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現役の製薬会社採用担当者が語る! 「医薬品業界の今後と求められる人材像」

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高齢化が進む日本では今後、医薬品に対するニーズが間違いなく高まっていくだろう。世界に目を向ければ、中国をはじめとする新興国でも今後、医療環境の整備に伴い医薬品がより求められるはずだ。さらにアンメットメディカルニーズ、すなわち未だ有効な治療法の見つかっていない病気に対する治療法の確立も社会的課題である。社会的意義がますます高まる新薬開発・医薬品研究は今後、どのように推移していくのだろうか。また、医薬品業界ではどのような人材が求められるのだろうか。大日本住友製薬株式会社 人事部の板倉朋宏氏に伺った。

 

高まる医薬品ニーズ、市場は海外で広がる

―初めに医薬品業界の今後の見通しを教えてください。

板倉:日本を先頭に先進国はいずれも、高齢化が加速しています。そうなると当然、病気になる方の割合も増えていくでしょう。従って医薬品に対するニーズは確実に高まっていきます。もう一点、社会的意義が高まるのがアンメットメディカルニーズへの対応でしょう。アルツハイマー病やがん、その他多くの難治性希少疾患など有効な治療方法が提供されていない疾患に応えていくのは、医薬品業界全体に課せられた重要な使命です。

―今後、市場としての規模が大きくなるのは人口の多い中国や新興国でしょうか。

板倉:これからの医薬品業界の主要市場は、海外になると考えています。なかでも市場として重要なのは、北米と中国を含む新興国です。特に中国は今後も市場が大きくなるでしょう。日本国内に関しては、各社がそれぞれ重点領域を絞り込み、差別化を図っています。

当社の売上は、5割以上が北米であり、中国やその他新興諸国が1割程度と、海外売上比率が急速に大きくなっています。また、当社は精神神経領域、がん領域、再生・細胞医薬分野の3つを重点領域と定め、革新的な新薬の創出に力を入れています。なかでも再生・細胞医薬分野に関しては、京都大学・山中伸弥教授が開発したiPS細胞を活用する医療が世界から注目されており、日本の特徴であり得意分野でもあります。当社はこの分野で京都大学などのアカデミアや国とタッグを組み、オールジャパンの一員としての取り組みを進めています。同時に精神神経疾患やがんについての研究開発はグローバルに進めており、海外子会社と共に国際共同治験を積極的に進めています。

医薬品市場の成長率

―新薬開発が常に求められる医薬品業界は、産業界のなかでも特に研究開発に力を入れていると聞きました。

板倉:総務省の調査によれば、売上高に対する研究開発費比率は、製造業全体の平均値が2014年度で4.1%です。これに対して医薬品製造業は12.2%と他の産業に比べて突出して高いのが特徴です。新薬開発に際しては早期のグローバル展開が重要で、海外で売れる新薬が求められています。一方で、製薬会社だからといって薬の開発だけを手がけているようでは、今後の事業展開が厳しくなる可能性があるとみています。例えば、自動車業界のトップメーカーは、自社のライバルを同業他社ではなくIT産業とみなすようになっています。これと同じことが医薬品業界でも起こるのではないでしょうか。実際、当社も神戸医療産業都市にある再生・細胞医薬神戸センターでは医薬品とは異なる業界の企業との共同研究を積極的に進めています。いわゆるオープンイノベーションへの流れは、今後ますます加速すると思います。

売上高に対する研究開発費比率

 

医薬品開発におけるデジタル革新

―医薬品業界においても今後はDX、つまりデジタルトランスフォーメーションが進んでいくのでしょうか。

板倉:そうならざるをえないでしょう。そこで注目されているのが、in sillico(インシリコ:シリコンの中、つまりコンピュータを活用した医薬品候補化合物の探索)創薬です。創薬のポイントは、疾病を引き起こすタンパク質の働きを制御する化合物を見つけることです。この化合物探索にAIやビッグデータを活用するのです。

当社でもAI創薬を含むインシリコ創薬の取り組みに力を入れています。シミュレーションとAI技術を組み合わせて予測精度を高める一連のプロセスにより、計算のみによる薬剤創出に近づきつつあります。精神神経領域で見いだした創薬シードにおいて、実験による有効性確認に成功した化合物もあります。

―御社は、デジタル革新を加速するための投資にも積極的だと聞きました。

板倉:2019年、Roivant Sciencesに約30億ドルの投資を行いました。同社はブロックバスターへの成長が期待される製品をいくつか持っているほか、2つの革新的なテクノロジープラットフォームを持っています。その1つは、臨床開発を加速させるシステム『DrugOme』です。このシステムは、データサイエンスに関して高い専門知識を持つComputational Researchチームによって構成されています。もう1つが『Digital Innovation』で、IT技術を駆使してビジネスプロセスの最適化を実現します。

―医薬品開発においても今後は、データサイエンスが勝負のカギを握るわけですか。

板倉:その流れは間違いないでしょう。こうしたトレンドに対応するため、社会人を対象としたデータサイエンスのリカレント教育を行う大学が出てきています。例えば、関西圏なら滋賀大学データサイエンス学部、首都圏なら東京医科歯科大学のTMDU型データサイエンス医学研究国際人材育成プログラムなどがあり、当社も複数名の研究開発職員を半年程度派遣しています。医薬品製造業においても、情報工学で学位を持つ人材に対するニーズは高まっていると思います。

―大学との連携についてはオープンイノベーションが盛んに行われていますが、医薬品業界の取り組みはいかがでしょう。

板倉:研究を加速する仕組み“オープンイノベーション”は、間違いなく今後の一つの柱となるでしょう。当社に限らず、研究員を大学に派遣して共同研究に取り組んだり、大学内の産学連携施設にラボを設置したりする企業が増えています。

一方で当社独自のオープンイノベーション活動が『PRISM』です。PRISMは、2015年に研究ニーズ提示型活動として、当社の初期創薬研究ニーズとマッチするアイデア募集からスタートしました。その後2017年度には、より広範な協業や提携の機会を増やし、画期的な医薬品の創生を効率的に行う目的で、研究開発シーズ募集型を追加しました。さらに2018年からは、若手研究者の斬新な研究アイデアを共創することにより、革新的な創薬方法や技術などの創出を目的とする若手研究者共創型も始めています。

 

研究職と開発職、それぞれに求められる力

―医薬品研究者には、どのような資質が求められるのでしょうか。

板倉:未知の現象に挑む研究者であるからには、自分で深く考える力や主体的に挑戦する姿勢が必須です。メーカーとアカデミアにおける研究の違いを説明するなら、メーカーでは専門の異なる研究者との連携が特に必要であり、基礎だけではなく応用、つまり科学的価値の社会還元を常に意識する点が大切です。「自らイノベーションを起こすんだ!」という気概を持ちつつ、「ものづくり」によって人々の健康に貢献したいと思える人が、企業における研究者です。

―イノベーションは、トップダウンあるいはボトムアップのどちらで起こるのでしょう。

板倉:トップダウンのイノベーションは不確実性が高い今の世の中では難しいのではないでしょうか。少なくとも当社の場合は、ボトムアップが特徴です。実は当社は、ここ10年で大きく社風が変わりました。以前はどちらかといえばトップダウン型でしたが、それではイノベーションは起こせないと当時の研究トップが一大改革に取り組み、社風を一変させました。その際に誕生したのがアングラ研究を認める風土です。

―アングラ研究とは変わった名前の研究ですね。

板倉:アングラ研究はアンダーグラウンド研究の略で、いわゆる「水面下で自由裁量で行う研究」の事です。かつて当社では20%ルールとも呼ばれていましたが、その名前の通り業務の約20%は、自由な研究時間として使ってよいのです。私自身も研究所にいたときには、疼痛をメインのテーマとしながら、難聴の研究を自主的に続けていました。また当社では研究開発を推進するため、プロジェクト制を導入しています。これは入社年次に関わらず創薬テーマの発案者がプロジェクトリーダーとなり、予算の執行権や人事評価権を持ち、研究から臨床開発段階までプロジェクトを強力に推進する制度です。

―では研究職ではなく、開発職にはどんな能力が必要でしょうか。

板倉:研究職と開発職の違いは、大きく2つあります。第1は、実験をするかどうかであり、開発者が実験を行うことはありません。第2は、扱うデータの種類です。研究職が扱うのは動物実験のデータがほとんどであるのに対して、開発職が扱うのはヒトのデータが中心です。医薬品の研究開発に関心がある方の中でも、「少しでも早く製品を患者さんに届け、助けたい」と考える方には、開発職が向いているでしょう。

―開発職は入社後何年かは主に病院を訪問する業務をすると聞きました。

板倉:病院を訪問する業務というのは、「推進業務」と言って、その病院や施設での臨床試験について医師やコメディカルの方と情報交換し、臨床試験の成功に必要なデータ取得を行う業務です。もちろん重要な業務なのですが、近年製薬会社では「推進業務」を医薬品開発の専門企業(CRO)へ外注することが多くなってきています。よって、製薬会社の開発職の仕事の中核は、臨床試験のプロトコル設計などの「企画業務」に移ってきています。

当社ではやる気と能力さえあれば、入社年次に関係なく1年目から企画業務を担当してもらうことがあります。そのためにはサイエンスに基づいた企画立案能力を備えていることと、薬学系や医学系の知識が必要です。研究者、開発者に共通する「やりがい」と「求められる資質」を簡単にまとめると図のようになります。なかでも特に強調したい資質が、高い倫理観です。これは生命関連企業の社員として必須です。

 

挑戦し、最後までやり遂げる意気込み

―医薬品業界への就職を考えている若い人たちへのメッセージをお願いします。

板倉:まず就職活動全般の話になりますが、とにかく「自分に正直に」取り組んでほしいと思います。就活は学生と企業が双方のマッチングを行う場です。どちらが上でも下でもない。面接などで本来の自分を押し殺して、その会社の「求める人材像」に無理に合わせようとすることは、決して良い結果にはつながらないと思います。仮にそれで入社が決まってしまったら、入社後にギャップに苦しむことがあるように思います。目先のキャリアではなく、長い人生を考えて就活に臨んでほしいですね。

―自分本来の姿を包み隠さず見せるほうが良いのですね。

板倉:私は、これまでの採用担当としての経験から、「みんなちがって、みんないい」という信念を持っています。正直に、自分の言葉で語っている学生はとても生き生きしていて魅力的に感じます。そして、就活生にとっても、ありのままの姿を見せて、それを受け入れてくれる企業に行く、自分の価値観と合う会社に就職する。それが一番幸せではないでしょうか。

―御社が求めるのは、どのような人材でしょうか。

板倉:先ほどのアングラ研究とプロジェクト制度が象徴するように、当社はかなり自由度の高い社風です。だからこそ、研究職と開発職のいずれにおいても「挑戦者」を求めています。当社はまだまだ発展途上であり、伸びしろの大きな会社です。自分の成長と会社の成長を重ね合わせて未来を開く。そんなチャレンジングな生き方に面白みを感じる方に、ぜひ来てほしい。そして、大学での研究期間は最先端のサイエンスを学び、理系人材としての基礎を育む非常に貴重な期間ですので、目的と自信を持って自身の研究に励まれるよう期待します。


大日本住友製薬株式会社
人事部 採用担当
板倉 朋宏

2004年3月、大学院薬学研究科修士課程修了、同4月、旧 住友製薬株式会社(現 大日本住友製薬株式会社)入社、研究本部配属。以降、泌尿器(過活動膀胱)、循環器(高血圧)、消化器(過敏性腸症候群)、がん(がん悪液質)、疼痛(神経障害性疼痛)の研究に携わり、2015年12月より人事部に異動、採用担当・キャリアコンサルタント。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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