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地球上とかけ離れた環境に、地球で培った最先端の技術を投入! トヨタが挑む月面有人探査車!

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2020年代後半に打ち上げを目指して研究が進められている月面探査モビリティ。JAXAとトヨタがタッグを組み、宇宙に挑む一大プロジェクトです!

地球上での常識が通用しない過酷な月面環境で、宇宙飛行士が何日も中で生活しながら探査できる移動体(ローバ)。トヨタの最先端の技術を応用して開発が進められているとのこと。一体どんな技術なのでしょうか?

プロジェクトにかかわる、横山さんと小川さんのお二人に、お話を伺うことが出来ました!

※プロジェクト概要については、JAXA担当者を取材した過去記事をご参照ください。
JAXA初!月面の有人モビリティ。ヒトを乗せて月面を走るクルマ”ルナ・クルーザー”!

 

経験豊富な地球上の常識が通用しない、まったく異なる環境を把握する

 
──月面で車を走らせるという今回のプロジェクト、スタートした当時の状況はどうだったのでしょうか?

横山:全く未知の環境を走るクルマですよね。何がわからないかがわからない状態からのスタートでした。これは通常の自動車の開発ではまずあり得ないことですね。
トヨタには、これまでの長い歴史の中で蓄積してきた膨大なデータがあります。国ごとにどんな環境で走行するのかとか、どんなシーンで使われ、そこではどんなユーザーニーズがあるのか等など…そういうデータをどんどん車に反映させて、進化させていくことがトヨタの開発です。

ところが今回は、地球上ではなく、日本人は誰も行ったこともない月面で車を走らせるというプロジェクトです。これまでのやり方は通用しません。まずはどのような環境なのかを調べることから始めました。

 
──どうやって調べていったのでしょうか?

横山:本当に最初は四苦八苦でしたね。例えば月面には強い放射線が降り注ぐと言われますが、まず放射線ってなんだっけ?というところからスタートし、私はまず「放射線」をネットで検索しました(笑)

従来の自動車の開発であれば、先輩に聞けばすぐ教えてもらえ解決できますが、宇宙のことは社内で聞いてもだれも知りません。JAXAさんから数百ページの英語文献をいただきました。それらを読み解いてその解釈を確認したり、大学の先生にも聞いたりしながら理解を深めていきました。

小川:私の場合、月の路面がどうなっているか、最初に天体望遠鏡を買ってきて、月を眺めました。覗いてみても、全然見えないんですが、わからなかったからこその行動とも言えますね(笑)。そんなところから始まって、夜な夜なNASAのWebサイトで詳細なデータを見たりして、イメージを膨らませていきました。自分たちでまず何かやってみようという精神です。

小川さんは、ハイラックスやランクルの開発に従事してきた。特に足回りのところの設計に強い。現在は、プロダクトチーム長として要求性能を満たすための技術開発やモノづくりを担当。画像提供:トヨタ自動車株式会社

 
──そのように苦労して調べたところ、月面の環境は地上とどんな違いがあることがわかったのでしょう?

小川:地球との違いはたくさんあるのですが、主には温度、放射線、重力、真空といった要素ですね。月面は夜はマイナス170℃昼は120℃までになります。自動車に多用されているゴムが耐えられない温度ですね。また宇宙線(放射線)は高分子材の分子間結合を破壊するので、通常の樹脂も使えませんね。ボディだけでなく中に設置したコンピューターも壊れたり誤動作を起こしてしまいます。また重力が地球の1/6なので液体の挙動やクルマの走らせ方も変わってきます。真空状態で対流が起きないので、空冷以外の排熱方法も考えなければなりません。あとは、月面特有のレゴリスという砂ですね。地球上の道路はアスファルトで舗装されていますが、月の路面はまったく違うのです。ランクルなどは過酷な砂漠などを走ったりもしますが、そういった砂地とも違います。そういうことを考慮した開発となります。

 
──まさに地球とはかけ離れた環境ですよね。そんな今まで経験したことのない環境ですから、開発はかなり難航したのでは?

横山:そこがある意味新しく作っていくことの醍醐味だと思います。僕らトヨタは今回初めて宇宙のプロジェクトに参加しますが、人類はこれまでロケットや人工衛星などたくさん宇宙に送り出してきました。そういう経験をいろいろベンチマークしたり、勉強させてもらいながら、じゃあ自動車ではどうしていったらいいのだろう?と、プロジェクトのメンバーみんなで考えています。

車の開発がしたくてトヨタに中途入社した横山さん。3歳の息子さんと関わる中で宇宙への興味が湧いてきてプロジェクトチームへ。マネージャーとしてJAXAからのリクエストを要求性能として落とし込む要を務める。画像提供:トヨタ自動車株式会社

 

MIRAIで培った水素燃料の技術が、月面で大活躍しそう

 
──今回は一度のミッションで1000キロ走る車を作ってほしいという命題が与えられています。そんな車体に求められたのはどんなことでしょうか?

小川:厳しい月面環境で1000キロ走るというのは非常に大変なことです。そこで考えるべきはまずはエネルギーです。当然ガソリンスタンドはありません。太陽の当たらない影の領域もあるかと思えば、白夜のように太陽が沈まないことも。その中で太陽光パネルだけでエネルギーを供給するというわけにもいきません。

小川:一番効率がいいのは何だろうと考えたとき、我々が答えとして導き出したのは「水素」です。水素は圧縮してエネルギー密度を高くできるので、月に持っていくまでのエネルギー量が少なくて済みます。トヨタでは、MIRAIという車で水素の燃料電池を製品化しています。水素と空気中の酸素を結合させて電気を発電する仕組みで、そこから水が生成されます。今回の計画ではこの水を捨てずに貯めておき、太陽光発電が使えるときにその電気を使って、再度酸素と水素に分解し、エネルギーとして再利用するのです。発電しながらためて、影の領域に入ったらバッテリーから供給する。そういうシステムを構築して積み込もうとしているのです。

画像提供:トヨタ自動車株式会社

 
──MIRAIの水素燃料電池が宇宙でも使えるとは、まさに未来の車ですね。

横山:もちろんそのまま持っていけるわけではありません。地球上のMIRAIの水素燃料電池は空気を使います。ところが月面には空気がないので、酸素ボンベを持っていく必要があります。ここが地球上との大きな違いとなっています。酸素ボンベは純酸素なので、燃焼しやすいという危険を避けなければなりません。ですからその純酸素が通る配管なども、燃えにくい安全な素材のものに置換したりしています。当然空気と酸素で違いがあるので、発電させるときの混合の割合などもいろいろチューニングして、最適な効率になるようにしています。

ただ、基本的な燃料電池としての仕組みは、MIRAIで開発したものをベースに改良して持っていこうと思っています。

画像提供:トヨタ自動車株式会社

 
──水素燃料を基にしたエネルギーのシステムを構築することで、地球とはまったく別の過酷な環境下でも、宇宙飛行士が快適に過ごせる乗り物を用意することができるのですね。

横山:ローバ内で45日間生活することを想定しています。制約はありつつも、空気、温度管理だけでなく、運動や調理などの衣食住を含めて、探査活動ができるだけ快適に行えるような設備にすることは非常に大切ですね。宇宙飛行士の方の意見を聞きながら引き続き研究開発を進める予定です。

 

自動運転を月面で実現させるために必要な要素を研究

 
──水素燃料のほかに、目玉となる技術にはどのようなものがありますか?

小川:先ほど申し上げた水素燃料のエネルギーとは別で取り組んでいるのが、「自動運転」です。宇宙飛行士が乗る場合でも、長時間の操縦において、ある程度の割合は自動運転で走らせたいでしょう。あるいは人が乗ってなくてもローバを移動させたいというときです。

地球上でトヨタはもちろん各社が開発している自動運転の仕組みは、道路上の白線を認識し、その白線の中で自動運転をさせるというもの。ですが、当然月面には白線が引かれていません。また、GPSがないので自分がどこにいるかわからないのです。この2点が地球との大きな違いで、自己位置推定の技術が必要になってきます。あとクレーターや岩石がゴロゴロしている中で、自分がどこを通っていくべきか、安全に走行可能な経路を生成するという技術も必要となってきます。

 
──非常に難しそうなチャレンジをしていることが伝わってくるのですが、これが実現したら地球上の山道とか、災害現場とかにも応用できるのでは?

小川:まさにトヨタが宇宙のプロジェクトに参画し、開発をやっていこうと研究を始めたモチベーションの大きな一つがそこなんです!我々宇宙月面ローバの研究で、技術をいろいろ鍛えられています。これを地上車にフィードバックして、車だけじゃなく社会全体にも還元できる技術を開発したいと考えています。

 
──ところで、お二人がトヨタに入社したときは、月面探査車を開発するようになると予想していらっしゃいましたか?

小川:実は私は、まるで予見したかのようなことを入社時に言っていたのです!入社試験のときに小論文を課されました。「トヨタは将来に向けて何をすべきか」のような課題だった記憶があります。私が書いたのは、「いずれ人類が火星に降り立つときがやってくる。それが全世界にライブ中継されるはずだ。そのとき、ライブ中継の宇宙飛行士の背後には火星ローバが映り、その車体のグリルにはTOYOTAマークが付いていること。それが大事なんです!」という熱い想いを書いて提出しました。私は特に宇宙フリークだったわけではありませんが、当時トヨタはグローバル展開を積極的にやっていて、世界に広がっていきました。じゃあその先にあるのは何かなと考えたときに、宇宙だ!と思い付いて書いたんですが……。それが今まさに現実になろうとしているってことに、自分で驚いています。

横山:自分はこれまで商用車の開発を中心にやってきましたが、実はトヨタとしては宇宙向け製品はこれが初めてではなく、小さいロボットを宇宙に送ったことがあります。アメリカでは民間もかなり頑張っているようですし、日本でもこれからは民間の力が増えてくるのではないかなと感じています。

画像提供:トヨタ自動車株式会社

 

モノを作って、モノで語れるエンジニアを目指すべし

 
──最後にトヨタの研究開発職を希望する人たちに向けてメッセージをお願いします!

小川:新しいものを生み出そうとする際に必要な能力というかスキルの一つに、「モノで語れる」エンジニアが重要だなと思っています。机上の計算やディスカッションだけでは、なかなか本当の姿をイメージできません。そこで実際にモノを作って、試してみて、初めて分かることが多いのです。まずは自分の手を動かして作ることが大切。そういうことを月面開発プロジェクトでもやっています。我々の世代では幼少期からラジコンを組み立てるなど、機械いじりに親しんできました。今はデジタル化がどんどん進んでいますが、モノが動く原理を、是非実物に触れて体感してほしいと思います。

横山:トヨタは自分たちでやりたいことを考え、それを実現していける雰囲気・風土だと思います。その傾向は最近ますます強くなってきています。なにかやりたいという意志を持って入ってくる人にはいい環境だと思います。宇宙開発に限らず、自分の本当にやりたいことの具体的なイメージを持っていることが、中途入社にあたっては特に重要な点だと思います。

 
──月面と言う未知の空間を走るクルマの開発という、誰も経験したことがないチャレンジングな仕事、本当にワクワクしますね。お忙しい中貴重なお話をありがとうございました。プロジェクトの成功を楽しみにしております!

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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