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タンパク質合成とは

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タンパク質合成とは

タンパク質合成とは生体内でDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列をもとに、アミノ酸を複数つなげてタンパク質を合成することです。DNAからタンパク質がつくられるまでには細胞内で「転写」と「翻訳」というステップが必要です。ここでは、その工程について発見の歴史を踏まえて解説します。

タンパク質とは

タンパク質は生物を構成する重要な物質です。例えばヒトの場合、重量の約15〜20%がタンパク質とされていて、約60%を占める水分の次に大きな割合を占めています。ヒトの体には約10万種類のタンパク質があると言われ、皮ふ、筋肉、内臓などはもちろん、神経細胞の情報伝達、筋肉の収縮、さらには食物の消化・分解・吸収や代謝に関係する化学反応をつかさどる酵素反応などあらゆる生命活動に関わっています。また、ヒトなど動物だけでなく、植物においても生命活動の全てにタンパク質が働いています。

このようなタンパク質は、20種類のアミノ酸が複数個結合した構造をしています。アミノ酸が2個以上結合したものをペプチド、一般的には10個程度結合したペプチドをオリゴペプチド、それ以上をポリペプチドと呼び、タンパク質はアミノ酸が80個以上結合したもののことを指します。

アミノ酸はアミノ基とカルボキシ基を持つ有機化合物で、ヒトの体内で合成できないもの(必須アミノ酸)と合成できるもの(非必須アミノ酸)があります。必須アミノ酸は合成できないので食事から摂取する必要があります。

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タンパク質のアミノ酸の並び方を決めているのが生命の設計図とも呼ばれるDNAです。

生命の設計図DNAは、タンパク質の設計図!

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DNAは細胞の核の中にある酸性の物質として、1869年にフリードリッヒ・ミーシェルにより発見されました。DNAが遺伝子としての機能を持っていることは、肺炎球菌を使った1928年のフレデリック・グリフィスの実験、1944年のオズワルド・アベリーの実験によって証明されました。

DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基と呼ばれる物質が互いに向き合って並んだ鎖のような構造をしています。2本の鎖は、AとT、GとCがペアとなって結合しています。ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックはこのDNAの構造を1953年に学術誌Natureで発表し、1962年にはモーリス・ウィルキンスも加えた3名でノーベル賞を受賞しました。2本の鎖が対となっているため1本の鎖があれば、その鎖の配列を鋳型として、もう1本をコピーすることができます。この構造が、生物が親から子へとDNAをコピーして伝えていくことを可能としています。

DNAがタンパク質のアミノ酸配列を指定できるのは、ATGCの塩基の並びにその情報が記されているからです。タンパク質をつくるアミノ酸は20種類存在します。DNAは3つの塩基で1つのアミノ酸を表しています。例えば、GTTならバリン、ATAならイソロイシンといった具合です。この3つの塩基の並びは「コドン」と呼ばれます。

ヒトの場合はA-TまたはG-Cの塩基対が約30億個並んでおり、その中で実際にタンパク質の情報を持っている部分が遺伝子と呼ばれ、遺伝子はおよそ2万種類ほどとされています。

このDNAの情報がタンパク質になるまでには「転写」と「翻訳」と呼ばれるステップが必要です。

DNAとタンパク質をつなぐ「転写」と「翻訳」

タンパク質のアミノ酸配列の情報を持つDNAですが、DNAからタンパク質が合成される間にはRNA(リボ核酸)という物質が介在します。DNAからRNAが合成される過程を「転写」、RNAからタンパク質が合成される過程を「翻訳」と言います。このDNA→RNA→タンパク質の流れをフランシス・クリックが「セントラルドグマ」として1958年に提唱しました。

RNAはDNAと同じように塩基が連なった構造をしています。DNAの場合、ATGCの4種類の塩基でしたが、RNAの場合はTがU(ウラシル)に変わりAUGCの4種類の塩基でできています。また、DNAは2本鎖でできていますが、RNAは1本鎖という違いがあります。

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細胞の核に収納されているDNAは、全ての遺伝情報を持ち、全てのタンパク質の配列情報を持っている長くて大きな物質です。あるタンパク質を合成するときには、その合成に必要なDNA配列だけをコピーしたRNA(mRNA:メッセンジャーRNA)が「転写」により合成されて核の外へと持ち出されます。

DNAからmRNAへの転写は、タンパク質合成に使用する特定のDNA配列のAとT、GとCの結合が切り離され1本鎖に構造変化することから始まります。一本鎖になった部分にRNAポリメラーゼという酵素(生体内の化学反応を触媒するタンパク質)が結合し、その働きによりDNA配列がRNA配列へとコピーされてmRNAとなります。こうしてできたmRNAは核膜の穴から細胞質へと移動します。

細胞質に移動したmRNAが持つアミノ酸配列の情報は「翻訳」というステップにより、タンパク質合成へとつながります。「翻訳」はリボソームという細胞小器官で行われます。リボソームはリボソームRNA(rRNA)とタンパク質の複合体です。mRNAが持つ3塩基からなるコドンに対応したアミノ酸をトランスファーRNA(tRNA)がリボソームに運んできて、そのアミノ酸をrRNAが1つずつ結合していくことでタンパク質が合成されます。

このようにタンパク質合成は、細胞内でDNAの持つアミノ酸配列の情報を持つmRNAが「転写」により合成され、mRNAから「翻訳」によってタンパク質が作られるのです。

タンパク質合成の応用

ここまで見てきたとおり、タンパク質合成はDNAの情報をもとに細胞内で行われます。この仕組みを利用してさまざまなタンパク質を人工的に合成し、新しいものを作る試みが進んでいます。具体例を2つだけご紹介します。

(人工合成繊維:スパイバー株式会社)
2007年に設立された慶應義塾大学発のベンチャー企業、スパイバー株式会社は細くて高強度なクモの糸に着目し、タンパク質の人工合成やそれを使った繊維を開発しています。クモの糸の主成分である「フィブロイン」の遺伝子情報をもとに合成した遺伝子を微生物の遺伝子に導入し、この微生物を増殖させることでクモの糸を模したタンパク質の大量生産を行っています。このようにして合成された繊維は、米国の大手アウトドアメーカーのザ・ノース・フェイスに使用され、2019年にアウトドアジャケットMOON PARKAとして発売されました。

(細胞農業:インテグリカルチャー株式会社)
2015年に設立されたベンチャー企業、インテグリカルチャー株式会社は独自の細胞培養技術を開発し、食品・素材・皮革などを作る「細胞農業」の実用化を目指しています。2023年2月には、フランス料理の高級食材「フォアグラ」をアヒルの肝臓を形成する細胞を培養することで人工的に合成することに成功し、都内のホテルで官能評価会を実施しています。畜産ではなく、細胞培養による肉の生産は、将来的には温室効果ガスの排出削減や水資源の消費抑制に貢献できる可能性があり、新たなタンパク質食料資源としても期待されています。

まとめ

以上タンパク質合成について解説してきました。タンパク質合成は生体内で生命の設計図とも呼ばれるDNAが持つ情報をもとに、「転写」「翻訳」のステップを経て行われます。生物の形質が遺伝するのは、生物の生命活動に重要な機能をもつタンパク質が、親から子へと受け継がれるDNAをもとに合成されるからなんですね。さらに、このDNAからタンパク質が合成される仕組みを使って、人工的に価値のあるタンパク質を生み出すベンチャー企業も誕生しています。みなさんの身の回りにもタンパク質合成技術によって開発されたものが届く日も近いかもしれません。

記事執筆:吉田拓実(東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了 博士(農学)/ 再考編集室 編集記者 / さいこうファーム 農場長)

<参考サイト>
ゲノム編集のすべてが分かる!バイオステーション いちから分かる!タンパク質は「DNAの暗号」からできている バイオステーション
食生活改善指導担当者テキスト 文部科学省 2008
谷川 (2018) 酵素反応の基礎ー名前はよく聞くが,よくわからない「酵素」を知るためにー
DNA入門 現代遺伝学を築いた75の実験をアニメーション化 公益財団法人かずさDNA研究所 テーマ15細胞核にある重要な分子はDNAとタンパク質です
テーマ17遺伝子はDNAからできています
テーマ19DNA分子はねじれたはしごのような形をしています
Watson J., Crick F. Molecular Structure of Nucleic Acids: A Structure for Deoxyribose Nucleic Acid Nature 171, 737-738 (1953)
生命の設計図DNAってなに?! 公益財団法人かずさDNA研究所
産業構造審議会 バイオテクノロジーが拓く『第5次産業革命』 経済産業省 2021
MOON PARKA スパイバー株式会社
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