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バクテリアでお絵描き! 山梨大学 田中靖浩先生に「微生物アート」のコツを教わってきた!

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微生物アートとは、寒天培地をキャンバスに見立てて細菌などの微生物で絵を書くアートのこと。微生物を植えて、数日間育てることで絵ができあがっていきます。アメリカの微生物学会ではコンテストも行われていて、SNSなどでも密かに人気を集めているんです。インスタグラムで「#microbialart」、「#agarart」、「#bacterialart」「#bacteriaart」などと検索すると、シャーレの中に広がる繊細な絵柄を楽しむことができますよ。バイオ系の読者の方は、やってみたことがある人も多いのではないでしょうか?

今回は、微生物アートや微生物の魅力に迫るべく、山梨大学 生命環境学部 環境科学科の田中靖浩先生にお話を伺ってきました!

 

 

力作がずらり!微生物アート体験授業

田中先生、よろしくお願いします!

田中靖浩 先生
山梨大学 生命環境学部 環境科学科 准教授。
未知の細菌の発見をメインに研究。論文を出していないものを含めてこれまでに100種以上の新しい細菌を発見している。細菌分類における新たな「門」を発見したことも(これまでに発見されている細菌の門は30ほど。そのうちのひとつを見つけるという大発見!)。微生物を使った環境浄化やバイオエタノール生産などへの応用など環境全体の改善にも取り組む。

田中先生は、学生さんと一緒に微生物アートをつくっているそうです。研究の合間の息抜きとして取り組んだり、学部の授業では研究室に入る前の1〜3年生を対象に微生物アートの体験授業も行っているのだとか!

取材に伺った日は、ちょうど3年生の学生さんたちが授業でつくったアートをお披露目するとのことだったので、見学させてもらいました。

微生物アートがずらり。どれも個性が現れていてとっても素敵です! ちなみに、学生さんたちにとっては今回が初めての微生物アート体験だったのだとか。


▲花びらのグラデーションがとてもきれいに表現されています。右側の作品は、違う種類(色)の微生物(今回はいろいろな細菌を使用)を組み合わせてグラデーションを表現しようとしたもの。左側は、細菌を乗せる量を調整してグラデーションに。つくった学生さんいわく、「どちらがきれいに色の濃淡を出せるかなと思って両方試してみましたが、左側の作品のほうがうまくいきました」とのこと。細菌を乗せる量を繊細にコントロールするのはなかなか難しいことですが、しっかりと美しいグラデーションが現れています。違う種類の細菌を使うと混ざってしまったり、細菌の成長速度や密度の違いで色の現れ方にばらつきが出てしまったりするため、さらにテクニックが必要なようです。

▲こちらは、複数の細菌を使って色を塗り分け、迫力のある赤富士を表現。少しずつ隙間を空けて塗ることで、細菌が混ざらずきれいに色を分けることができました。

▲まるで紙にペンで描いたように、なめらかな線できれいな仕上がりです。細菌を乗せるときに線がぶれないようにするには、優しくすべらせるようにするのがポイントとのこと。

▲土星の上に浮かんだ白い点は、コンタミ(他の種類の細菌やカビ等が混入すること)によって偶然あらわれた模様だそう。「コンタミしてしまったけれど、これはこれで星っぽくなりました」と作者の学生さんも話してくれたように、描いた時点では予想していなかった仕上がりになるのも面白いところです。

学生さんたちの作品がどれも力作ばかりで、授業もとても楽しそうでした。

 

田中先生流 微生物アートのポイント

田中先生に実際に微生物アートをつくる手順を教わり、体験させてもらいました。

▲あらかじめ培地にいろいろな種類の細菌が植えられたシャーレをパレットのように使います。

 

1. しっかりと下描きをしておく

シャーレの大きさに合わせた紙に下書きをして、テープで固定。こうすることで細菌を乗せる位置がわかりやすくなります。

 

2. コンタミネーションを防ぐ

コンタミすると混入したほかの微生物に邪魔をされてうまく絵柄が現れないことがあるため、できるだけ無菌の状態をキープしながら作業するのがポイント。手袋をはめて、無菌状態を維持できる安全キャビネット内で作業させてもらいました。でも、コンタミによって思いもよらぬ模様が出ることで、逆に味のある作品に仕上がることも。ときには、あえて無菌状態にせず作業してみるのも面白いかもしれません。

 

3. 力加減は優しく。滑らせるように

田中先生がいつも筆代わりに使っているのは、ディスポループです。パレット代わりのシャーレから細菌を少し取ります。


スーッと培地の上をなぞるようにして細菌を乗せていきます。強すぎると培地がえぐれてしまい、弱すぎると細菌がきちんと付かないので力加減に注意。優しくすべらせるようにするのがポイントです。培地の上はするする滑るため、慣れるまでは線がガタガタになりがち。直線などは思い切りよく「スッ」と素早くなぞったほうがまっすぐきれいに線を引くことができます。
乗せたばかりの細菌は一見透明でよく見えませんが、角度を変えると光の加減でうっすら見えます。


すべてなぞり終えたら、パラフィルムでシャーレに封をして25℃の保管庫へ。

3日間保管して培養させたものがこちら!

今回、リケラボ編集部は微生物アート初挑戦だったため、少し線がガタついているところもありますが、先生に教わった通りに描いたらきちんと絵があらわれました。ちなみに、青紫色の部分は「ジャンチノバクテリウム」黄色の部分には「スフィンゴモナス」という細菌を使っています。

▼田中先生おすすめの微生物(色別)

白〜クリーム色 大腸菌、納豆菌など
ピンク〜赤色 メチロバクテリウムなど
黄色〜オレンジ色 スフィンゴモナス、フラボバクテリウムなど
青〜紫色 ジャンチノバクテリウムなど
シアノバクテリア

 

微生物培養に慣れるひとつの手としても!微生物アートの魅力

──先生はどうして微生物アートを始めたのですか?

僕は微生物の研究が専門で、主に未知細菌の探索をしています。そのなかで、さまざまな環境サンプルを対象に細菌の分離をしていたところ、田んぼなどにプカプカ浮いている身近な水生植物の「ウキクサ」から、ほかのサンプルに比べて、白やピンク、黄色などカラフルで多様な菌が出てきたんです。それを見て、「これは一種のアートだな」と思いました。それで、この色を絵の具の代わりに使って絵を描いたりすれば楽しいんじゃないかと思ったのがもともとのきっかけですね。

さらにさかのぼると、僕は学生時代にメタノールを食べる細菌の酵素を研究していて、遺伝子をクローニングするために大腸菌を扱っていたのですが、そのときに遊び半分で細菌を使って自分の名前を書いたりしていたんです。これは多分、微生物の研究をしている人なら、だいたい一度はやったことがあるはず(笑)。今思えばこういった経験がルーツになっているのかもしれないですね。

 

──微生物アートの面白さはどんなところだと思いますか?

描いていてもそのときには仕上がりがわからないところが、難しくも面白いところだと感じています。いざ育つと想像とは違った増え方をしていたり、それが返って良い味になっていたり。思い通りにならないところは、絵の具ではなく微生物を扱っているからこそのことですよね。

 

──微生物の色の違いにはどんな意味があるのでしょう?

簡単にいえば持っている色素が違うからなのですが、たとえば赤い色だと紫外線の照射に対して強かったり、緑だと光合成する機能があったり。このように、色素にも役割がある場合が多いです。

ちなみに、人間の身体にも、表皮や体内に細菌をはじめとした微生物がいっぱいいて、その数は数百兆から一千兆にものぼると言われています。そもそもヒトの細胞数が37兆個なことを考えてみても、ものすごく膨大な数の微生物がいるということが実感できると思います。だから、手のひらなどを寒天培地にパッとつけてみると、数日後にさまざまな細菌が生えてきます。ここで面白いのが、人によって細菌の色の傾向などに違いが見られること。僕の場合は白っぽい細菌が生えてくるのですが、人によってはカラフルだったりします。DNAが同じ一卵性双生児でも、保有する細菌に違いが見られるんですよ。これを活用して、犯罪捜査に役立てようと研究しているアメリカのチームもあります。

 

──微生物アートが本業の研究に良い影響を与えることなどもあるのでしょうか?

やはり、良い息抜きになっていると感じています。あまり研究のことばかり考えていると、煮詰まってしまって良いアイディアが出なくなってしまいます。そのときに息抜きできれば、頭がリセットされてまたアイディアが浮かんでくることもあるはずです。研究には良い息抜きが必要ですからね。

それと、まだ微生物の扱い始めたばかりの学生さんなどは、アートを通じて細菌が生えてくるスピードや感覚などを掴みやすくなるなど、微生物の培養に慣れるひとつの良い手段にもなっているのではないでしょうか。

僕は研究には遊び心も必要だと考えているので、面白いことをやってみよう、見た人を驚かせよう、という気持ちは、研究にも微生物アートにも通じていることかもしれませんね。


先生が新しい細菌の「門」を発見した時も、「細菌がお腹を壊さないように」培地を工夫したことが成功ポイントだったそうです。研究の息抜きにもなる微生物アートで、楽しみながら培養スキルを磨いていけたらまさに一石二鳥ですね。読者のみなさんも、研究の合間にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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