を成功させたいです。その後さらにいろいろな部位への移植も適用拡大していけたらと考えています。人工材料で作った人工血管では移植できないような部位もあるので、細胞だけで作った血管を必要としている患者さまはたくさんいます。部位によって、太さや長さも変わってくるため、臨床の先生にも、どういう性質の血管が必要かというのをよくヒアリングしながら、より良い血管を開発していけたら嬉しいなと思います。

秋枝さん: それから、今後この技術を世界中に広めていくためには、松林さんが持つ技術をほかの人たちへ伝えていってもらう必要もあります。細胞培養の技術には手先の感覚などが細かく影響します。そのため、伝えていくのに大変な面も多いとは思いますが、弟子をたくさんつくっていってほしいです。松林さんのような臨床培養士さんがたくさん育ってくれると再生医療の裾野も広がり、会社としても嬉しいですね。

松林さん: 私自身、ひたすら手を動かして感覚をつかんできたので、言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、どんどん実践してもらいつつ、触った感覚などを共有してもらうよう心がけています。

 

オープンマインドで仲間を増やし、患者様のために未来を切り拓きたい

──サイフューズ全体としての、今後の目標や展望を教えてください

秋枝さん: サイフューズという社名は細胞を意味するCytoと融合を意味するfusionを組み合わせた造語です。バイオロジーとロボティクス、エンジニアリングという異なる学問分野の融合だけでなく、行政や研究機関、医療現場、製品化に必要な資材や技術を提供してくださるさまざまな分野の企業など、社内外の多くのパートナーと協力しながら、再生医療を現実のものにしていきたいとの想いが込められています。
まさに創業から今日まで、本当に多くのサポートをいただき、ここまでやってくることができました。

現在プロジェクトが進んでいる軟骨や血管、神経、のほかにも、さまざまな先生方から「子宮をつくりたい」「気管をつくりたい」などのお声掛けをいただいています。医師からの提案は、患者さまの声です。今進めているプロジェクトをどんどん実用化につなげながら、さらに新しい開発にも取り組んでいけたらと考えています。究極的には、臓器丸ごと再生できるところを目指していきたいです。

再生医療は、今まさに実用化・産業化に向けてみんなで育てている段階です。分野や業種の垣根を越えて、「患者さまにいかに早く良いものを届けるか」が求められています。そのことを第一に、これからも研究を加速していきます。同じ想いを共有できる仲間がさらに増え、一丸となって世界の医療に貢献していけるよう、全力で邁進して参りますので、みなさま応援よろしくお願いいたします。

 


<編集後記>
インタビューを通じて常に伝わってきたのは、患者さんファーストの想い。
それは、秋枝さん松林さんからだけでなく、事務局の方やお邪魔したラボの方々全員に共通していました。強い信頼関係で新しい医療を切り拓いていく力強さと温かさを感じました。

そして、現在は血管再生のスペシャリストとして活躍中の松林さん。
意外にも、学生時代は細胞を扱ったことがなかったというのが印象的でした。

想いがあれば、異分野からも再生医療で活躍できるのですね。
気になるけど迷っているという人は、思い切ってチャレンジしてみてはいかがでしょうか!

 

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