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理学博士KOTORAのキャリア相談室 〜アカデミアから企業への転職を考えている人へ〜

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理学博士で国家資格キャリアコンサルタントでもあるKOTORA先生の理系キャリア相談。第4回目の今回からしばらくは、企業への就職を考えている博士・ポスドクの方々へのメッセージをお送りします!


こんにちは、KOTORAです。私自身が博士ポスドク経験者なので、人材会社勤務時代は、博士課程在学中の人やポスドクとして就業中の人からたびたび相談を受けることがありました。多くの相談に共通するテーマをピックアップしてご紹介したいと思います。初回は、一番多いご相談。

「研究者の道はあきらめて、企業で正社員として働きたいのですが、アカデミアでの研究以外にできることもやりたいこともありません。こんな私でも企業に就職できるでしょうか?」

というご相談について、私がいつもお伝えしていることをご紹介します。

 

研究職につけなくても人生は続く

アカデミアでの研究職はポスドクや准教、特任助教など期間の定めがある雇用が多く、将来について考える大学院生も、実際にポスドクなどの立場で働く人も「雇用期間の定めがあるかどうか」という点がとても気になるのは仕方ないことと思います。アカデミアで研究職につけない、パーマネントのポジションを取れない、ずっと期間に定めのある雇用なのがしんどい・・・となったときに、アカデミアの研究職でないならば意味がない、あとはなんでもいい、やりたいことはない、でも何ができるかわからない、そもそも企業で働けるのだろうか私、でも絶対に正社員がいい、正社員でなければ研究職を諦めた意味がない・・・という気持ち。

だから「正社員がいい」という希望だけが明確な状態で相談に来る人が多いのですが、研究職を諦めて企業で働こうと考えるなら、ぜひ研究と同じくらいの気持ちでやりがいを持って取り組める仕事を探してみてほしいと思います。

そんなことを言っても研究と同じくらいやりたい仕事なんて見つかるとは思えない、という人も多いでしょう。でも、探したことがないからわからないだけで、探してみたら見つかるかもしれないという心持ちでいきましょう。なぜなら、大学院で研究していると世の中にどんな仕事があって、どんな人がどんな風に働いているのか、情報が少なく「自分にはキャリアの選択肢がほとんどない」と感じている人がとても多いのです。

自身の専門分野の研究職につけなかったら人生は終わりだ、とまで思っている博士課程院生やポスドクもいるのではないでしょうか。何かを目指す道というのは狭く苦しくなりがちで、目指すことのためにたくさんのことを選ばなかったり諦めたりしてきたはずです。例えば小さい時に好きだったことはいろいろあったはず。大学に入ってすぐの教養の科目ではのちに大学院で専門とする分野以外にも面白いと思った講義があったのではないでしょうか。いろいろな方向に広がった興味や関心のアンテナを、ある専門分野の研究、というひとつの目標にむかって絞る作業を繰り返していくのが目標に向かって歩むことであり、だからこそ自分には残された選択肢がないように感じられるのは無理もないと思います。

もちろん、そこまでして人生をかけて取り組んできたことが、研究職・研究者として結実しない、ということに対する消耗はあって当然です。努力も時間も戻ってこないのだから、無駄になったと感じる人もいるでしょう。でも、目標へ向かうために選ばなかった選択肢の中に、もしかすると研究職よりも向いていることやおもしろいと思えることが眠っているかもしれないのです。選んだこともやってみたこともないから、自分からの距離がとても遠くて、ずっと取り組んできた研究に比べるとぼんやりとしか様子が見えず、おもしろいかどうかもわからない。でも、それは遠いからわからないのであって、近づいてみたらおもしろいかもしれないんですよ。

研究職を諦めた人の強さは、研究とその他のことの差が大き過ぎて、研究以外のことは全て同じような距離感で取り組めるという点にもあると私は考えています。その中でおもしろいと思えることを見つけたら、今度は研究していたときのような集中力でそこへ向かっていくので一気に距離を詰めてプロフェッショナルになっていく。大学院を中退した人や博士ポスドクから企業へ就職した人で成果をあげている人には、そんな様子が見えてきます。

 

やりたい仕事を見つけるヒント

もちろん、企業で仕事をしたことがないから、どんな仕事が合うかわからないと思う人も多いでしょう。やりたい仕事を探すときに大事なことは自分がどんな価値観を大事にしているかを認識することです。新卒で就職活動をする際におこなう「自己分析」という作業がこれにあたりますが、アカデミアにいる人は大学大学院の新卒のタイミングで就職活動をしたことのない人が多いのでピンと来ないかもしれません。

例えば、小さい頃からの自分の好きなこと・得意なこと、逆に嫌いなこと・苦手なことを書き出してみたり、高校・大学・大学院への進路選択のときにどのように考えて決断したのかを振り返ったり、研究の何が好きで研究者になって何を成し遂げたいと考えていたのかを明確な言葉にして振り返るだけでも、将来を決めるためのヒントが見つかることが多いです。新卒の就活用に自己分析のやり方を紹介した書籍はたくさんあるので本屋さんで少し手に取ってみても良いかもしれません。

もうひとつ、大事なヒントが懸命に取り組んできた研究活動の中にあります。研究とひとことで言ってもいろいろなことをしなければならないし、人によって得意不得意がさまざまですよね。ひたすら手を動かしてきれいなデータを出すのが楽しい人、データを多角的に統計解析して解釈の可能性を考えるのが好きな人、研究室でいろいろな人の研究の話を聞いて議論を深めるのが楽しい人、プレゼンが抜群に上手い人、論文を書くのが得意な人、ポスター発表がいつも美しくわかりやすい人・・・得意、好き、楽しいという要素が仕事の中にあると成果につながりやすいので、自身の研究活動を振り返って周囲の人から良い評価を得ていたこと、自分で得意だと認識していること、時間を忘れて取り組めることを探し、同じ要素のある仕事を探すと楽しく取り組める仕事、やりがいのある仕事、成果を出せる仕事に巡り合えることが多いです。

 

やりたい仕事が見つからなくても大丈夫

ここでひとつ強調しておきたいのは、やりたいこととできることを分けて考えてみる、ということです。やりたいことが見つからない場合でも、研究者を目指していたからこそできることが必ずあります!なので、やりたいことがどうしても見つからない人は、できることを探して成果を出せる仕事に就くのが良いと思います。なぜなら成果が出れば周囲から評価され、誰かの役に立ち、それがやりがいにつながって仕事が楽しくなることが多いからです。そして、できることについてもやりたいことと同様に研究活動の中から探してみてほしいのですが、ここで気をつけたいのは、研究している人にとって当たり前のことが世間一般では当たり前でない、ということです。

研究している人の集団にいると当たり前すぎて認識できない「世間一般の人よりできること・鍛えられていること」が必ずあります。

多くの博士ポスドク経験者に共通する「鍛えられていること」は2つあります。1つめは情報を扱う力です。情報収集、的確な情報の見極め、多くの情報をレビューして概要を掴むこと、それをわかりやすくまとめた資料作成については、博士ポスドク経験者がいない/少ない職場へ行くと驚くほど高い評価を受けます。当たり前ですよね。博士論文を書くために集めた別刷りなどの資料はみなさんどのくらいお持ちでしょうか。私はダンボール4箱ありました。それだけの資料・文献を読んで情報を整理し、自身の研究の位置付けをする研究活動は「情報を扱う力」を知らず知らずのうちに鍛えてくれています。だから、調べてまとめて資料を作る、という作業の多いお仕事では成果を出すことができます。

もうひとつ、よく鍛えられていることはデータを扱う力です。データサイエンティストというほどのことではなく、数字の推移や変化を統計処理したり、適切かつ見やすいグラフにしたり、傾向を読み取って仮説を考えることは研究活動では日常的におこなっていると思います。会社の中でも売り上げや顧客管理など様々な数字を扱う機会が多いので、データをまとめて視覚的に伝わる資料を作る力は高く評価されます。博士ポスドクで研究に取り組んできたことは決して無駄ではありません。いろいろなことが鍛えられているのです。

自分が大事にしていること、やりがいを感じられること、得意なことが明確に言葉になれば、その要素がある仕事を探しましょう。探し方がわからなければ、理系・専門職求人を扱う人材会社に相談してみてください。アカデミアにいた人がやりがいを感じられる仕事、力を発揮できる仕事はたくさんあります。追ってこのシリーズでも私が過去に大学院出身者(博士・博士中退)やポスドクから企業への転職支援をした職種について、どんな経験がいきるのかを少しご紹介したいと思います。

 

世界は広い

私は小さいときから生き物が好きで生物学の研究者になりたかった人なので、研究職を諦めると決めたときには人生が終わったなと思いました。残りの人生は消化試合だから生きていければ仕事はなんでもいいと思っていました。それからキャリア支援の仕事に出会い、研究職よりも会社で働く方が自分には向いているのかもしれないと気づいて10年と少しの時間が経ち、今はキャリア支援の仕事を一生やっていきたいと思っています。当時の自分が見ていた世界はとても狭かったのだということがわかるようになりました。それでも、段ボール4箱ほどあった別刷などの資料を処分することはなかなかできなくて、途中で引越しを2回もしているのにずっと部屋の隅に置いていました。数年前、ようやく古紙回収に出したときにはゴミ捨て場に置いた別刷りの山に向かって手を合わせてしまいました。

20代から長い人は10年以上の時間、全力をかけて、人生をかけて研究に取り組んだのだから、気持ちを整理するのに時間がかかるのは当然だと思います。でも、諦めずに前を向いて、できることをこつこつとやっていくしかありません。サポートが必要なら、周囲に相談してください。自分がまだ知らない広い世界があるのだということを忘れずに、1人で悩みすぎないようにしてくださいね。

著者プロフィール:

KOTORA

キャリアコンサルタント。博士(理学)。生物系で博士号取得後、ポスドク、大学非常勤講師などの職を経てから民間企業の非研究職へキャリアチェンジし、人材会社の中の人10年超。主に理系求職者のキャリア相談・求人紹介を担当。現在はメーカー人事に勤務。これまでに自身も派遣社員・契約社員・正社員と多様な雇用形態を経験し、担当した業務は大学での生物学の講義・実験補助・就活生向けキャリアセミナー、人材会社でのキャリアアドバイザー・人材育成など幅広い。「人材会社の中の人」「人材サービスの利用者」の両方の立場を経験した人として、文系理系問わずキャリア選択をサポートする活動をしている。 twitter:@KOTORA_CC

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