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理学博士KOTORAのキャリア相談室 〜博士・ポスドクが力を発揮している民間企業での職種とは?〜

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こんにちは。理学博士でキャリアコンサルタントのKOTORAです。

以前の記事でアカデミアから企業への転職を考える際に、やりたい仕事・成果を出せる仕事を探す方法についてご紹介しました。今回の記事では、博士・ポスドクが力を発揮している民間企業での職種についてご紹介します。

最近では、外資系を中心とした製薬・金融・IT業界でのデータサイエンティスト、戦略コンサルティングファームなど好待遇求人へのキャリアチェンジ事例も珍しくなくなってきていますが、仕事で使えるほどには英語ができなかったり、数学・統計学が苦手だったりするとそういう道は難しいのも現実。私が出会った博士・ポスドクからの相談の多くは「自分は企業で働けるでしょうか・・・」という弱々しいものでした。

そこで今回は、そんな弱気な博士・ポスドクにも「働けますよ!成果を出せますよ!」とお伝えしたく、実際に私が支援に携わった職種のうち典型的な例をいくつかご紹介します。

 

品質管理などの実験(分析・検査測定)をする仕事

企業内で実験をする仕事については、すでに自分で調べたり先輩や先生から話を聞いたりして、ある程度状況を知っている人も多いかと思いますが、実験を好きな方が力を発揮できる典型的なお仕事で事例も多いです。

アカデミアの研究と同じ機器や手法を使う企業内でのお仕事として、研究開発、分析、検査測定などの仕事があります。このうち研究開発職はポジションが少なく中途採用もほとんどない、あっても企業での業務経験者募集が中心なのですが、分析や検査測定の仕事については、医薬品・食品・工業製品・試薬など何らかの製品を作っている会社(メーカー)の品質管理部門や、メーカーから分析を引き受けている受託分析・検査会社、環境分析の会社など、幅広い業界・業種で多くの人が従事しています。正社員の中途採用募集では業務で使用する実験手法や分析機器に習熟していれば業務経験がなくても応募できることが多々あります。研究と同じ実験手法や分析機器を使うと言っても、自分で考えたり工夫したりする場面は少なく、法令などで定められた手順・方法に沿って正確にデータを取ることを求められる仕事が多いです。なぜなら、担当する人によって同じサンプルから得られる結果が異なってはいけないからです。例えば品質管理の分析や検査測定であれば、成分組成、製品の大きさ、耐久性などが定められた規格や基準を満たしていることを確かめるために、その分析方法や測定方法まで細かく決められています。

決まった手順で正確なデータを取り続けることが求められるので、とにかく実験が好きな人、無心に手を動かしているのが好きな人、きれいなデータを取ることに幸せを感じる人にはやりがいを感じられる仕事だと思います。

 

技術営業

分析機器や医療機器メーカーなどで、専門的な知識を持つ営業職、顧客に技術的なサポートや情報提供を行いながら営業活動をおこなう職種です。例えば分析機器の技術営業なら、顧客である研究者やメーカー内の分析担当者に向けて、専門的な提案をすることが成果につながります。自社の機器が競合他社の機器と比べてどこにアドバンテージがあり、顧客の分析対象物であればどういう分析のときに強いのか、という提案をしようとすると、その分析についての最新の手法を記載した論文、顧客が出している論文、競合他社製品の性能について示した論文など、文献を読んでそこにある情報を提案としてまとめる力が必要とされます。多くの文献を読んで情報をまとめる力、それを人に伝える力は博士・ポスドクなら必ず鍛えられていますよね。外資系企業が技術営業に博士をたくさん採用している理由です。興味の幅が広く、自身の研究に直接かかわらない研究でも論文を読んだり話を聞くのが楽しいと思える人、人にわかりやすく情報を伝えられるとよろこびを感じる人は成果を出しやすい仕事だと思います。

 

メーカー内の学術業務

学術という職種はあまり知られていないかもしれませんが、医薬品メーカーや理化学機器・試薬メーカーで採用のあるお仕事です。企業によって担う役割は様々ですが、概して自社製品の開発につながる学術情報を集めたり、営業販売に使う学術資料を作るお仕事です。例えば医薬品メーカーであれば10年20年かけて医薬品を開発していく中で、世界での研究の状況、競合他社の動向など、文献として調査可能な情報を常に集め続けて研究開発への投資を考えていく必要があります。その調査を担当するのが学術の仕事。薬剤師の資格を持っている人も多い部署です。理化学機器や研究用試薬のメーカーになると、営業が顧客へ持参する資料を作成したり、顧客の専門的な相談に応じるために営業と同行して顧客を訪問することもあります。技術営業職と異なり、営業活動が主体になることはないのですが、営業活動を専門的な知識や情報によってサポートする役割を担うことが多い職種です。所属する企業によって担当する業務内容がさまざまなので、一概にこういう人が向いていると言いにくいのですが、最新の情報を集めてまとめたり資料を作成する場合が多いので、英語の文献を読むことに抵抗がない人が取り組みやすい仕事だと思います。

 

医薬品の広告作成(メディカルコピーライター)

医薬品販売に使用する情報提供資料・販促資料を作成する仕事です。病院での説明会に使うパワーポイント、医師に配布するA4資料、病院に掲示する患者向けのポスターなど作成する資料は多岐に渡ります。開発段階でのデータをわかりやすく配置したり、医師に取材してインタビューを載せたり、正確さと伝わりやすさの両立を求められる仕事です。また、広告に使用できる文言の規制など医薬品特有の決まりがあるので、それに違反しないように作成します。学会での口頭発表やポスター発表のイメージで、正確さをそこなわずに伝わりやすい言葉やデザインを考えるのが楽しい人にはやりがいを感じられる仕事だと思います。

 

医師主導型治験にかかわる仕事

大手製薬メーカーが実施する汎用性の高い医薬品の大規模な治験・承認申請とは異なり、少数の患者のために現場の医師が主導しておこなう治験を医師主導型治験と言います。医師や患者が必要とする医薬品について、医薬品として承認申請できるように法令に沿って計画を考え、データを揃えて、申請書類を準備するのをサポートする仕事です。医師主導型治験では治験の規模が小さいため、医師と連携しながら治験計画を立案するところから、治験の実施管理、データのとりまとめ、統計処理、申請書類の作成まで、全体を1人で担当することが多く、これが研究を進めるときの流れに近いため、自身で研究計画の立案から論文作成までやっていた人にはイメージしやすく取り組みやすい仕事です。もちろん、医薬品開発にあたっては、多くの法令があり遵守しなくてはならないことが多いので、まずそれを勉強する必要があります。計画立案にあたっては多忙な医師と詳細を詰める必要があり、コミュニケーション力も求められます。研究と違って独自性や先進性のある成果を求められるわけではありませんが、研究職を諦めようと考えている博士ポスドクなら、むしろ法令に沿って進められることをやりやすいと感じる人もいるのではないでしょうか。申請が通れば、待っている患者にその医薬品を届けることができるので、社会的意義がとても大きい仕事です。

 

人材会社の正社員(無期雇用派遣)として研究開発に従事

どうしても研究を続けたいという気持ちが強い場合に、人材会社の正社員として働く無期雇用派遣という形態で、大学・研究所や企業で研究職に従事する人もいます。研究に従事したいけれどなかなか思うようなポストが得られない人にとってはいくつかのメリットがあります。例えば、就業先となる企業は中途採用枠がほとんどない大手企業も多く、メーカーの研究開発の現場で業務経験を積むことができます。業務経験があれば、将来的にメーカー直接雇用の研究開発職中途採用に応募できるかもしれません。博士の学位を持っている人が大学・研究所で就業する際には、ポスドクのように研究テーマを持って研究できる場合があります。また、全国に拠点を持つ人材会社であれば、配偶者の転勤など転居しなくてはならないときにも転居先で新たな就業先を探してくれることもあります。理系・専門職の無期雇用派遣は複数の人材会社が採用していますが、会社によって待遇は少しずつ違うので、就業先として可能性のある通勤時間や就業先が見つからないとき(待機期間)の給与がどうなるのかなど、長く働くために大事なポイントを必ず確認してから検討するようにしてください。一般にアカデミアの研究職やメーカーの研究開発職に比べると年収が低いことが多いです。また、正社員なので職場への配属権は原則会社にあります。能力・適性・希望を考慮して決められることが多いですが、基本的には辞令通りの配属先に勤務することが求められます。

研究職の正社員型派遣(無期雇用派遣)の詳しい解説はこちら

 

見えないけれど道はある

ご紹介したお仕事について、その存在を知っていましたか?実験職や技術営業職は知っている人も多いと思いますが、メディカルコピーライティングや医師主導型治験の仕事については初めて知ったという人もいるのではないでしょうか。私は研究職を諦めて人材会社で理系出身者のキャリア支援の仕事に就いたとき、世の中にこんなにたくさんの仕事があったのか、ととても驚きました。大学院で長く研究に没頭していると研究に関連することについては深く知ることになりますが、研究以外の世界のことについてはまったく情報がない状態に置かれます。自分から情報を探そうにも、大学院博士課程やポスドクを経験した人が研究者にならなかったときに、その後どうしているのかという情報はネットや一般の書籍として出ているものはとても少なく、会社で普通に働いている人の情報を見つけることは困難です。大手企業で研究開発職に従事している人、外資系企業でデータサイエンティストとして活躍している人、起業して会社経営している人など、ごく一部の華やかに成功しているように見える人の情報ばかりが目について不安になっている人もいるかもしれません。でも、平成30年度の科学技術白書によれば博士号取得者は年間1万5千人以上いて、その多くが自然科学系出身です。理工系出身者では40%を超える人が博士課程修了後に教育・研究以外の仕事に就いています。見えていないだけで、博士号取得者・ポスドク経験者にもたくさんの選択肢があるはずです。そのたくさんあるはずの選択肢を知り、納得して選ぶために、世の中にどんな仕事があるのか情報を集めて、自身が何にやりがいを感じ何を強みとしているのか把握して、自分を発揮できる仕事を探してみてほしいと思います。

次回は、博士・ポスドク経験者からの転職相談の中でよくいただく典型的な質問をQ&A形式でお届けします。

皆さんが力を発揮できる仕事を見つけられるよう、心から応援しています。

著者プロフィール:

KOTORA

キャリアコンサルタント。博士(理学)。生物系で博士号取得後、ポスドク、大学非常勤講師などの職を経てから民間企業の非研究職へキャリアチェンジし、人材会社の中の人10年超。主に理系求職者のキャリア相談・求人紹介を担当。現在はメーカー人事に勤務。これまでに自身も派遣社員・契約社員・正社員と多様な雇用形態を経験し、担当した業務は大学での生物学の講義・実験補助・就活生向けキャリアセミナー、人材会社でのキャリアアドバイザー・人材育成など幅広い。「人材会社の中の人」「人材サービスの利用者」の両方の立場を経験した人として、文系理系問わずキャリア選択をサポートする活動をしている。 twitter:@KOTORA_CC

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