高校・大学受験や理系の仕事解説など、中学生・高校生の進路選びに役立つ情報をお届け。

大学で研究している先生や、企業で技術職や研究職として働く人たちは、理系の専門知識を生かして第一線で活躍しています。しかし、そうした方たちは理系科目のすべてが得意だったのでしょうか?実はそうでもありません。「理科は好きだけど数学が苦手」、「物理のテストの点数はいいけど特別好きではない」など、高校時代には皆さんと同じ悩みをもっていたようです。理系分野の第一線で活躍する人たちは、苦手科目をどう克服して、得意科目をどう伸ばしていったのでしょうか。また、今勉強していることが将来やりたいこととどうつながっているのかがわかれば、勉強するモチベーションも上がるはず!研究や仕事の内容も教えてもらいながら、得意科目の伸ばし方、苦手科目の克服法などを伺いました。ぜひ、参考にしてみてくださいね!
(お話を聞いた方) 金鍾明(きむじょんみょん)先生 分子生物学とエピジェネティクスを専門とし、環境変動に応答した植物の染色体構造変換と遺伝子発現制御について研究。 |
世界の農地を干ばつや熱波から守る仕事
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まずは先生の研究を教えてください!
——今日はよろしくお願いします。最初に先生のご専門を教えてください。
専門は分子生物学(DNAやRNA、タンパク質といった分子のレベルで生命現象を解明する学問)です。特にエピジェネティクスというDNAの配列に依存しない遺伝子制御を研究する分野に取り組んでいます。奈良先端科学技術大学院大学を出た後、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校分子生物学研究所で酵母菌を用いたエピジェネティクスの研究をしました。帰国後は、理化学研究所の植物科学系研究センターで研究員として、植物の研究を始めました。
2018年には研究員時代の発見を社会に実装することを目指して、アクプランタ株式会社を創業しました。現在はアクプランタ株式会社のCEO代表取締役社長を務めるとともに、東京大学大学院農学生命科学研究科の特任准教授も兼任しています。
——会社を経営されているんですね!アクプランタ株式会社はどのような会社なのですか?
アクプランタ株式会社は、植物科学で地球課題に取り組むアグリバイオ・ベンチャーです。近年地球環境の悪化によって干ばつや砂漠化などの問題がより深刻になってきています。アクプランタ株式会社では植物の本来持つ復元力を活用して、干ばつによる食糧問題の解決や砂漠の緑化などに取り組んでいます。
——具体的にはどのような植物科学を利用されているのですか?
理化学研究所の研究員時代に、植物は乾燥を感じると体内で酢酸を生成することを発見しました。その酢酸は、刺激物質として乾燥などの環境ストレスに対応するためのさまざまな遺伝子を活性化します。
アクプランタ株式会社は、植物がもともと持っているこのメカニズムに着目したベンチャー企業です。独自技術によって植物が持つ力を効果的に引き出す商品、Skeepon(スキーポン)を開発しました。
実際にSkeeponを使うことで、アメリカ中西部の干ばつが起きている地域では、トウモロコシに乾燥耐性を持たせ収量を向上させたり、47℃以上の温室という高温環境でもトマト栽培が可能になるという結果も出ています(通常47℃ではうまく育たない)。

——すごい技術ですね!お仕事をされていて、どんなところにやりがいや楽しさを感じますか?
現在、干ばつや熱波で困っている農家さんが世界中にいます。自分の発見した研究成果を利用して、そういった農家さんが問題を解決して喜んでくれたときや、現場での活動を通してさらに新しい科学的な発見があるときに仕事のやりがいを感じますね。
金さんが経営しているアクプランタ株式会社のことをもっと知りたい方は「酢酸で乾燥に強い植物に!元理研研究者が始めた食糧問題解決に向けた挑戦」の記事をご覧ください!
生物好きが高じて生物の研究者に
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高校生のときに得意だった科目が知りたいです!
——先生が理系を目指したきっかけは何ですか?
こどもの頃から海で釣りをするのが好きで、自然にも興味がありました。それもあって海洋生物学者になりたかったんです。特に船に乗って実地調査に行くような海洋生物学者に憧れていました。
——得意だった科目はありますか?
なぜか生物だけはいつも成績が良かったですね。好きこそものの上手なれだったのかなぁ?
得意な分野を突き詰めることが、苦手分野の克服に
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高校生のときに苦手だった科目はありますか?
——先生が高校生のとき苦手だった科目は何ですか?
どちらかと言えば物理が苦手でした。実は高校ではじめて物理を習った先生がちょっと個性的な人で、授業の内容があまり理解できなかったんですよね。それもあって、出だしで少しつまずいてしまって苦手意識がありました。
——苦手な科目を勉強するために工夫していたことはありますか?
私にとっての物理もそうなんですが、ちょっとしたきっかけで、その科目が好きになったり、苦手になったりすることありますよね。苦手になってしまった科目については、それをなんとかするためには、やっぱり自分でやろうと思ってやらないといけない。やっているとどこかのタイミングで克服するきっかけがあって、それをつかめるかどうかが大事ですよね。
とは言え、あまり詰め込みで勉強しないようにしていました。「向いてないな」と感じることを無理にやろうとするよりも、好きなものを突き詰める方が結果的に、その周辺にあるさまざまなことに気づくきっかけとなります。そういった「気づき」からはじめることで、苦手なものも好きになりやすかったりもしますよ。
——おすすめの勉強方法があれば教えてください!
3つあります。
1つ目は、空き時間に得意分野に関するより詳しい内容の本などを読んで突き詰めることです。深い内容を知ることで、勉強への意欲が湧いたりしますよね。
2つ目は、分からないときには分かる人に積極的に質問することです。恥ずかしがらずに人に教わることで、少しずつ自分も分かるようになっていきます。
3つ目は、自然史博物館などでぼーっとすることですね。たまには気持ちが緩む時間を作るのも大切だと思っています。
高校で学んだ生物と化学が今の仕事にもつながっている
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研究に役立っている高校の科目はありますか?
——先生が高校生のときに頑張っておいて良かったと思う科目は何ですか?
生物と化学ですね。高校生のときに学んだものがそのまま今の仕事の基礎になっています。
——逆にもっと頑張っておけばよかったと思う科目はありますか?
英語です。特に日常英会話レベルができるようになっていればよかったと思います。最近では海外の仕事も増えてきたこともあり、「コミュニケーションがもっとできるといいなぁ」と思うことが多々ありますね。
——大学で学んだことは現在の仕事に役立っていますか?
私たちの仕事は、世界中で発生している干ばつや熱波といった問題から作物や森林を守ることです。そのため、各地のさまざまな自然環境で育つ作物や木々が研究の対象となります。大学生、大学院生のときに広く深く学んだ生態学と分子生物学は、地形や気候の変化が植物に与える影響を類推したり、見つけ出したりするのに直接役立っていますね。
好きなことを突き詰めるのが科学に関わる最短距離
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苦手科目がある高校生に向けて伝えたいことはありますか?
——最後に理系進学を目指す高校生への応援メッセージをお願いします。
今は大学生となっている私の息子にも言ってきたことなんですが、世の中の職業で存在しているものでなれないものはないと思っていいと思います。その分野での本当のトップになれるかと言ったらそれはまた別の問題ではあるけれど。学者になりたいと思ったらきっとなれるだろうし、スポーツ選手にだってきっとなれる。やりたいことを見つけて、自分で無理だと諦めずに、やりたいことの実現へ向け、アプローチしていく作業を積み重ね、努力すればきっとそれを仕事にすることはできると思います。
もし将来、科学に関わる仕事をしたいと思うのであれば、まずは好きなことを好きなだけ突き詰めることが最短距離だと思います。好きなだけ得意科目を磨けば、必ず武器となり自信にもつながります。それに好きなことを突き詰めることで得られる気づきは苦手なものへの考え方も変えるかもしれません。それくらい肩肘張らずに科学を楽しんでください。
そうそう、それと、想像力をふくらませる力をつけると研究や科学がさらに楽しくなりますよ!