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手のひらに乗る化学工場。バイオ、医療など様々な分野に応用が期待されるマイクロ化学とは? マイクロ化学技研株式会社

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小学生の時に玉ねぎの薄皮を顕微鏡で見たことはありませんか?

薄皮を載せる、あのガラス板が、化学工場になったり、健康チェックをする装置になったり、そんな夢物語が現実になろうとしています。

その夢を実現させるのが「マイクロ化学技術」です。3cm×7cm程度のガラスの上にナスカの地上絵のような模様(流路)が刻まれたガラス基板が、マイクロ化学チップと呼ばれます。

この小さなデバイス上で、フラスコやビーカー、撹拌機などで行うのと同様の混合、合成、分離、抽出、検出などの反応を行えるというから驚きです。また、大掛かりな装置を必要とせず、微量でも短時間で精度の高い分析ができるので、化学、バイオ、医療、環境、農林水産、食品など広い分野での応用が期待されているのだとか。

ガラス基板に複雑で微細な空間を作る技術も難しそうですが、何よりもマイクロスケールの流路の中でいろいろな化学反応をしてしまおうという発想がすごい!

この技術の世界的な第一人者である東京大学北森武彦先生が最高技術顧問として指導しているマイクロ化学技研株式会社の田中勇次社長と2021年6月に台湾で設立された北森微流體研發股份有限公司の栗原光宏董事長に、技術の概要と今後の応用の可能性について伺いました。

写真左:栗原光宏董事長、右:田中勇次社長

マイクロ化学技研株式会社:https://www.i-mt.co.jp/

 

化学プロセスを集積化する夢の技術「マイクロ化学」とは?

―お時間を頂きまして、誠にありがとうございます。早速ですが、マイクロ化学技研株式会社が販売されている製品に関して教えてください。

田中社長:弊社はマイクロ流体デバイスと呼ばれるガラス製のマイクロ化学チップのパイオニアです。ガラス板に微細な流路を刻むことで、この微小空間で化学反応(混和、合成、分離、抽出、検出)を行うことが出来ます。このマイクロ流体デバイスを使用する最大のメリットは、合成などの反応が高効率で進むことと、大きな設備が不要であるということです。

画像提供:マイクロ化学技研株式会社

―微細な流路に合成する試薬を流すだけで混和や抽出ができるなんて驚きですね。ただ、流れるだけで反応が勝手に進むのですか?

田中社長:速度や流量、もちろん、溝の刻み方によって流れが変わります。流す成分や目的に応じて溝を設計・加工するわけですが、そこが弊社の持つ技術ということになります。

―手のひらサイズのガラス板に、繊細で複雑な微小空間をつくるには高い技術が必要そうですね。

現在は、フォトリソグラフィー(半導体の製造工程の一部)やウエットエッチング等の方法を用いてデバイスを製造しています。この工法は、ガラス微細加工の優れた製造法として定着しており、小ロット~中量での生産には最適です。それに加えて、弊社としましては、近い将来の産業への実装化を視野に入れた大量生産とそれに伴うコスト低減を目指して、パナソニック社との共同研究を経て開発されたガラスモールド工法によるチップ製造の導入も2019年から進めております。この工法は、カメラのレンズの製造に利用されている方法で、携帯電話のカメラなどはこの方法で作られています。この技術は、ガラス製マイクロ化学チップの大量生産化と、コスト低減(現状の1/10以下)だけでなく、数十~100ミクロンの流路も従来の10倍の精度で製造することができる可能性も持ち合わせています。

―大量生産が可能になることによって、どのような分野への応用が期待されているのでしょうか?

田中社長:樹脂等で製造されたチップでは対応の難しい「室外などの厳しい環境下での水質、大気分析」や「化学プラント用チップ」はもちろんですが、バイオ関連解析や血液等の検査用ディスポーザブルチップとして使用することができるようになります。また、弊社では北森先生の発案された熱レンズ検出装置も開発しており、既存の検出装置では検出が困難なマイクロ、ナノスケールの微小空間で、しかもサンプル量がごく微小という環境であっても、高感度な検出が可能になります。

この組み合わせを用いると、ELISA法での検出、検査も1μl程のサンプルがあれば8分で超高感度測定が完了します。また、マイクロ、ナノスケールの流路設計を駆使して、生きたままの1細胞が産生するタンパク質を熱レンズ検出装置にて分析することも、北森研究室にて成功しています。

工夫次第で、皆さんの研究を加速できる技術だと思っております。近い将来、様々な免疫反応による検出、一細胞単位でのプロセッシング、タンパク質の合成や抗体の精製もすべてこのデバイス上で完了できるようになると思います。

応用に関しては栗原董事長にバトンタッチをしましょう。

 

化学、医薬、食品…進む産業界での応用

栗原董事長:2021年6月に応用を円滑に進めるため、北森微流體研發股份有限公司を台湾に設立しました。日本ではモノづくりや実験のための基盤技術を提供し、基礎的な製品の供給をしていますが、台湾では企業と連携して新規ビジネスを一つでも多く立ちあげることを目的としています。つまり、デバイスを作るのが日本だとしたら、台湾はグローバルにこの技術を展開するための拠点として位置づけています。すでに、マイクロ化学技術を生産現場に実装したいと考えているいくつかの企業との連携も始まっています。

出典:マイクロ化学技研 会社概要

―なぜ台湾に会社を作ったのですか?

栗原董事長:東京大学マイクロナノ多機能デバイス連携研究機構の特任教授である北森最高技術顧問が2020年2月から台湾の国立精華大学栄誉講座教授(玉山学者)に招かれたことから台湾に大規模な研究拠点を持つことになりました。これが設立の大きなきっかけです。このことで、日本と台湾、二つの拠点を足掛かりとしてアジアから世界へこの技術を広める環境が整いました。

台湾での事業は「マイクロ化学技術を駆使した新規事業の創造」をミッションに掲げています。日本での成果を基にして、それをどうモノづくりの現場に定着させて当たり前のように使っていただくか、これがカギだと思っております。

重ねて申し上げるとしたら、海外では、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが非常に熱心です。このデバイスを応用することで生産効率の向上に加え、省エネルギー化、発熱や爆発等の様々なリスクの回避や廃棄物質の低減などにおいて革命的な効果が期待できるため、様々な分野で社会貢献できると思っております。

残留農薬検査キットアグリケム。従来の残留農薬簡易検査キットに比べて感度は最大2,000倍、検査時間もコストも大幅に削減することができる。写真提供:マイクロ化学技研株式会社

―海外でのビジネス特有の難しさ・ご苦労などはあるのでしょうか?

栗原董事長:以前、私はヨーロッパや北米などに15年ほど赴任しておりました。海外の方は、率直に申し上げればエネルギッシュでチャレンジ精神旺盛な人が多いです。私もそんな人材が持つエネルギーやパワーに刺激を受けて仕事をしてきました。台湾は英語を話せる人も多く、器用な方が多いうえに、前述の姿勢を持つ人材に多く出会えている印象です。いい刺激をもらえるので、あまりやりにくさを感じてはいません。もちろん、日本の若者とも一緒に働いて頂きたいですね。

―一緒に働きたい人物像などありますか

栗原董事長:海外に出ていきたいと思っているような人は大歓迎です。分野も特に「これが出来なきゃダメ」というのはありません。一緒にシナジー効果を出していきたいと思っているような人や好奇心をもってチャレンジしていただけるような学生や研究者と仕事をしたいですね。

―学生といえば、栗原董事長と北森最高技術顧問は学生時代の同級生だと伺いました。北森先生はどんな少年だったのですか

栗原董事長:彼とは中学・高校と一緒でした。名簿順で北森の次が栗原だったんです。もちろん勉強はできる生徒でしたが、本当に好奇心の塊みたいな少年でした。還暦を過ぎた今でもその好奇心は変わらずに残っているように思います。

―お二人、別のキャリアを積みながら、また一緒に仕事をされるなんてステキな関係ですね。近々、マイクロ化学技術の世界的な第一人者である、北森先生がご講演をされると伺ったのですがどのような内容なのでしょうか?

田中社長:弊社の技術の礎になっているのは、北森先生のマイクロ化学技術です。基本的な仕組みや、各研究分野での活用事例など、無限の可能性を北森先生自らにお話しいただく貴重な機会になります。是非ともセミナーをご視聴いただければと思っております。

栗原董事長:北森先生のウェビナーは4回の講演になる予定です。北森先生は台湾だけでなく、スウェーデンのルンド大学でも名誉博士を授与され、名誉客員教授を務めています。2回目以降は、化学への応用、医療への応用、食品への応用など、将来の新規ビジネスに繋がる可能性がある様々な応用可能分野についての講演となりますので、是非ご視聴いただければと思っております。我々の技術を多くの方に知っていただき、新規ビジネスを一緒に作っていければと思っております。

―田中社長、栗原董事長、本日はありがとうございました。日本の誇るマイクロ化学技術を形にされていらっしゃる皆様のご活躍を心よりお祈りしております。

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research-kws@bioteclab.co.jp)までお申し込みください。
 
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https://www.bioteclab.co.jp/20210810_microfluidic_devices_seminar/

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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