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第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで3 |第8回「有機合成実験テクニック」 Chem-Stationコラボレーションシリーズ

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日本最大の化学ポータルサイト「Chem-Station」さんとのコラボレーション記事。第8回目の今回は「第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで3」について。著者はChem-Station代表のwebmasterさんです。


後半戦である第6回から3回に渡り「第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで」と題して、実践的に使える合成反応の実験条件の選択についてお話しています。これまで、酸化反応・保護基の脱着・そして縮合反応という、頻用される有機反応について第一手を紹介しました。今回は有機合成を専門としない人でもよく行うクロスカップリング反応ついて述べたいと思います。

 

クロスカップリング反応の基礎

以下の反応式をみてください。これは筆者が大学3年生の有機金属化学で教えている代表的なクロスカップリング反応の鈴木ー宮浦クロスカップリング反応です。

有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物をリン酸カリウム、xPhos配位子とPd2dba3触媒存在下反応させるとカップリング体が収率90%得られる。反応は、有機ハロゲン化物のC–Cl結合のパラジウムへの酸化的付加、ホウ素化合物とトランスメタル化、続く還元的脱離という機構で進行する。

なんじゃこりゃー、さっぱり何書いているかわからないぞ!という方は、ちょっとこの先も理解するのは難しいと思いますので、もう一度有機化学を勉強し直すことをおすすめします。わからないけど、どうしてもクロスカップリングやりたいという方は、第1手の部分のみお読みください。反応はわかるけどなぜこんな複雑な試薬や反応条件を使っているのかわからない。そんな方におすすめいたします。大学3年生の疑問としては、

1.なぜ有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物の組み合わせなのか?
2.なぜパラジウム触媒なのか?
3.配位子はどのように影響しているのか?
4.塩基はどのように作用しているのか?
5.反応機構は?酸化的付加・トランスメタル化・還元的脱離って?

などになると思います。講義ではこれを懇切丁寧にクロスカップリング反応の歴史を紐解いて教えていくわけで、最後には上の反応条件の意味がわかるようにしています。

化学といえど、有機合成をほとんど使わない研究もたくさんあります。しかし、ノーベル化学賞を受賞したクロスカップリング反応ぐらいは覚えておいてほしいという思いと、化学研究に勤しんでいるのならば、この反応は使う機会が一番あると思うからです。

 

クロスカップリング反応条件の第一手は?

では本題のクロスカップリング反応(鈴木ー宮浦クロスカップリング)の第一手はなんでしょう。

カップリング反応初心者には数多の反応条件が報告されていて、何を選択したらわからないというのが問題です。もちろん、反応条件だけでなく、様々な反応基質を使った試行もされているため、SciFinder等で調べれば、自分がカップリングをしたいそのまま、もしくは類似の化合物が見つかるかもしれません。その時は、よっぽど複雑で高価な試薬を用いない限りはその反応条件を用いましょう

一方で、あまり類似なものがない、とりあえず反応をかけてみたいという場合はどうしたらよいでしょうか。

そんなときは以下の条件を試してみてください。

酢酸パラジウム、トリフェニルホスフィン、炭酸ナトリウム、トルエン水(4:1), 80度

経験上最も反応がうまく進行する安価な条件です。塩基を変更するとかなり変わるので、反応が進行しなければ炭酸カリウム・リン酸カリウムなどに変えてみてください。

もちろん、この条件よりもいい条件はたくさんあります。ほんの触り程度ですが、ファーストチョイス以外にも各条件の変更を少しだけ述べておきましょう(学術的な意味はここではほとんど述べません)。

パラジウム塩:塩化パラジウムや、もう少し溶解性の高い塩化パラジウムのアセトニトリル錯体、Pd(dba)2なんかは試してみましょう。

配位子:トリフェニルホスフィンがもっとも安いですが、酸化的付加が進行していなさそうな場合は、嵩高いアルキルホスフィン(Cy3P. tBu3P)を試してみましょう。いろいろな意味でも万能なのは、Buchwald配位子。これもたくさん種類がありますが、XPhosはかなり万能なので使ってみてはいかがでしょうか。

添加剤:クラウンエーテルや塩化リチウムなどを添加すると収率が大幅に向上する例があります。

溶媒:THF/H2O系、ジオキサン/水系も試してみましょう。

 

官能基を使わないクロスカップリング

これだけだと少し有機合成研究をしているひとは物足りないかもしれません。そのため近年の潮流であるC-H結合をそのまま使ったカップリング反応の第一手についても少し紹介しましょう。

上記のクロスカップリング反応には、カップリング剤にハロゲン・ボロン酸などの官能基が必要であり、その官能基を導入するために数工程余分に反応を行わなければいけません。そのため、カップリング剤の片方もしくは両方の官能基を入れずに反応を進めることができればより効率的となります。これもここ十数年爆発的に流行し、数多の反応条件が報告されてきました。

つまり実際に似たような化合物で反応を行おうとしても第一手がわからないということがあります。

例えば、1,3-アゾール化合物のアリール化反応。筆者も得意とする変換反応です。様々な金属や配位子、アリール化剤を用いた反応条件が報告されていますが、第一手はこれ。

酢酸パラジウム・トリフェニルホスフィン・塩化セシウム・DMF, 140度[1]

この反応条件は大阪大学の三浦先生らによって報告された初期的な反応条件ですが、新反応条件が様々報告されたあとも万能に使えます。配位子もトリフェニルホスフィンで安価です。もちろん反応が進行した後の最適化にはより最新の反応条件を検討したほうがよいですが、第一手としてはこれで十分です。くれぐれもはじめから安価なニッケルや変わったアリール化剤を用いてはいけません。

続いて、ベンゾチオフェンやチオフェンに対するC3位(β位)のアリール化反応です。同様の形式の反応は筆者が先駆けて報告していますが[2a]、第一手はこれ。

ヨードアレーン・Pd2(dba)3・Ag2CO3, HFIP

英国マンチェスター大学のLarrosaによる反応条件です[3]。HFIPが少し高価なのが玉にキズですが、室温できれいに進行します。筆者らの条件[2b]も悪くないですが、こちらのほうが良い結果を出すことがあるので、容赦なく人の条件を使っています。

最後に、フェニルピリジンのアリール化反応。Ackermannによって報告された以下のRh触媒反応が第一手です[4]

ですが、反応が進行しないときに使う好条件はこのコバルト触媒条件。グリニャール試薬の添加が必要ですが、なんと熱をかけなくても室温で進行します。

 

自分の第一手をもとう!

以上、クロスカップリング反応の第一手をかいつまんで紹介しました。三回に渡りお届けした、反応条件の第一手。自分の第一手をたくさんもっていると、迅速な化合物供給が可能となり研究が円滑に進むので、常に、新しい合成を行うときは同時に文献反応を実際に自分の手で再現してみることをおすすめいたします。

参考文献
1.Pivsa-Art, S.; Satoh, T.; Kawamura, Y.; Miura, M.; Nomura, M. Bull. Chem. Soc. Jpn., 1998, 71, 467. DO: 10.1246/bcsj.71.467
2.(a)Ueda, K.; Yanagisawa, S.; Yamaguchi, J.; Itami, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 8946. DOI:10.1002/anie.201005082 (b) Kirchberg, S.; Tani, S.; Ueda, K.; Yamaguchi, J.; Studer, A.; Itami, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2011, 50, 2387. DOI:10.1002/anie.201007060
3.Colletto, C.; Islam, S.; Jukiá-Hernández, F.; Larrosa, I. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 1677. DOI: 10.1021/jacs.5b12242
4.Ackermann, L.; Vicente, R.; Althammer, A. Org. Lett. 2008, 10, 2299–2302. DOI: 10.1021/ol800773x
5.Punji, B.; Song, W.; Shevchenko, G. A.; Ackermann, L. Chem. Eur. J. 2013, 19, 10605–10610. DOI: 10.1002/chem.201301409

著者プロフィール:

Chem-Station

Chem-Station(略称:ケムステ)はウェブに混在する化学情報を集約し、それを整理、提供する、国内最大の化学ポータルサイトです。現在活動18年目を迎え、幅広い化学の専門知識を有する100名超の有志スタッフを擁する体制で運営しています。

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