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その研究、私も理解したい!! 文系女子が最先端の研究室に突撃取材(その3 都市政策研究編ー副題:理系のための出世のススメ)

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みなさんこんにちは、ライターの笹沼です。バリバリの文系の私が、最先端の研究室に突撃取材するこのシリーズ。事前知識はまったくナシ、憧れと興味だけを胸に、失礼を承知で「何の研究をしているんですか??」とズカズカ聞いてみたいと思います。

第3回目の今回お話を伺ったのは、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長の、市川宏雄専任教授です。
市川先生はもともと建築学のご出身で都市工学を専門にされていたそうですが、現在は「公共政策大学院」という、どうやら文系の大学院の教授をされているようです。いったどうして? そこでどんな研究を? 興味はつきません。

 

「理系では世の中を動かせない!?」
それってどういうこと?

さっそく研究室にお邪魔します。お部屋の雰囲気も、これまでに取材してきた実験系のラボとはまったくちがう、普通のオフィスのような雰囲気。どんなお話が聞けるのか、楽しみです!

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市川先生、よろしくお願いします!

 

──さっそくですが、「ガバナンス研究科」っていったいどんなところなんですか? ガバナンスというと、「統治」とか、そういう意味だと思うのですが……。

簡単にいうと、高度専門職業人の育成の一環で「公共政策などの世の中の大事なことに対して意思決定ができる人を増やしていこう」ということを目的にした研究科で、13年前に設立しました。現職の市長とか区長とか、自治体やNPOの職員といった人たちが勉強しにきていますよ。

 

──す、すごい、現職の市長さんが先生のご指導を仰ぎにこられるとは……! リケラボの読者さんにも行政に携わりたいと考えている人がとても多いので、たくさんの人が関心を持つと思います。

日本の社会では今のところ、大きな政策決定に関わる人は文系出身者が圧倒的に多いですよね。もっと、理系の若い人たちにもどんどんチャレンジしていってもらいたいです。私自身、理工系の学生だった頃、「理系では世の中を動かせないかもしれない……」と感じたうえで、それでも世の中の意思決定に関わりたいと考えていました。

 

──もともと理系の道を歩んでいた先生が、現在は政治経済学系の教授をされている背景には、そういった想いがあったのですね。そのあたりのことも後ほどゆっくりお聞かせいただきたいのですが、まずは先生の研究テーマを教えていただけますか?

私自身の専門は“東京研究”です。

 

──東京研究……?

「これからの東京は世界のどんな位置づけで、どのように変化していくのか」ということに非常に大きな興味持っています。特に最近では『世界都市総合力ランキング』(森記念財団都市戦略研究所)にも関わっており、東京のどんなところが優れていたり、反対に改善の余地があったりするのかということを、海外の都市と比べながら研究しているんです。

 

ミステリアスCity 東京

──具体的に「東京のここがすごい!」というポイントはどんなことがあるんですか?

現在、“東京圏”(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の1都3県)には、3700万人もの人々がいます。これは、ミステリーとも呼べるくらいすごいことなんです。都市計画の分野では、人口が1000万人を超えると、都市圏は破錠すると考えられてきました。あまり人口が集中しすぎると都市混雑が起き、治安や環境が悪化するはずなのですが、東京圏は悪化していませんよね。そのぶん地方人口が減少するなどほかの問題もあるものの、世界的に見てかなり成功している事例だと言えるわけです。ちなみに、東京圏の次に大きいのは、ニューヨーク都市圏で2300万人。さらに、ヨーロッパの大都市ロンドンは1600万人です。東京は、長い間パリやロンドン、ニューヨークを学んで作られてきた街なのに、気づけばほかに例がないほどの大都市になっていました。このことは、日本人のあいだでも意外と知られていません。そこで私は、東京が世界の模範になっていくことを期待して、海外の講演などでも積極的にすごさを伝えているんです。

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──私も東京で育った人間ですが、ミステリーと評されるほどのすごい都市だとは意識したことがありませんでした……! 人口以外にも、東京ならではのユニークな特徴ってあったりするのですか?

いろんなことがあるけれど、たとえば“時間を守る”ことでしょうか。電車が2分に1本来てほとんど遅れないし、万が一遅れてしまったら謝る……あんなの日本だけというか、東京だけですからね。そういった仕組みや考えが当たり前になっているのは、長い歴史のうえで形成された“目に見えない掟”があるからだと考えています。私は、この“目に見えない掟”が、なぜ、どのようにできたのかということにもとても興味があるんです。3700万人の都市を運営できているのは、政府の力だけではなく、そこで暮らす人間たちが一生懸命支えているという基盤があるから。背後には、昔からの日本文化や教育が関係しているはずです。これからも、東京の“目に見えない掟”についてはライフワークとして研究を続けていきたいですね。

 

──たしかに、ホームで電車を待っているときに整列するとか、車内では大声でしゃべらないとか、誰に教わるでもなく自然に身につく東京の“目に見えない掟”ってありますね……! どうやって生まれてきたものなのか、そういわれると私も気になってきました! ちなみに、東京圏はこれからもずっと発展を続けていけるのでしょうか?

ローマ帝国が崩壊したように、未来永劫続いた都市は歴史的にないんですよね。繁栄する都市というのは、どんどんインフラを拡張していきますが、いずれ老朽化したときにメンテナンスに財政が追いつかず、維持できなくなる場合があります。ローマも、財政破綻が原因でインフラが崩壊し、衰退していきました。

東京とて例外ではなく、このサイクルがいつまで続くのかはわかりません。日本の人口は減少し続けており、2030年ごろにはさすがの東京の人口も減少に転じると考えられています。すると、収入が減り、インフラを維持できるのかという問題が生じる可能性も。そのため、2030年〜2050年くらいの期間をどう乗り切るのかというのが、今後の最大のテーマになってくるでしょう。衰退が始まるのか、どうにか逃れられるのか……きっと、2020年を過ぎたころには何らかの方向性が見えてくるはずです。

 

──東京はこれから、人類史上未体験のフェーズに突入していくわけですね……。身近な都市がそんな壮大な局面を迎えているとは、夢にも思いませんでした!

 

意思決定できる人を増やしたい

──ところで先生は、どうして東京研究をテーマにしようと思われたのですか?

私自身が東京出身だということもありますし、いちばんは、金融系のシンクタンクで東京都の中枢に関わる仕事をしてきたことからですね。ただ、背景として大きな経験になっているのは、留学や仕事で世界のいろいろな国に行ったことです。

私は大学で建築を学んで、そのまま都市工学の博士課程まで進んだのですが、日本で博士号をとるのって、非常に時間がかかる。博士課程の3年が終わって、それから何年間か仕事をしてやっともらえるといったような具合です。私の場合はそれよりももっといち早くチャレンジングなことがしたかったので、海外に行って博士号をとろうと思ったわけです。何か仕掛けないと、人生って変わらないですからね。結果的に幸い、カナダ政府の留学生試験に受かることができました。

カナダで博士号を取得してからも、バグダットの首都圏整備計画に携わったり、ODAでアマゾン、中国の海南島、アフリカ……と、世界各地の開発に関わるなかで、改めて感じた日本の良さが多々ありました。このように、海外から日本を見る視点を得たことが、現在の東京研究につながる原体験だったと思います。

 

──冒頭のお話にもつながるかもしれませんが、もともと理系の道を進んでいた先生が、現在は政治経済学系の教授をされているというのは、どういった転機があったのでしょうか?

それにも、海外での経験が大きく関わっています。留学でカナダに行ってみて驚いたのが、都市工学の分野が社会科学の学問と捉えられていたこと。都市工学の研究者の面々が、みな政策決定者の集まりだったんです。

 

──日本では違うのですか?

日本では都市工学は、建築学の一環ですから、理系の学問。そして理系の研究をもとに実際に都市計画を実行する意思決定の部分は、文系人材が担うことがほとんどです。ところがカナダでは、そもそも都市工学が政策研究の一部という位置づけになっていたのです。日本風の表現をそのまま借りれば、文系の学問なんですね。

理系として学んできた都市工学が、海外では文系とされていたということを知ったのは、転機のひとつになりました。日本でも、専門的な知識をもった人が、誰かに使われるのではなく主体的に意思決定をできるようになることが重要だという考えを、より深めることになりましたね。理系文系に限らず、世の中に対して文句を言うのは簡単だけど、「じゃあどうしようか」と考え実行できる人が増えればいいなと。こうした考えが、現在の公共政策大学院ガバナンス研究科の設立につながっています。

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世の中を動かす理系になるために

──文句を言うだけでなく、能動的、主体的に意思決定をできるように……わかってはいるけれど、耳の痛いお話です……(笑)。公共政策における意思決定とは少しちがう話かもしれませんが、先生の人生もまさにチャレンジングな意思決定の連続のように感じられました。先生のように主体的な意思決定をできる人は、どうしたら増えるのでしょう? 何か心がけるべきことや秘訣などはありますか?

私としては、2つの観点があるように思います。

ひとつは、武器をもっておくこと。自分の場合は、一級建築士の資格と博士号です。海外での仕事に取り組む決断をしたときも、仮にうまくいかなくても日本に帰って資格を活かして働けばどうにかなるはずだと、そのことがセーフティーネットになっていた部分があります。武器をもつことが、大きな局面でも主体的に意思決定できる後押しになるはずです。そのために、学生のあいだは、まずは卒業するまで自分の専門分野をきちんと頑張ることですかね。

もうひとつはリスク管理。必ずしもすべての意思決定がうまくいくわけではありません。人も組織も、何かあって転んでしまったとき、そこからいかにすばやく起き上がるか、もしくは、なるべく大事に至らないよう転び方を軽くするかといったことが大切なんです。リスク管理能力を磨くためには、失敗が許されるうちにたくさん経験しておくのがよいでしょう。だから、「若いうちに失敗も含めてたくさん経験をしておけ」と学生たちにも言っています。特に、恋愛経験! 最近の学生はひとりの人と長く付き合うことが多いようなので、少し心配です(笑)

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──まさかの恋愛アドバイスまで……!(笑)最後に、世の中の意思決定に携わりたいと思っている理系の方に向けて、メッセージをお願いします。

さきほどお伝えしたように武器を持つことはもちろん大切ですが、能力を活かしていくためには場所が必要です。私の場合は、本を書いたり、新聞の取材を受けたり、テレビでコメントするなど、いろいろな場で考えを発信しています。そのときに重要なのが、世の中が求めていることが何なのか感じ取りながら、自分とマッチングさせていくこと。そうすると、かならずその後の場を得ることにもつながっていきますよ。

それから、やっぱり異文化体験は重要です。価値観も人生観もまったく変わるので、意識していろいろなグループの人と付き合ってみることをおすすめします。そうして新しい出会いを得たとき、何も考えずにただ会うだけではもちろんダメ。これは結構重要な人生訓です。初めて会う人がいったい何者なのかを見極めて、関わり続けたいと思える人がいたら、いかにアピールしていくか。好きな人ができたらその人が喜ぶことは何か、懸命に考えるでしょう? それと同じです。仕事も人生も全部一緒で、目指すものにどうやってたどりつけるか戦略を練る。それをやっていかなければ、人生は変わっていきません。チャンスをものにして、ぜひ世の中を動かせる理系人材になっていってください。

 

──先生のお話を伺って、現状に不満を持つだけでなく、具体的にどうするか考えられるようになることへの大きなヒントをいただけたように思います。市川先生、本日はお忙しいなかありがとうございました!

 

市川 宏雄 先生

東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほ情報総研)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。現在は明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびに明治大学危機管理研究センター所長。町田市・未来づくり研究所所長、森記念財団理事、Committee Member of Future of Urban Development, World Economic Forum。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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