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紙とサインペンだけでできる色の実験!自作ペーパークロマト‐親子で楽しもう、身の回りのサイエンス~第4話「色を分ける」 | リケラボ

親子で楽しもう、身の回りのサイエンス

第4話「色を分けてみよう」

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私たちの身の周りにはいろんな「色」があふれています。同じに見える色は本当に全く一緒でしょうか。

私たちの生活の中には、「科学」で説明できることが多くあります。見慣れている身の回りの自然を改めて科学的な視点で眺めてみると新しい発見や感動を知ることができます。毎日少しずつ変わる四季の変化から、いろんなサイエンスを親子で楽しんでみませんか。

あっ!絵の具をこぼしちゃった!

みなさんは、白っぽい服に絵の具や食べ物をこぼしてシミをつくってしまったことはありませんか。汚れた服を洗濯したあと、上手く汚れが落ちなかったシミをよく見ると、ぼやけて周囲に広がっていくつかの色に分かれて見えることがあります。

なぜでしょう?

色には、色相、明度、彩度という三要素があります。この中で色相とは赤、黄、緑、青などの色味のことをいい、虹と同じ順番に色味を並べ、さらに赤紫を補うと色相環という円で表すことが出来ます。

写真提供:Shutterstock

赤色と青色を混ぜると紫色になります。色相環では赤色と青色の間に紫色があります。また、青色と橙色を混ぜると黒色になります。

このように、一つの色は何種類かの色を混ぜて作ることができます。

服についたシミは、混ぜたもとの色が分かれているのですね。

次の写真は、「クロマトグラフィー」という分析方法を使って、Yumiが普段使っている黒色のサインペンのもとの色を調べたものです。

写真提供:Yumi(本人撮影)

普段、みんなが使っているごく普通の黒色のサインペンには、いろんな色が含まれていることがわかります。そして同じ「黒色」でも、メーカーやペンの種類によって、いろんな色が混ざって出来ていることがわかります。

このように、「クロマトグラフィー」は、いくつかの混ざっているもの(混合物)を分けることができます。今回は、身近にあるものでクロマトグラフィーをつくって、身の回りの不思議を見つけてみましょう。

クロマトグラフィーの原理

「クロマトグラフィー(Chromato)」というのは「クロマト(色)+グラフ(記録)」という意味の造語です。1903年、ロシアの植物学者M.Tswettさんが、植物の葉っぱから抽出した緑色の色素を、炭酸カルシウム(CaCO3)と石油エーテルを使って緑色と黄色に分けたことが始まりだと言われています※1。

クロマトグラフィーは、コーヒーのシミが広がっていく様子からヒントを得たと言われています。Tswettさんもろ紙に葉の緑色の色素(葉緑素)をつけて溶剤をしみ込ませると、葉緑素が何色かの色に分かれることに気づいていたのです。

例えば、Cさん、Dさん、Eさんが町の商店街でお買い物をするとしましょう。

Cさんはいつものお店で鮭の切り身を買いたいと思っています。
Dさんはどんな魚がいいか迷っています。
Eさんはお店で商品を見てから魚にするか肉にするか決めようと思っています。

Cさん、Dさん、Eさんが同時に一方通行の商店街に入ったとすれば、お買い物を済ませて商店街から出て来るのはCさんが最も早く、次いでDさんとなり、Eさんは一番遅くなるでしょう。

化学物質は時に+の電気を帯びていたり-側に偏っていたりします(極性=きょくせい)。+の電気を帯びているものは-に引き付けられる性質があり、+の電気を強くもっている化合物ほど-に強く引き付けられる特徴があります。

調べたいもの(サンプル)は、充填された固体(固定相=こていそう)とそれを固定相に流し込む物質(移動相=いどうそう)の間で電気的に引き合い(相互作用)通り過ぎたり留まったりすることにより、それぞれの化合物によって通り抜ける速度(保持時間)が異なるため、次第に分かれてくるのです。

例えで言えば、お買い物の場合は、「固定相は商店街のお店」、「サンプルはCさん、Dさん、Eさん」、「移動相は歩行」、「保持時間は買い物に必要な時間」と言えるでしょう。

ペーパークロマトの装置を作ってみよう

クロマトグラフィー(色などの混合物を分ける方法)にはたくさんの方法が知られています。その中でも、今回はおうちでも簡単にできる「ペーパークロマトグラフィー」という方法を使っていろんな色を分けてみましょう。

【用意するもの】※2

*300 mL程度のペットボトル
*ペーパークロマト用ろ紙
ここではADVANTEC社製51B (40 x 200 mm) を使用しています。
*20 mL程度入る容器(pH3程度の耐酸性)1つ
*プラスティックスポイト4本程度
*キッチンスケール
*クエン酸(細粉状のものが便利)
*はさみ
*ビニールテープ
*鉛筆(シャープペンシルより鉛筆の方が良い)
*定規(数cmが測れるもの)
*竹串またはつまようじ、細い割りばし

【作り方】

写真提供:Yumi(本人撮影)

①展開相を作る。
色を分ける時に使う装置です。ペットボトルを首の部分で二つに切断します。はさみを上手に使って丸く切り取ります。ケガをしないように注意してください。切り取ったペットボトルの上の部分を逆さまにして底の部分にかぶせてフタをします。

写真提供:Yumi(本人撮影)

②ろ紙の準備
ADVANTEC社製51Bのろ紙を4等分して長さ10cmのものを4つ作ります。ろ紙の片端から2cmの位置に鉛筆で線を引いておきます。

③展開溶媒の準備
ペーパークロマトはろ紙に液体をしみ込ませて混合物を分離します。この操作を「展開=てんかい」といい、その時に使用する溶液を「展開溶媒=てんかいようばい」といいます。クロマトグラフィーでいう「移動相」にあたるものです。

ここでは10%クエン酸とエタノールの混合溶液を使用します。

・10 % クエン酸水溶液(w/w%)の調製※3
クエン酸を1gはかり、水9gを加えて溶かします。
水溶液は酸性なので、ガラスやプラスティックなど酸性でも使える容器を使用しましょう。
溶液を作ることを「調製=ちょうせい」といいます。
プラスティックスポイトの持ち手をはさみで斜めに切ると、薬さじとして使用することが出来ます。

写真提供:Yumi(本人撮影)

・10 %クエン酸/エタノール=1/4(v/v%)の調製
調製した10 %クエン酸4 mLとエタノール16 mLをよく混ぜます。

【ペーパークロマトグラフィーを展開してみよう】

④ろ紙の鉛筆で引いた線上の中ほどの1点に、サンプルをしみ込ませます(吸着)。サンプルは出来るだけ濃度の濃いものを少量だけ使うようにし、つまようじや竹串の先を上手く使ってできるだけ周囲に広がらないように吸着させます。

⑤①で作った展開相に③で作った展開溶媒を10~20 mL入れます。10 %クエン酸4 mLとエタノール16 mLを展開相に直接入れて混ぜ合わせると便利です。

写真提供:Yumi(本人撮影)

⑥サンプルを吸着させたろ紙をそろっと展開相の中へ入れます。サンプルを吸着させた点(原点)は液につけないようにしましょう。フタとの間にろ紙を挟んで固定し、そのまま動かさずに展開溶媒がろ紙にしみ込んで上がってくるのを静かに待ちます。

⑦ろ紙の7~8割(原点より5~6㎝くらい上)まで液がしみ込んだら取り出して、鉛筆で目印の線を引いておきましょう。

写真提供:Yumi(本人撮影)

原点付近にサンプルの名前を、反対側の端に展開溶媒や実験した日付などを書いておくと便利です。サンプルによっては色が消えてしまう場合があるので、写真を撮るか色鉛筆でスケッチしておくとよいでしょう。

ペーパークロマトグラフィーでサインペンの色を分けてみよう

サインペンの色は、メーカーや商品によって少しずつ色味が違うように見えます。先ほどの黒いサインペンの展開図を思い出してみてください。黒でもメーカーによって、混ぜてある元の色が異なっていましたね。ほかの色についても、原点にサインペンで点をつけて展開してみましょう。いろいろな色に分かれます。

メーカーの異なる赤ペンを数本用意して、同様にペーパークロマトグラフィーで調べてみましょう。※4

写真提供:Yumi(本人撮影)

この写真は赤系統の色のペンを4種類用意して、それぞれペーパークロマトグラフィーで展開したものです。

一番上の蛍光ペンは顔料インクが使われています。2段目と4段目は油性マジック、3段目は水性ペンです。顔料インクは移動相に溶けないので、色が分離されず元の色が原点に残ったままです。赤いインクの中には、黄色い色が多く含まれているものとそうでないものがあります。

ペーパークロマトグラフィーで葉っぱの緑色を分けてみよう

葉の緑色はどんな色で出来ているでしょうか。Yumiはお庭からレモンバームの冬葉と春に伸びて来た新葉を摘み取ってきました。ろ紙の原点に葉を置いて上から割りばしの先を押しつけて葉肉ごと葉汁をしみ込ませます。何回か重ねて行いました。

写真提供:Yumi(本人撮影)

展開後、移動相(ペットボトル)から取り出したら、風をあてて素早く乾かします。葉の色素は色あせやすいので、色の様子を早めに記録しておきます。少しみにくいですが、新葉の方に赤い色素が強く見えます。これは新しい葉には葉緑素(緑の色素)が少ないため、もともと持っている赤い色素が多く含まれているためです。冬を越した葉には原点に近い位置に黄色が強く見えています。上の方にも黄色い色が見えています。※5

写真提供:Yumi(本人撮影)

お家の中の「色」を調べてみよう

ペーパークロマトグラフィーを使えば、お家の中のいろんな「色」について調べることができます。おしょうゆの色、トマトジュースやぶどうジュースの色、食紅などの食用色素の色、かき氷シロップの色など、お家の中にはどんな「色」があるでしょうか。ペーパークロマトグラフィーで調べてみましょう。

絵をかくときに使う水彩絵の具には、いろんな種類の色があります。黄色い絵の具と青い絵の具を混ぜると緑色になりますね。黄色い絵の具、青い絵の具、そして黄色と青色を混ぜて作った緑色の絵の具、これら3つをペーパークロマトグラフィーで展開してみましょう。緑色の絵の具はちゃんと黄色い絵の具と青い絵の具の持つ色に分かれるでしょうか。

身近な「色」について、ペーパークロマトグラフィーでたくさん調べてみましょう。

さらに詳しく知りたい方へ

※1
M.Tswettが行ったのは「吸着クロマトグラフィー」または「Tswett Method」と呼ばれる手法で、炭酸カルシウムの固定相に葉の二硫化炭素(CS2)抽出液を吸着させ移動相に石油エーテルを用いると、緑色と黄色の2色に分かれるという発見で、「クロマトグラフィー」と名付け論文に発表している。

Tswettは展開溶媒に石油エーテルやベンジンを使用したときは、緑色と黄色の2色に分離するが、アルコール、アセトンやエーテルなどを用いた時は最大5色にまで分離することを見出している。この発見は後に液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなど多くの分析手法が生み出されるきっかけとなった。

※2
ペットボトルは安定して直立するものを選ぶとよい。ペーパークロマトグラフィー用ろ紙の代わりに、水彩画用紙や白いドリップコーヒー用のペーパー、アロマテラピーの試香紙なども利用できる。コーヒーペーパーや画用紙などを使う場合は、幅2㎝×長さ10㎝くらいの大きさになるように切って使用する。

※3
クエン酸 1 g に水 9 mL を加えても問題はない(10 % クエン酸水溶液(w/v%))。体積で秤りとっても問題はないが、せっかくキッチンスケールを使っていることと、気温が変化すると体積は変化するが重量は変化しないことから、重量%は調製しやすい利点がある。

※4
水性サインペンのペーパークロマトグラフィーでは、クエン酸を使用しない水:エタノール=1:4でもきれいに分離することがある。油性ペンの色の分離は、アセトン、酢酸エチル、石油エーテルなどの有機溶媒の混合溶媒を用いた分離例の報告があるが、有機溶媒の扱いや毒性等を考えると子供たちと一緒に家庭で使用することはあまりお勧めできない。顔料インクは鉱物などの色素粉末を液体に分散させたインクを使用であるため(すなわち溶液に溶けていないため)、ペーパークロマトグラフィーでの分離は難しい。すなわち色は原点に留まり動かない。

※5
石油エーテル/アセトン=10/1を展開溶媒に用いると、先端からカロテン、キサントフィル、クロロフィルa、クロロフィルbの順にきれいに分離して確認することが出来るというネット上の情報サイトも見られる。あるいは、マニュキュアの除光液を使用した例もある。これらの有機溶媒は揮発性が高く、吸入すると体にも良くないので家庭で小さな子供でも扱える材料を用いている。分離は多少悪くなるが、色の違いを識別することは十分に可能である。
カロテン、キサントフィルはカロチノイドと呼ばれる緑色の光を吸収する色素でこの色素が多いと赤~黄色に見える。クロロフィルa、クロロフィルbというのは緑色の光を反射する色素で、葉が緑色に見えるのはこれらの色素が含まれているからである。

Yumi

Yumi

理学修士(ペプチド化学)。環境分析、バイオ細胞実験、マルチスケールの有機合成、HPLCでのキラル分離など幅広い業務を経験。2018年10月よりパーソルテンプスタッフ研究開発事業本部の社員。現在、高分子合成の研究職として勤務。
甲種危険物取扱者、有機溶剤作業主任者、毒物劇物取扱者などの専門資格の他、花火鑑賞士、温泉分析書マスター、京都検定、AEAJ認定アロマテラピーインストラクター、ハーブコーディネーターなどの民間資格を所持し、児童対象の科学実験教室ボランティアなどで活かしている。
趣味はバイオリン、旅行、写真、散策、アロマクラフトなど。

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