Powered by テンプR&D

Menu
  • 研究

水田の『泥』に住む微生物が電気を作る!?見えてきた微生物燃料電池の実用化。 発電と環境浄化が同時にできる「泥の電池」 佐賀大学 冨永昌人教授

1,713 Views

微生物の力を利用して発電する微生物燃料電池(Microbial Fuel Cells; MFC)の研究が進んでいます。汚水や汚泥などに含まれる有機物を燃料にするため、発電と同時に水や泥をきれいにしてくれる一石二鳥のシステムです。

実用化が視野に入ってきたとのプレスリリースを見つけ、佐賀大学理工学部の冨永昌人教授にお話を伺いました。

冨永先生が開発した「泥の電池」は、田んぼの中に簡単な装置を置くだけ。特殊な微生物ではなく現地にいる微生物で発電が可能で、昨年(2020年)実証実験が成功し、2-3年以内の実用化を目指して研究が進められているとのことです。

冨永先生が、基礎研究と応用研究、どちらも楽しんでおられる様子がとても印象的でした!

 

簡単な装置で場所を選ばず泥の浄化と発電を行う「泥の電池」

 
―微生物が発電してくれる泥の電池、面白いですね。発電と同時に浄化もしてくれて、環境に優しくていいですね。

微生物による発電の原理は、100年前にイギリスで発見されていました。昔からわかっていたのにあまり注目されていなかったのは、ごく微量の電気しか発電できなかったからです。燃料電池もそのころにはわかっていたんですよ。

ここ数年で資源問題・環境問題への関心が急速に高まり、研究が盛んになってきました。発電量は以前とは比べ物にならないほど増えています。

 
―どういうしくみなのでしょうか。

微生物発電は、微生物が有機物を分解する過程で生じる電子を利用します。燃料となる有機物にプラス極(カソード)とマイナス極(アノード)が浸されていて、微生物が有機物を分解した際に生じる電子をマイナス極(アノード)で回収、その電子が外部回路を通じてプラス極(カソード)に移動する際に発電します。

 
―先生が開発されている「泥の電池」の特徴はなんでしょうか?

現地に生息する微生物で発電できることに加え、特別な容器が不要な点で、コストが安くて済み、使い勝手がよいと思います。

微生物が付着するアノード(マイナス極)は酸素のない嫌気的な環境が必要で、従来の微生物電池は「閉じられた空間」をいかにつくるかがポイントでした。でも泥の中は酸素がほとんどない嫌気的な場所なので、泥に電極を埋めれば、中にいる微生物を利用して発電できるのではないかと着想して研究を始めました。

 
―研究はいつごろから始められたのですか。

2013年夏くらいから有明海干潟の泥を使って調べ始めました。1か月に1回くらい通いましたね。ラボに持ち帰ってカップ型のなかに泥と電極を入れて検討しました。5センチの深さで十分に嫌気条件が整うんです。季節によって微生物の活動量が変わるので、気温が下がる冬は発電量が減り、夏になると上がるというデータが取れました。条件が整っていればタッパーに入る量の泥でモーターを回すくらいのパワーも確認できています。

 
―水田の泥での実証実験は、企業との共同研究とのことですね。

ニシム電子工業さんとは2018年に共同研究を始めました。ニシム電子工業さんは、もともと農業のIoT化を進める農業用センサーなどを開発しています。センサーの電力として「泥の電池」を使えないかという話をいただいたのがきっかけです。

 
―農業用センサーとは、具体的にどのようなものでしょうか。

温度、水温、水位、雨量、湿度などの各種データを採取し、クラウド上に蓄積して水田の管理に活かすスマート農業ですね。水田に独立した電源があれば、電力の届かないところでもどこでも測定出来てデータ送信も可能になります。

 
―場所を選ばず、泥を浄化しながらデータを取得できるって、すごくいいですね!

 

淡水での微生物発電は難しいチャレンジ

 
―水田特有の難しさはありましたか?

これまでに、有明海のほかインドネシアの干潟やスラバヤ火山性泥でも実証実験を行っていて、わかっていたのは、「淡水での発電は難しい」ということです。淡水は、海水に比べてイオン(塩分)が少ないので、抵抗が大きく電気が流れにくいからです。

微生物電池は、アノードに嫌気的条件、カソードに好気的条件を必要とします。淡水の環境下で抵抗を下げようと電極を近づけると、アノードに嫌気的条件を保てなくなり、発電効率が下がってしまいます。

また、電極に使用しているカーボンにカビが生えやすいのも淡水での課題でした。さらに水田と言うことで、作物に悪影響を及ぼす物質を出さないことも重要なポイントです。

 
―課題はどうやって解決したのでしょうか。

試行錯誤の結果、透明ゲルに食塩を含ませてその外側にアノードをつけるカセット型セルを開発しました。伝導性を高めカビも抑制することができました。

 
―発電量はどれくらいなのですか?

最大電圧は0.45V、最大電流は3.5mAを記録しています。発電のデータを見ると電圧が一定の理想的なグラフになり、使いやすい電池であることが証明されました。ゲルに含ませた食塩がすこしずつ溶け出ていくにつれ、発電効率が悪くなることがわかりましたので、これを抑制することで、もっと発電量を上げることができます。今回の実験では3つの燃料電池の直列配置を二つ並列しました。塩分の流出がなければ、トータル900mV出せます。溶け出た塩分が周囲の土壌やイネに与える影響についても調べましたが、問題ありませんでした。

 

泥の電池はその土地の泥に眠る微生物を揺り起こすスイッチ

 
―先生は、もともと微生物の研究をされていらしたのですか?

もともとの専門は電気化学です。酵素・金属のナノ粒子、酵素を触媒にした燃料電池を研究しています。だから微生物も自分にとっては触媒の一つですね。泥で試す前は、腐葉土や猫の糞の中の微生物など、いろんなものの中にいる微生物を試しました。増殖して発電してくれて、面白いですね。無料で手に入る、とてもいい触媒です。

 
―どんな微生物が発電に適しているのでしょうか?

実は、そこについては詳しくは調べていません。

 
―そうなんですか?そこが重要なのかと思っていました。

発電にはある種の微生物が働いていることがわかっていて、発電菌と呼んでいます。微生物発電のラボ実験では、特定の発電菌が使われています。でも、それが必ず現地にいるとは限りませんよね。現場の泥に生息する微生物をそのまま使い、そこにいるもので可能な限りの電力を取り出すことを目的にしたのが「泥の電池」です。電極をセットするとその状況で一番良い微生物が目覚めてくれるので、種類を特定しようとするとそれこそ膨大な数になると思います。それらをひとつひとつ特定することよりも、材料や装置の工夫で効率的に発電することを考えるほうが実用化の近道ですよね。

泥に着目したことで、発電菌がどこにでも生息していることが分かったことが、最大の成果です。

 
―実用化に集中なさっておられるんですね。

色々な用途に発展させられるシステムなので、実用化にこだわりたいですね。エビや魚の養殖場は、エサの残りかすが底にたまるので、それを浄化しながら発電したり、発電量を見ることで汚染度がわかるのでセンサーにもなります。将来的に宇宙に植物工場ができる時代が来たらそこでも必ず必要になる技術だと思います。

 

基礎研究と応用研究、見せ方を考えてどちらも展開していく

 
―ところで、先生は応用、実用化研究をメインにされておられるのですか?

いえ、基礎もやっていますよ。学生時代から酸化還元反応といって、酵素と電極の相互作用を研究していました。酵素などの生体分子と電極との間では電気化学的な反応があるんです。生物電気化学という学問ですね。研究を始めた1989年当時はまだ新しい研究分野で本当に基礎的なことも未知でした。新しいことが次々とわかりダイナミズムを感じながら研究を続けてきました。

 
―実用化研究にも熱心に取り組まれているのはなぜですか?

基礎研究は基礎研究でしっかりやっていくことはもちろんですが、興味があるものについては積極的に応用研究をやるというスタイルがあってもいいのではないでしょうか。泥の電池では、モノづくりの面白さを存分に味わえていて、楽しく、充実しています。

 
―実用化研究は学術的にはあまり評価されないということはありませんか?

確かにこの泥の電池については、論文にはほとんどしていないです。若干のジレンマはありますね(笑)論文にするなら微生物を詳しく調べて、起こっていることをサイエンスとして説明する必要がありますが、ラボで使う血統書付きの微生物と違って、現場にはどんな微生物がいるかわかりませんし、分析は難しいですね。

泥の電池に限らず、実用化研究はコストや安全性、ビジネスモデルなどが鍵になるので、学術的な論文にはなりにくいことは確かです。でも、応用のほうが企業の方に「面白い」と言ってもらいやすいですね。基礎研究をやるにしても、「これがわかるとこういうことが実現する」と、実用に向けた出口を見せると、外の方に注目してもらえます。見せ方を考えて発信することは、研究を続けるうえでとても大切だと考えています。

 
―「基礎か応用か」というより、「基礎も応用も」なのですね。

もちろん、中途半端は良くないです。両方やると決めたら徹底的にやることですね。
論文になるテーマと、実用になるテーマにはギャップがあります。サイエンスとテクノロジーの違いを、自分の中で明確にしておくことが大切です。

 

逆境を力に変え、頑張っていれば誰かが見てくれている

 
―先生は医学部で助手をされていらしたことがおありですが、医学にもご興味があったのですか?

ポストの問題です。専門分野で思うようなポストがなく、医学部に5年ほどいました。

 
―その間はどんな研究をなさったのですか?

HIVの感染細胞を使った実験などに取り組みました。

 
―畑の異なる研究を、いちから始めるのは相当なご苦労があったと思うのですが…

はい、かなり大変でした。私の知識や技術では簡単には解き明かせるものではないと、何度も心が折れそうになりました。そんな中でいかに効率よく論文を書くかとか、面白いデータが出てきた時、それをどういう風に論文にするのか等、常に最短距離を歩んで、どうアピールするかを考える訓練はだいぶできたと思います。その5年間でそういう力がつきました。

 
―逆境が力になったのですね。

そうですね。研究を続けていると必ず逆境・苦境は来ます。研究者を目指すうえで避けて通れないものだと思います。その経験をどのように生かして乗り越えるかですね。一番辛いのは自分と同世代の人たちが活躍している時です。恵まれた環境にいる人が成果を出している時に、自分に何の成果もないと本当につらいです。心が折れそうになりますが、そういう時は自分が試されていると思わないといけないですね。

 
―心の支えのようなものはありましたか?

指導教員であった谷口功先生(現国立高等専門学校機構 理事長)に「いつも誰かが見ているよ」と言われたことを常に思い出していました。耐え忍んで頑張っていれば、それを見て、誰かが助けてくれたり、サポートしてくれたりするようになります。この歳になってそれがよく分かるようになりました。

…それともうひとつおススメしたいことがあります。

 
―何でしょう?

学生の方は、ぜひ先生からの教えをできる限りノートに書き留めて、折に触れて読み返してみてください。成長して意味が解る言葉もたくさんあるので、なにかひっかかったら書き留めておくとよいです。学生時代に先生から受けた言葉は、本当にその人のために思って言ってくれていることが多く、研究者として独立した後も、何かに迷った時にそれを読み返すと、きっと指針になってくれます。将来の自分を助けると思って是非やってみてください。

 
―まさに宝物のようなノートですね!最後に、研究者を目指す方にメッセージをお願いします。

研究者への道は厳しいですが、折れた段階で負け。諦めたらそこで終わりです。本当に自分がやりたかったことは何だったのか?初心を忘れずに頑張ってほしいですね。今逆境にある方も、おかれた環境をいかに自分の研究の強みにひきよせるか。自分の芯を決めて、どう展開するか、「戦略」を考えてみてください。ライフワークとして取り組む研究のほかに、生き残るためのテーマを別途もつことも重要です。自分を信じて初志貫徹されることを応援しております。

 
佐賀大学 理工学部 教授
冨永 昌人(とみなが まさと)

熊本大学 大学院自然科学研究科 生産科学専攻卒。博士(工学)。生物電気化学を専門分野に、酵素電子デバイスや微生物を使った泥の電池、ナノカーボンを基軸とした機能界面電極開発などを研究テーマにしている。泥の電池など、実用化を目的にした研究開発にも積極的に取り組んでいる。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

理系の学生/社会人の方が、ハッピーなキャリアを描(えが)けるように、色々な情報を収集して発信していきます!
こんな情報が知りたい!この記事についてもっと深く知りたい!といったリクエストがありましたら、
お問い合わせボタンからどしどしご連絡ください!

関連記事