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薬事監視員や医学・薬学・看護学生など様々な方々が集まる薬用植物園ってどんなところ? ~主任研究員を訪ねて~

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約7,000種類もの植物が生育する国、日本。豊かな植物に恵まれていることもあり、薬草が重宝されてきました。それは現在でも変わることなく、漢方薬として一般生活に普及しています。そんな薬用植物を世界中から集めて研究しているのが、東京都薬用植物園です。今回、ここで働く東京都の職員であり薬剤師でもある主任研究員 中村耕さんにお話を伺いました。

 

東京都内でただ1か所の公立の薬用植物園

 
―まずは東京都薬用植物園について教えてください。

国内だけでなく世界中の貴重な薬草や草木など約1600種を栽培している都内で唯一の公立の薬用植物園です。薬用植物の調査や収集、試験検査はもちろんのこと、植物園として一般の方にも開放されていて無料でご覧いただくことができます。

 
―そもそも薬草は、病気とか怪我に効果がある植物という認識で大丈夫ですか?

薬用植物ですから、その名の通り薬効を期待して用いられる植物を総称して薬用植物と呼んでいます。「薬効を期待して」というところが他の植物との違いですね。
ただ日本だと医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で、効果が言い伝えられていたとしても、承認がとれていない場合は薬効を謳うことは禁止されています。

本園内での分類としては、大きく3つあります。1つ目が、漢方薬で用いられる漢方薬原料植物。代表的なものは甘草(カンゾウ)、麻黄(マオウ)、葛(クズ)などがありますね。これらは薬局薬店などでも販売されている葛根湯の原料として使われています。2つ目が、民間薬原料植物です。昔からの民間療法で用いられたものであって、なかには科学的に効能が認められ、日本薬局方に医薬品として収載されているものもあります。主な民間薬として、ゲンノショウコ(現の証拠)という変わった名前の植物は、整腸剤として使われています。あと、有名なのはドクダミ茶のドクダミですね。10の薬効を有していることから「十薬」とも呼ばれ、これも日本薬局方に収載されています。そして3つ目が製薬原料植物です。医薬品の原料となるさまざまな有効成分が含まれた植物を指します。たとえば、ニチニチソウ(日々草)は、白血病の治療薬成分が含まれています。

 
―「薬草」は民間療法のイメージが強かったのですが、実際に医療の現場で活躍する場面は多いんですね。

薬局薬店でも漢方薬は販売されていますし、あとは植物からしか合成するのが難しい薬もたくさんあると思います。ケシからはモルヒネが作られていますし、インフルエンザ治療薬として有名になったタミフルもトウシキミの果実の成分から合成されています。薬草は、過去の医学というわけではなく、むしろ現在においてもさまざまな医薬品の原材料として欠かせない存在ですね。

 
―たしかに漢方は普及していますね。

ちなみに漢方は中国のイメージをお持ちかもしれませんが、そうではありません。6世紀くらいに中国から伝わったものではありますが、その後、日本で独自に発展したものが漢方で、我が国で発展している医学のひとつなんです。西洋医学を蘭方とよび、それに対して漢方と呼ばれるようになりました。少し専門的な話になりますが漢方には「証(しょう)」という考え方があります。簡単にいうと、体質を計るものさしといってもいいかもしれません。西洋医学のように疾病によって薬を選択するのではなく、その方の体型や体質、脈などさまざまなことを総合的に診断して、複数の生薬をその人の身体に合わせてブレンドして処方、うまく体質を改善させるというのが漢方の考え方です。

 
―国によっても薬用植物の捉え方が変わりそうですね。

そうですね、国や地域によって、薬用植物はさまざまな使われ方をしています。日本の民間医薬でいえば、ヨモギの葉っぱの毛の部分を集めてお灸のもぐさとして使用されていますし、ヨーロッパに自生するセント・ジョーンズ・ワートはハーブとして利用されますが、薬用植物としての効果も研究されています。また、インド伝統医学であるアーユルヴェーダでも薬用植物が用いられています。

 

ノーベル賞と絶滅の危機

 
―近年で薬用植物関連の大きなトピックスはありましたか?

植物に含まれる成分が人間の身体にどんな影響を与えるのかが研究で明らかになってきています。いわゆるトクホと呼ばれる特定保健用食品や機能性表示食品において、薬用植物にどんな機能があるのか調査をして、必要に応じて機能性表示食品として開発されることが増えてきていますね。医薬品ではありませんが活躍の場は広がっていると感じています。

 
―今後は薬用植物として認定される植物も増えていくのでしょうか。

それは今でも行われていますね。日本薬局方に新たに収載されたり、削除されたりしていますので。世界的に評価されたもののひとつとして、クソニンジンという植物があります。

 
―クソニンジンですか。

名前はちょっとかわいそうですが…、クソニンジンにマラリアの治療に役立つ成分があるとして研究を行った、中国人のトゥ・ヨウヨウ氏が2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したんです。

 
―それはすごいですね。

えぇ、当時は中国人初の生理学・医学賞受賞者としても脚光を浴びました。この話の少し面白いところが、実はクソニンジンは大昔からマラリアに効くのではないかといわれていて、実際に民間療法として使用されていたようです。

 
―民間療法は効能の信ぴょう性を疑われがちですが、イメージが変わりますね。

いろいろと研究を重ねていくことで、病気に効くといえるケースもゼロじゃありません。そういった意味だと、植物の世界はまだまだ未知な部分が多いんですよ。たとえばアジサイの葉っぱを食べると顔面紅潮という中毒症状が出てしまうのですが、何の成分が原因なのか未だに解明されていませんから。

 
―研究しがいのある分野なんですね。

ええ、研究を続けていくためにも、自然保護の観点は欠かせません。現在、日本国内の野生植物のうち約30%が絶滅の危機に瀕しています。種類でいえば、実に2000種類以上の植物が絶滅危惧植物に指定されているんです。

 
―日本に自生する1/3の植物が絶滅危惧植物なんですか!?

身近な薬用植物も例外ではありません。たとえば、ムラサキという薬用植物があります。江戸紫という染め物の原材料にもなっていまして白い花を咲かせるのですが、根っこが紫色をしていまして。シコン(紫根)という生薬名で、火傷の治療薬として使われています。この植物園がある多摩地区では、ムラサキがたくさん自生していました。それこそ、学校の校歌のフレーズや校章になったりするほど代表的な植物だったのですが、いまや絶滅危惧植物になっています。あとは、薬用のキキョウ(桔梗)もその絶滅危惧植物のひとつです。

絶滅危惧植物とされるキキョウ(桔梗)。東京都薬用植物園で栽培されているものは、きちんとした薬用効果が期待できるもの。

 
―桔梗はフラワーショップでよく見かける気がしますが…。

桔梗にも薬用と園芸用がありまして、桔梗は根っこの部分が薬用部位になるのですが、園芸用の桔梗は、医薬品としての規格を満たさない量の成分しか含まれていないのです。

 
―絶滅の危機に瀕している理由はなんですか?

一概にはいえませんが、ムラサキが減ってしまったのは外来種との生存競争に負けてしまったことが大きいかもしれません。動物の世界だけではなく、植物同士の生存競争も激しいのです。薬用植物園は国内の植物の保護を目的にしているわけではありませんが、野生ではほとんど見られなくなった植物を見学できるという点でも役割を果たしているといえるかもしれません。

 

増える危険ドラッグや健康食品・行政機関としての植物園の役割

 
―もともと薬用植物園はどうして誕生したのですか。

出発は、医薬品の原料を確保する目的でスタートしました。戦後まもない昭和21年のときです。そこから平成15年に東京都の組織再編成があり、試験研究機関としての機能を強化しようとなり、健康安全研究センターの所属になりました。危険ドラッグや健康食品などの指導取締に向けた植物鑑定の試験検査をおこなう研究施設という位置づけですね。

 
―具体的にはどんなことをされているのですか。

健康食品でいえば医薬品でしか使えないものが混在していないか、電子顕微鏡などを使って植物の形態学的な特徴を捉えた鑑別試験をしています。鑑別するためには、標本となる植物が必要となりますので、当園で栽培している薬用植物については、鑑別や調査研究の標本植物として捉えてもらって結構です。園芸用の見せるためというよりは、試験・研究するための植物を栽培しているイメージですね。また、ケシやアサといった国の許可や都の免許が必要な植物も栽培しています。ケシをご覧になっていただける植物園というのは、都内でここだけです。全国的にみても他に1箇所しかありません。

 
―ケシも調査研究のために栽培しているのですか?

そうですね、あとは医学・薬学・看護学生向けに特別研修をしています。ケシにはモルヒネやコデインといった麻薬成分が含まれています。モルヒネは医療用の麻薬として我々人間の病気の際に使用される大切な医薬品の原材料となりますので。ほかにも警察の捜査員や保健所の薬事監視員、税関の職員にヒナゲシのような規制されていないケシとの見分け方等の研修も実施しています。

関係者に向けて、規制植物の研修・ガイドをするのも職員の仕事という。他にボランティアのガイドさんも活動している。

 
―一般の方に対してはどのような目的で開放されているのですか?

薬用植物の正しい知識を身に着けていただくための普及啓発機関という位置づけですね。年に8回大学の先生などをお呼びして、薬草教室を開催しています。また、薬科大学では薬用植物園を設置しなくてはいけないことになっていて、情報交換をすることも多いです。

 
―いろんな活動をされているんですね。

最近多いのが、有毒植物の見分け方です。食用植物だと誤認して食べてしまい食中毒を起こす事件が毎年起きています。とくにニラとスイセンの葉っぱがそっくりなので、間違えて食べてしまうことが多いです。ちなみに見分け方ですが、葉っぱをちぎって匂いをかいでいただくと、ニラは特有の匂いがしますがスイセンは匂いがしません。またイヌサフランという植物を食用のギョウジャニンニクと間違って食べてしまうと、最悪命に関わります。着任して5年目になりますが、誤食事件が発生することが多いのでなるべく積極的にマスコミの取材を受けて注意喚起するようにしています。そのため薬用植物園ではあるのですが、有毒植物と間違えやすい食用植物の両方を栽培しています。

 

薬剤師としてのキャリアステップ

 
―着任して5年目ということですが、それまではどのようなキャリアを?

大学当時は、理工学部の薬学科にいました。卒業後に薬剤師免許を取得して、東京都の職員として採用されて現在に至ります。

 
―ということは、公務員なんですか?

そうですね、今も公務員です。調剤をする薬剤Aと、薬事監視員をする薬剤Bという職種があり、わたしはBの薬事監視員としてのキャリアを選びました。大学で衛生化学を学んでいたという理由もあります。業務としては東京都庁の薬務課で、毒劇物監視員や薬事監視員として薬局薬店の立ち入り検査をしたり、毒劇物を販売・製造している企業に法律のもと適切な管理がなされているかを調査したり、医療機器メーカーで不具合情報を適切に管理しているか調査したりなど、さまざまな部署を渡り歩いてきました。

 
―植物との関係はあまりないお仕事だったようですが、どうして薬用植物園に?

これまでいろんな医薬品や健康食品対策の仕事を進めてきましたが、これら製品の出発点、原材料の薬用植物の知識の幅を広げたいなと。網羅的に学びたいと思い現在の職に着任しました。植物については新しく知ることばかりでしたが、薬事監視員で得た毒劇物に関する知識においては、有毒植物の研修講師や鑑別試験、あと取材対応時などで役立てられる場面は意外と多いです。

 
―ありがとうございます。それでは最後に、植物の研究職を考えている方へ、アドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。 

植物の研究一筋もいいのですが、様々な経験を積んでいろんな知識を兼ね備えたほうがいいのかなと思います。とくにわたしが着任している薬用植物園の場合、一般の方とコミュニケーションする機会も多いです。鑑別試験ばかりしているわけではないので、研究以外のことにも興味をもって、能力を伸ばしていただけるのがいいのかなと思います。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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