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「人間と友達になれるAI」はどうやってつくる? ドラえもんを本気でつくる研究者、大澤正彦さんに聞きました。

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「ドラえもんが本当にいたらいいのにな」子供の頃そう思った人は少なくないはず。もしかしたら、大人になってもそう思っている人は多いかもしれません。

実は今、「ドラえもんを本気でつくる!」として、人工知能研究領域を中心に、多種多様なバックグラウンドのメンバーで構成される「ドラえもん実現のための一大プロジェクト」が注目を集めています。

中心人物は、日本大学助教、大澤正彦さん。子供のころからドラえもんづくりの夢を抱いて、貪欲に様々なジャンルの知を求め、現在は主に人とAIのインタラクションについて研究を重ねています。

ドラえもんのように愛されコミュニケーションできるロボットをどうやってつくろうとしているのか?じっくり聞いてきました!

 

決して好意的に受け止められた訳ではなかった、ドラえもんづくりの夢

 
──ドラえもんをつくろうと思ったのは、いつ頃からですか?

よく聞かれるのですが、実のところ記憶がまったくなくて…。気が付いたらつくりたいと思っていました。でも小さな頃は誰にも本気にしてもらえずに葛藤していましたね。

 
──葛藤…ですか?

はい。子どもの頃は当然ながら、どうつくるかなどの根拠を説明するための武器を何も持っていませんでしたので、大人からは「この子は何を言っているんだろう…(できないと思うよ)」といった目で見られましたし、自分でもどうすればいいのかわからずに立ち往生していたのだと思います。ドラえもんを見るのすら嫌になってしまった時期があったくらいです。

また、成長してからも実際にドラえもんをつくるために必要だと感じて学ぼうとした学問分野では、コテンパンに否定され、厳しい指導を受けたり、「そんな研究をするな」と言われたこともありました。つくろうと思ってから15〜20年の間はずっともがいていました。

 
──それでも諦めずに続けられたんですね。

紆余曲折ありましたね。小学校では電子工作にハマってたくさんロボットをつくり、高校は東工大の附属校に進んで、プログラミングに夢中になりました。大学では人工知能分野に飛び込みましたが、やってきたことはバラバラです。実は、大学は希望していた東工大の推薦枠に入れず、慶應義塾大学の理工学部に進みますが、ここで大きなカルチャーギャップがありました。慶應義塾は東工大のような、研究に没頭しているような空気感はありません。みんなとカラオケに行って、今どきの流行りの歌を聞きながら考えてしまったんですよね。研究室にただ閉じこもってドラえもんをつくったとして、この人たちに受け入れてもらえるのか、って。

 
──自分が予想していなかったところに入ったことで、世界の狭さに気づいたという感じでしょうか。

人間をもっと知るために大学の4年までは研究を封印して、児童ボランティアをしたり、アルバイトに励みました。百貨店では6年間アルバイトをしました。でもこうした経験はとても大事で、パートの人の言っていることが、読んだことのあるコミュニケーション研究の論文と言ってることが同じだ、と気づくこともありました。どんなことでも知能研究に結び付けられるなと思ったし、研究室では学べないことを研究以外の体験から数多く吸収できました。

 

理論と仲間を得て「つくりたい」が「絶対につくれる」という確信に変わる

 
──ドラえもんをつくれる!と確信したのは何かきっかけがあるのですか?

4年生になり、研究室配属とともに封印していた研究を再開しました。人工知能を手始めに、神経科学、認知科学などドラえもんづくりに必要そうな学問を怒涛のようにインプットしていき、必要なことを学ぶにつれ「論理の力でドラえもんをつくれる」と、自分なりの完成までのロードマップを描けるまでに至りました。同時に、全脳アーキテクチャ若手の会を立ち上げると、それまでは冷たい目で見られることが多かったのに、「大澤はドラえもんをつくる人だから」と真顔で言ってくれる仲間が初めてできました。2014年、21歳の時のことです。生まれて初めて自分の夢が人に認められたという体験は強烈で、「つくりたい」が「つくる!」に変わった瞬間でした。

 

「みんなが認めてくれたら、それがドラえもん」

 
──ここでひとつギモンなのですが、ドラえもんに対して持っているイメージや求めているものって、人によってかなりマチマチのような気がして、ドラえもんづくりでは、まずそこがとても難しそうに感じるのですが。

僕も長年、その定義について考えてきました。例えば四次元ポケットを持っている、しゃべる、感情があるなど数多くのことが浮かびますが、「こういうものがドラえもんだ!」という決定的な定義については簡単には言えません。考え抜いた末にたどり着いたのは、「みんなが認めてくれたら、それがドラえもん」ということでした。ドラえもんの機能ではなく、友達のような親近感のある姿にドラえもんの本質や可能性を感じたのです。周囲の人や社会とのつながりでドラえもんを定義し、みんなが受け入れられるものができたらそれが“ドラえもん”なんです。

 
──それで沢山の人を巻き込みながらドラえもんづくりをしているのですね。

そうですね。日本大学のほかに、僕は専修大学でもゼミを受け持っていますが、両方合わせて約20名が大澤研のメンバーとして活動していて、そのほかにSlack上でつながっている協力者が約65人、学生だけでなく社会人、それも芸術家や音楽家、さまざまなジャンルのビジネスパーソンなど、多様なバックグラウンドを持つ人が集まってくれていて、一緒にドラえもんをつくっています。全脳アーキテクチャ若手の会は、現在では大学生以外に社会人や高校生支部もあり、全国で活動していますが、その人たちも含めると相当な人数になると思います。

 

しゃべらないロボットともコミュニケーションできるという、知能研究の本質を探る

 
──実際の開発は今どのくらいの段階なのですか?

今つくっているのは、作品に出てくるドラえもんのミニサイズ版といえる「ミニドラ」のようなロボットです。単純な動きで「ドラドラ」としゃべるだけ。ミニドラだと思って見たらそう見えてくるという感覚を追求し、デザインも非常に曖昧です。

 
──ドラえもんではなく、ミニドラですか?

なぜ最初からドラえもんをつくらないのか、ということには理由があります。

人の知能を考えたとき、赤ちゃんは生まれたときに完成した状態ではなく、心があるかどうかもわかりません。でも生まれた瞬間には心があると想定され、人に愛されて育つことで心が完成していきます。現在のロボット研究というのは最初から賢く、完成されたものをつくろうとしますが、そのやり方では本当の意味で人と調和するロボットはできないのではと思いました。赤ちゃんのような状態のロボットをまずつくり、それが愛される過程で知能や言語を獲得していくことを目指して、ミニドラのようなロボットづくりからスタートしました。

 
──実際にミニドラをつくって、どんな手ごたえがありましたか?

あるときの設定では、このロボットはしゃべりかけると反応を返しますが、センシングはしていないのでランダムに手を動かし、返すのは「ドラドラ」という単語だけです。これを使ってある実験を経て、ロボットは「複雑な言葉をしゃべらなくてもコミュニケーションを取ることが可能だ」ということがわかりました。ドラドラしか言わないのにコミュニケーションが成り立つというのは、ちょうど大学生同士が「ウェーイ」と一言だけで「おはよう」や「じゃあね」を言い分けるのと似ています。ドラドラしりとりといって、人間とこのロボットでしりとりをする実験があります。人間が「りんご」というとロボットは「ドララ」と返します。しかし人間側が「今、ゴリラって言ったでしょ」と、勝手に想定して返すとまた「ドララ~♪」と言ってくれる。それに対して人間が自分に聞こえたことに基づいて「●●●!」と単語を返すことで、しりとりを続けていくことが可能なんです。現段階で1時間半、このロボットとコミュニケーションできる人もいます。

 
──す、すみません。それは本当にコミュニケーションが取れているといえるのでしょうか?????

ドラドラしりとり実験に参加してくれた人の実感として、意思の疎通ができたと感じたということです。また「私の名前は●●●●だよ」と教え続け、たまに「ドラララ!」とちゃんと4文字で返してきたりすると、人は「名前を覚えてくれた!」という感覚を得ます。人間の赤ちゃんと母親のやり取りに似ていますね。赤ちゃんがバブバブしか返せなくても、お母さんは赤ちゃんとコミュニケーションを取れている実感を持ちます。それと同じで、ロボット側の表出に対してどんな意図があるのか、人間側がどう受け取るのかということが、本質的なコミュニケーション実感に直結しているんです。そして、お母さんや大人からの語りかけで赤ちゃんが言語を獲得するように、人間とのやり取りの中でロボットの知能や言語を育てる。そういうAIをつくれば、本当の意味で人とコミュニケーション可能なロボットが生まれてもおかしくない、とそんな提案ができるんです。

 

ミニドラに辿り着いた、HAIという考え方

 
──大澤さんの研究は、いわゆる人工知能(AI)の考え方(初めから完成度の高いロボットをつくることを目標とする)とは少し異なりますね。

それは、僕がインタラクションは自分が考えている以上にドラえもんづくりに大切だと気付いたことが原因で、それがミニドラのようなロボットの考え方見つけたきっかけです。学部生時代はディープラーニングを勉強してプログラムを書き、その後は人工知能で脳モデルづくりに取り組んでいました。知能の根幹のようなものを探求していたんです。しかし、大学院で人とロボットの相互作用を研究されている今井倫太先生の研究室で話を聞くうちに、HAI(Human-Agent Interaction)を意識するようになりました。HAIは、人と深くかかわるAIをつくるための技術で、AI自体の性能を上げるのではなく、人とAIが一体となることを目指している点で、従来のAI研究とは違ったアプローチです。

 
──例えばどのようなことでしょうか?

人だけでもロボットだけでも難しいことを、人とロボット(AI)を一つのシステムとして捉え、最適化することで可能にするというのが、HAIの考え方です。それを追求すると、今までAIで難しいとされていたことが簡単にできるようになります。例えば、豊橋技術科学大学の岡田美智男先生が、人に頼る「弱いロボット」という研究を行っています。アームのない、ゴミ箱型の自分ではゴミを拾えないロボットが困った様子でいると、見ていた人間がゴミを拾い、入れてあげるというものです。ゴミの識別はできるけど、自分では拾えない。それを人がインタラクションすることで拾うことができる、そんなシステムの構築がHAIでは可能になります。僕は人間のことを深く理解しているからこそ人の役に立つ、そんな人工知能をつくりたいと思っています。それゆえに人工知能だけではなく、神経科学や認知科学等、他の学問分野の知見も積極的に活用し、ドラえもんをつくろうとしています。

 

可愛がられて役に立つ、二律背反を両立させるロボット

 
──今後の展開としては、どのようなことを考えていらっしゃいますか?

かわいがられて、その上役に立つロボットをいかに実現するかということが次の挑戦となります。現在世の中のロボットには2種類あり、1つはかわいいロボット。もう1つは役に立つロボットです。かわいがられるだけのロボットは飽きられがちですよね。一方で、Siriなどに代表される、しゃべったり案内ができるAIエージェント的なロボットは、有能かもしれませんが、共感やカワイイという気持ちは起こりにくいです。つまり、かわいいと役に立つは両立しにくいのです。いろんなことができる高度なロボットが実現したとしても、現在のAI脅威論によく表れているように、人って高度な人工物に恐怖心を持ちますよね、それって自然なことだと思いますが、役に立ってなおかつ愛されるデザインであれば、社会が受け入れやすくなり、もっといろんなことができるAIが生まれてくると思っています。なので、僕が次のフェーズで目指しているのは、役に立ってなおかつ愛されることを両立したロボットなんです。

 
──具体的なイメージはありますか?

例えば、現在開発を進めているミニドラを目指したロボットがスマホの中にいて、コマンドすると何かに乗り移って(例えば家電などに拡張して)仕事をしてくれるといったことを考えています。もし認識に失敗して動いていなかったとしても、愛されているロボットなら失望されることもなく、むしろ「あら~できなかったのね、よしよし」とフォローしてもらえたりさえします。初めから完成形を目指さず、役に立つロボットとして成長余地があるようにするには、かわいがられる存在であることが必要なんです。

 
──完全ではなく、人間とのかかわりの中で育つロボット。役に立ってもくれるけど、不完全だからこそ親しみを感じるロボット…。なんだか段々とドラえもんが見えてきた気がします。

良かったです!

 

誰もが生き生きと研究に向き合える世界を仲間たちと実現していく

 
──子供のころから否定され続けてきたドラえもんづくりが今こうしてたくさんの人の支持を得ていることについて、どう感じていますか?

先日、5歳の女の子から「ドラえもんがつくりたい」という手紙が来てWebで会議をしたらとても喜んでくれました。こういうことだなあ、と感慨深かったです。僕が経験した、やりたいことを認められずやれなかった苦しい15年ほどの時間ははっきり言って無駄です。「ドラえもんをつくりたい」と言ったら「いいじゃん!」と、認められ、思い切り研究ができるような世界に変えたいんです。でもやりたいことを認められず苦しい想いをしている仲間はたくさんいます。そんな人たちに居場所をつくって皆を守り、幸せにしたいとずっと考えていました。博士号を取ってからすぐに日本大学に研究室を構えたのもそれが理由です。一人一人の夢を大切にして寄り添い、科学技術でスケールできるようになれば、誰もが生き生きと研究に打ち込める世界に変わると考えています。

 
──誰かの夢を否定しない、本当に大事なことですね。

僕はドラえもんづくりを世界の70億人で叶えたいと思っているんです。みんながいたから、この世界だからドラえもんが生まれたんだという世界にしたくて、大澤研ではそれぞれがやりたいテーマで自律的に研究を進めています。ドラえもんは、あらゆる専門知と夢の集合体。だから世界中の人が参加してくれることが理想なんです。

大澤研が抱えるプロジェクトはドラえもんづくりを含めて100を越えます。規模も大きく、いろんなことが派生していく状態は非常にユニークで、ティール組織(目的に向かって組織の全メンバーがそれぞれ自己決定を行う自律的組織)の発展形のようなものになってきています。そのため組織論の研究も始めました。私たちの在り方を言語化して価値を生み出し、よりよい形にして社会や研究のモデルとして提示できたらと考えています。

 

理系学生へのメッセージ!人は変化を乗り越える力を持っている

 
──最後に、リケラボ読者にメッセージをお願いします!

人は変化を乗り越えられる生物だと伝えたいです。環境変化は生物にとって死に直結しうるすごく怖いこと。僕自身ドラえもんづくりの夢に向かっている中で、様々な環境変化がありました。ですが「恐怖心を乗り越えたところに成長がある」ということを知ったとき、ものすごく前向きなパワーがわいてきたんです。乗り越えられるものとわかっていれば、「怖いからやめておこう」ではなく、「怖いけど一歩踏み出してみよう」という気持ちになるし、その積み重ねが、夢へ近づく秘訣だと思います。

 
日本大学 文理学部 助教
大澤 正彦(おおさわ まさひこ)

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻修了。博士(工学)。専修大学兼任講師。過去に日本認知科学会 認知科学若手の会代表、人工知能学会学生編集委員等を歴任、幅広く活躍。神経科学や認知科学との対応を重視した汎用人工知能に関する研究に従事。

2014年 IEEE Japan Chapter Young Researcher Award. 2015年 慶應義塾大学平成26年度表彰学生.同年 ISIS Best Presentation Award. 2016年 人工知能学会30周年記念奨励賞. 2017年 神経回路学会全国大会奨励賞 各受賞.人工知能学会,認知科学会,神経回路学会 各会員.著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)
https://osawa-lab.com/

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