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広がる研究キャリアの選択肢「一回の決断で人生は終わるわけではない」イスラエルのフードテック企業で活躍する杉崎麻友さん

「一回の決断で人生は終わるわけではない」
イスラエルのフードテック企業で活躍する杉崎麻友さん

- 広がる研究キャリアの選択肢 -

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研究キャリアの一つの選択肢として、スタートアップの動向に注目しているリケラボ編集部。

スタートアップと言えば海外が盛んなイメージですが、日本でも年々増えてきていますし、自分たちの研究成果をその手で社会に還元している未来を想像するのはとてもエキサイティングなことです。

ライフサイエンス分野でも多くのスタートアップが立ち上がっていますが、そんな中、海外のスタートアップで活躍されている方が帰国されているとのことで取材させていただきました。

研究とビジネスの両方を圧倒的なスピードで身につけられるスタートアップでの経験と、その決断の秘訣について教えていただきました。 (聞き手:LINK-J 林)

<お話を聞いた方>
杉崎麻友さん

生物学が好きで北海道大学農学部に進学。東京大学大学院の修士卒業後に、コンサルティング会社、ベンチャーキャピタルが運営するシェアラボの運営担当を経て、イスラエルのフードテック企業に転職した杉崎麻友さん。スタートアップの支援をする傍ら、自宅で細胞培養実験やDIYバイオを行うShojinmeat projectに参画しました。「培養肉の産業を日本でもっと盛り上げたい」という熱意から、自らNPO法人日本細胞農業協会も設立。日々、細胞農業や細胞水産業の普及に挑戦されています。

写真左:杉崎麻友さん。右:聞き手のLINK-J林さん。(LINK-J提供) LINK-Jは、ライフサイエンス領域で産官学連携を促進している一般社団法人。

自分もプレイヤーとして生きたい

── 現在所属されているスタートアップ企業、Forsea Foods(フォーシーフーズ) について教えてください。

培養細胞を用いて魚介類の食品開発などを行うフードテック企業です。202110月に創業しました。先日(20241月)に、培養うなぎを発表し、世界的な人気のあるヴィーガンレストラン「菜道」とのコラボレーションで、新たな細胞性うなぎを用いた料理を創作しました(リリース)。スタートアップのステージとしてはシードラウンドで、これからさらに資金調達しながら量産化の研究開発を進めていくところです。メンバーはフルタイムが12名、学生やアカデミア、パートタイムの人が4名と、20人に満たないですが、大部分がサイエンティストで技術開発に重点をおいたチームです。

細胞培養の独自の技術をベースに、細胞水産業という枠組みの中で、うなぎを最初の製品としてローンチする予定です。業界では珍しく、メインターゲットとして日本に焦点を当てています。将来的にアジアや他にも展開していくことを見据えて、先ずはうなぎの一番大きな市場である日本のマーケットでビジネスをすることを考えています。

── 海外スタートアップへの就職を決断した決め手は何だったのでしょうか?

3年前にはまさか自分がイスラエルで働くとは思っていませんでした。海外で働いてみたい!という気持ちは以前からあったので、チャンスがあるなら、うまくいかないかもしれないけど、やれるだけやってみたいと思って飛び込みました。

もともと研究者になりたかったんです。「博士課程に行きたい」と思っていたので、博士に進学できるラボを探していました。細胞農業を推進する活動を通じて、ForseaCEOに出会ったのですが「研究するのにおすすめの先生いない?」と聞いていたら、Co-Founderの先生を紹介してもらいました。それをきっかけに、「Forseaの研究員をやってみないか」いうオファーをいただきました。シェアラボ運営の仕事を通じて、多くの起業家や研究者に出会う機会がありその姿に刺激を受けていたので、自分もプレイヤーとして生きてみたい、と思って決意しました。

── 実際、入ってみてどう感じましたか?

ケイパビリティを持ったメンバーがいることが刺激的で、チーム一丸となって進めるという使命感や目標があり、スピード感があります。「この人みたいになりたい」「この人の仕事の仕方を真似したい」と思えるような人が何人も身近にいることが、環境としてとても良いと感じています。

── 社内での杉崎さんの役割はどういったものでしょうか?

これまでの活動の中で細胞農業や培養肉の世界では色々な方とつながりがあったので、研究だけでなく、事業開発の分野でも経験を活かす機会に恵まれ、研究とビジネスの両面を担当しています。

スタートアップをインターンで経験するという選択肢

── もし学生に戻ると仮定したら、どんな選択肢があったと思いますか?

当時の私——大学生や修士課程のときには、スタートアップのことは微塵にも考えていませんでした。研究者として生きるのであれば「大学に残る」か「それ以外」の2択しかなかった。

研究者としてのキャリアは、民間企業に就職するとか、研究機関で研究するなどの選択肢もありますが、当時の私は、大学に残るか否かしか考えず、視野が狭かったと思います。もし、今の知識をもった状態で戻れるのであれば、いくつかのスタートアップで、パートタイムあるいはインターンで働いてみたいですね。

研究系の学生は、日々の実験や論文などで忙しく時間がなかなか取れませんが、それでもその貴重な時間の一部をこういった経験に投資する価値はあると思います。スタートアップで働いてみて、自分の培った知識や技術が「研究」だけでない、社会実装する上で活かせる場がある、求められることがある、ということを知り、見えている世界がぱっと広がりました。スタートアップでは多様なバックグラウンドを持つメンバーと一緒にはたらき、多様な考え方を知ることもできるので、学生のうちに経験しておければもっと視野が拡がって良かったと感じています。

── イスラエルのスタートアップでは、学生はどのような働き方をしていますか?

イスラエルの学生は積極的に手伝いにきてくれています。「手伝い」と言っても、アシスタント的な働き方ではなく、会社の一員としてしっかりと役割を担った働きをしてくれています。そしてそれは、スタートアップにとっても、学生にとっても良いことが多いです。例えば、大学という枠組みに囚われずに研究者と話す機会ができ、会社を知ることができます。学生インターン同士では、就職先の情報交換があったりするみたいです。日本だと学生をお客さんとしてインターンを受け入れていますが、イスラエルだと、本当に一人のチームの一員として招き入れている。そういう仕組みが日本でもあったらいいなと思います。

── インターンを通じて大学では得られない情報や人脈が得られるのですね。

人のネットワークがとにかくすごいので「〇〇さんが仕事を探しているらしいよ」とか「○○のスタートアップ、解散したらしいので、引っ張って来いよ」みたいな情報が入ってきます。学生に限らず、人の流動性が高い。スタートアップのうまれてくる総量も高いし、流動性も高いので、業界全体として活気がありますね。

── 杉崎さんとしては、今後どんなところを目指していらっしゃいますか?

Forsea Foodsが成長して大きくなることで、自分がロールモデルとなることを目指したいです。修士も研究職にチャレンジできる可能性があること、こんな髪の色でも仕事ができること、自由な発想で働けるということを若い人に知ってもらいたいと思っています。日本では、起業家やスタートアップには男性が多く、ジェンダーの偏りがあるため、女性でも活躍できることを事例として見せることで、一つの勇気を与えるきっかけになると思っています。そのために会社を成長させないと、というのが今の野望です。

写真撮影:LINK-J

「経験しとこうぜ、学生のうちに!」

── LINK-J20243月にキャリアイベントを開催するのですが、そこでスタートアップを知ってもらう機会を用意します。スタートアップで働くことの魅力について、お願いします。

一番の魅力は、一般的な企業と比べ、経験値の密度が圧倒的に高いことです。少人数の組織のため、研究だけでなく一人で何役もこなす必要がありますが、そのおかげで圧倒的な経験値を積むことができます。初めて取り組むことも、「実際にやってみたら割と得意だった」とか、「憧れをもっていたけど、実はその仕事を好きになれなかった」など、自分の仕事の得意な面を見つけるきっかけになります。

何もないところから始まるスタートアップは、確かに大企業よりも大変なことも多いかもしれません。でもそれを経験だと思って前向きに取り組むことができると、後々意外なところで活きてきます。2回目、3回目とチャレンジを重ねるうちに自分が強くなっている、成長している実感があります。

スタートアップで未来永劫働くのではなくても、この経験は、次に転職や起業するときに必ず自分を助けてくれる、そう確信しています。

間違った固定概念として「スタートアップは給与が安そう、お金なさそう」というイメージがあります。全く逆で、スタートアップに行けば、新卒よりお給料が良くなる可能性があります。さらに、海外で働くという選択をすると英語スキルも同時に積むことができるので、働いてお金をもらいながらスキルを身につけられ一石二鳥です。

── スタートアップで働くことに興味がある学生さんへのアドバイスはありますか?

「学生のうちにスタートアップでのインターンを経験しておくといいよ!」ということですね。大学内の「起業塾」などで得られる情報もありますが、実際に中に入って働くことで、将来の糧となって他の人と差がつくと思います。一度就職すると、そんなに気軽には転職しにくくなると思うので、「スタートアップも経験しとこうぜ、今のうちに!」と強くお勧めしたいです。将来、自分で起業するときの予行練習にもなりますしね。

Blockbuster TOKYO 研究者、営業・管理者のためのLifescience Startup career fair 2024

今回インタビュアーとしてご協力いただいた林さんが所属するLINK-Jでは、317日にライフサイエンス系研究者のためのキャリアフェアを開催します!


日時:2024317日(日)13:00-18:00

会場:東京ミッドタウン八重洲 カンファレンスホール
詳細・参加申込:https://www.link-j.org/event/post-7655.html

── 最後に、キャリアに悩まれている方へのメッセージをお願いします。

是非自分からどんどん動いてください。世界はあなたのために回っているわけではない。だから白馬の王子様が来るのを期待するのではなく、自分から声をかけるということを心がけていただくのが良いと思います。一歩踏み込めるか、難しそうだなと止まるかで、人生が変わるので、フットワーク軽く進むのが良いのではと思います。

研究者になろうと勉学を積まれた学生さんは既に賢いです。いくつかの選択肢を前に本当に悩まれると思いますが、考え抜いて選んだとしても、どの道を選んでも良いことと、悪いことがあります。どこへ行っても何かしらあります。なので、どうしても決断しきれないときは、最後鉛筆を転がして決めてしまうのもありなのではないかと。一回の決断で人生が終わるわけではないので、思いつめたら気楽に。いまどき終身雇用の時代でもないので、合わないと思ったら次の道にチャレンジするために何をしたらいいか考えれば必ず道はあります。

写真撮影:LINK-J

杉崎麻友
Forsea Foods, Ltd.  Cell Biologist, BD Manager

北海道大学農学部応用生命科学科卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。20177月アクセンチュア入社。有志団体であるShojinmeat projectの中で自宅細胞培養実験を始める。2018年からBeyond Next Venturesが運営するシェアラボBeyond BioLAB TOKYOの運営・管理を担当しながら、細胞農業の社会認知や普及に向けた活動を行なう。2019年にNPO法人日本細胞農業協会を設立。同協会理事。2022年からイスラエルのスタートアップであるForsea Foodsへ移り、細胞水産業の実用化を目指す。

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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