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羽毛恐竜の登場により博物館の展示はどう変わった?国立科学博物館の研究者に聞いてみた!

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羽毛が生えた恐竜が存在する。

今では広く知られるようになりましたが、そのビジュアルイメージが公開された当時はなかなか衝撃的でした。

新たな発見は、必然的に博物館の展示にも影響を及ぼします。羽毛恐竜の発見によって、どのように展示は変化したのか。恐竜の展示において日本有数の規模を誇る国立科学博物館。そこで恐竜の研究員として勤務している對比地 孝亘(ついひじ たかのぶ)さんに話を伺いました。

 

飛べないのに「羽毛」のある羽毛恐竜

 
―早速ですが、羽毛恐竜の定義ってなんでしょうか?

まず、大きく鳥盤類恐竜と竜盤類恐竜に分けて説明しますね。近年、これとは異なる考え方も提唱されていますが、ここではこれまで広く受け入れられてきたように、恐竜は大きくこの2つのグループに分けられるとして話をします。鳥盤類恐竜は、トリケラトプスやハドロサウルスといった、植物食の恐竜で占められるグループを指します。鳥類と同様に恥骨が後ろを向くため、鳥盤類という名称がつけられました。しかしこの特徴は、鳥類とは独立に進化したものなので、鳥盤類と鳥類が近縁というわけではありません。いっぽうティラノサウルスやアパトサウルスなど、骨盤が前向きの恐竜は竜盤類恐竜に属します。さらに竜盤類恐竜は獣脚類と竜脚形類に分類されるのですが、その獣脚類恐竜の一部が「羽毛恐竜」であり、鳥を生み出した仲間であると言えます。このことは骨のカタチの証拠から見てほぼ間違いない仮説であると考えられていて、最近では「鳥は恐竜の一部」と言われることもありますね。

鳥盤類恐竜に属するトリケラトプスは、植物食の恐竜。恥骨は後ろを向いている。※写真はイメージです。

竜盤類恐竜に属するティラノサウルス。骨盤が前を向いている恐竜が分類されている。※写真はイメージです。

 
―羽毛恐竜はいつ発見されたのですか?

大きな発見は1996年と1998年です。中国の遼寧省にある前期白亜紀の地層から見つかった化石に、羽毛の痕跡が見つかりました。鳥が誕生する前の段階、ティラノサウルスのような肉食の恐竜の仲間にも似た構造をもっている生物が見つかったぞ、というのがことの始まりです。鳥じゃないのに、羽毛をもっている生物がいる。だから、羽毛恐竜と呼ばれるようになりました。

羽毛恐竜はいろんな種類が見つかっていて、今では約1億5千万年前の後期ジュラ紀からも見つかっています。このような恐竜は、かなり鳥とは類縁関係が遠いもので、プロトフェザーと呼ばれる、羽毛に進化するような柔らかい外皮を持っていたことがわかってきています。

 
―でも、飛べないのに羽毛を持っているって、ヘンですね。

鳥の羽毛は、前足に風切羽が発達しているから、飛ぶことに関連して進化したんじゃないかというのが、定説でした。今生きている鳥だけを見たらそれが妥当に見えます。しかし、羽毛恐竜の発見で、まだ飛べない段階の獣脚類恐竜で、羽毛やそれに進化する前のプロトフェザーが見つかったことで、羽毛の起源は、もともと空を飛ぶことには関係ないのではないかと考えられるようになりました。

 
―では、羽毛恐竜の羽毛の役割は?

いくつか仮説があり、そのひとつが体温の保持です。鳥って、抱いてみるとわかるのですが、すごく温かいんです。哺乳類より体温も代謝率も高いんですね。羽毛恐竜も他の爬虫類と比べると代謝率が高く、体温を保てたのではないかという説があります。

もうひとつは、ビジュアル的なシグナルに関連する説です。孔雀のようにオスがメスをアトラクト(惹きつける)する目的や、同じ種類のものだと認識するために、ビジュアル的なシグナルを発信していたのではという説。

さらには、今生きている鳥で、ひな鳥のようなまだ飛べない鳥でも、坂道を登るときに翼をバタつかせます。飛ぶに値しないような羽毛のようなものでも、力を与えることはできるので、駆け上がる、もしくは飛び降りるときにぶつかるショックを軽減させることに使われていたのではという仮説です。個人的には面白い説だと思っています。

 
―羽毛恐竜の発見は、これまでの進化の定説を覆したのでしょうか?

それが、意外とそうでもないのです。羽毛恐竜の発見は鳥と恐竜の関係性を強めましたが、研究者のなかでは、歴史が変わるほどのものではありませんでした。というのも、恐竜の骨や骨格の特徴、始祖鳥やデイノニクス※1という鳥に近い恐竜を比べると、徐々に骨の形が鳥に近づく変化があったため、恐竜から鳥に進化したという説は以前から強く支持されていました。そのため、進化という面では歴史的な影響はさほどなく、ある意味、鳥は獣脚類恐竜の一分類群から出てきたという説の補強がされたという認識です。鳥と恐竜はやっぱりつながっていた、という感じですね。

※1デイノニクスとは、モンタナ州の前期白亜紀の地層から発見された、体長数メートルの肉食恐竜。活動的な捕食者であったと考えられており、鳥類の起源に関する議論に加えて、恐竜が高い代謝率を維持できた活動的な動物であったという考え方が生まれるきっかけともなった。※写真はイメージです。

 
―過去の恐竜の姿を知っている者としては、結構な衝撃でした。

確かに一般的に受け入れられた、という点では重要な出来事でした。あるいは、羽毛の進化において、恐竜も鳥と同じように代謝率が高く体温を一定に保てたかという議論が昔からあって、羽毛になるような外皮の構造をもっていたというのは、体温の保持に役立つので、恐竜の生態としての考え方においてはインパクトがありました。

生き物として恐竜を考えるうえで、骨だけでわからないこと、例えば内蔵や脳などは化石に残らないので、今まで見つからなかった証拠が出てきて、それをもとにこれまでの考え方を見直すタイミングにはなりましたね。

復元されたバンビラプトル※2。発見された化石から、メラノソームといわれる色素に関した細胞の構造が発見された。これにより、色の推定ができるようになった。実際の色は不明だが、アルビノ(色素の薄い、または無い個体)の存在はいたとの見解から、国立科学博物館では白色に復元されている。
※2 バンビラプトルとは、モンタナ州の後期白亜紀の地層から報告された小型の獣脚類恐竜。デイノニクスと同じドロマエオサウルス類に属する。

 

より鳥らしく変化していった博物館展示

 
―羽毛恐竜の発見は一般的な認知度を高めるのに役立ったとありましたが、博物館の展示にはどのような影響を与えたのでしょうか?

羽毛恐竜が発見されたのが1996年です。そのため約20年前のある時点、具体的には1999年前後で展示方法に変化があり、そこから現在までマイナーチェンジを繰り返しています。たとえば羽毛恐竜が現れる前ですと、羽毛が残っていたのは始祖鳥くらいで、それほど鳥と恐竜の関係を強調した展示はありませんでした。さらにいえば、恐竜の見せ方として爬虫類に近く、代表的なのが尻尾の位置です。昔はゴジラのように、引きずって歩いているように展示していました。ただ、鳥へ進化する生き物だという仮説が普及してからは、のそのそと歩いていたのではなく、俊敏な動きをしていたと考えられるようになり、鳥のように身体と尻尾を水平にして展示するようになりました。

●本館(現・日本館)のアロサウルスの展示(〜2004年)

かつて本館(現・日本館)に展示されていた頃のアロサウルス。この時の見解では尻尾は引きずっていたと仮定されていた。

●1999年、新館Ⅰ期(現・地球館)公開時のティラノサウルスの展示(〜2014年)

地球館が開設された時代にはすでに羽毛恐竜の存在が確認されていたため、本館展示のような引きずった尻尾ではなく、より俊敏に動けるように身体と垂直にしていたという新しい仮説が採用された。

●2015年から現在までのティラノサウルスの展示

現在の地球館のティラノサウルスの展示。着座した姿勢をとっている。より鳥類に近い生態系をとっていたとの見識からこのような姿へと展示方法を変更した。

 
―その他、展示に変化はありましたか?

鳥は恐竜から進化した説が強化されることによって、肉食恐竜の仲間が羽毛恐竜となり、始祖鳥を経て、鳥へと進化していく過程がわかる展示をつくりました。さらにはデイノニクスという鳥に近い恐竜を強調して展示していたことを覚えています。

1999年の「新館Ⅰ期常設展示公開」に羽毛恐竜バンビラプトルの骨格の展示を開始して、その後、白い羽毛を生やしたバンビラプトル復元模型を2005年以降に追加しました。

また、途中から恐竜から鳥への進化過程の展示はなくなりました。これは、恐竜から鳥になったという説が一般的に認知されたと考えられたためです。

現在では、羽毛が生えていたというだけでなく、2015年の「地球館Ⅰ期リニューアル」と同時に「羽毛恐竜と色の復元」の情報を追加しました。さらには、鳥に進化する前の恐竜も鳥に似た習性をもっていたことをあらわす展示もはじまりました。たとえば、モンゴルで見つかったシチパチという獣脚類恐竜は、巣の上に直接座った状態で化石が発見されました。鳥のように卵を抱いて温めて卵の中の胚の成長を促進していた可能性があるとして、その姿の復元模型を展示しています。

鳥類に近い存在であったという説が発見され、広く認知されるまでの地球館の恐竜展示の様子。猛禽類や始祖鳥などの展示が置かれていることからもわかるように、鳥類への進化の過程が示されていた。

 
―これからも羽毛恐竜に関連する展示は続いていく?

2019年7月13日から始まる「恐竜博2019」では、デイノケイルス※3の実物化石と全身復元骨格を世界初公開します。このデイノケイルスは1969年に報告された恐竜で、これまでは前肢の化石しか見つかっていなかったのですが、2006年に韓国とモンゴルの共同調査隊により見つかった化石で全貌があきらかになりました。デイノケイルスが属するグループに入る仲間には羽毛が見つかっているため、今回の復元模型の展示にも羽毛を生やす予定です。
※3 デイノケイルスは、モンゴルで発見された恐竜で、オルニソミモサウルス類に属する獣脚類恐竜。

恐竜の展示に関わらずですが、歴史的な発見や建物自体をリニューアルするということがないかぎり、マイナーチェンジの繰り返しです。その時々でなるべく一番妥当であると考えられる説を反映した展示をご覧いただけるようにしていきたいですね。

 

恐竜の研究者を目指す方へのアドバイス

 
―どのようなキャリアを経て研究者になったのですか?

古生物学は、生物学と地質学の境界領域になります。そのため、大学の理学部で生物学科を卒業したあと、今度は地学科に入り直しました。その後、イェール大学の大学院に進学するためにアメリカへ留学。当時は、日本の大学で恐竜の研究の指導をできる人がほとんどいなかったのです。大学院に6年在籍し、博士号を取得。その後は、ポスドク研究員としてシカゴのフィールド博物館、オハイオ大学、国立科学博物館で研究に従事しました。その後2012年に東京大学に教員として就職し、2019年の4月に国立科学博物館の研究員となっています。

 
―現在の研究職に就くまで長い遍歴があるようですが、将来、恐竜の研究者を目指す方へのアドバイスをください。

国立科学博物館を含め、地方の県立博物館、市立博物館を見ると、日本でも恐竜の研究者はかなり増えてきています。私が大学にいた時代と比べたら、国内でも恐竜の研究で博士号を取得しやすくなっていると思います。

もし、これから恐竜の研究職を目指す方にアドバイスできることがあるとすれば、なるべく幅広く基礎勉強をしてほしいですね。講演をしていると小中学生にも「恐竜の研究者にはどうすればなれるか」とよく聞かれるのですが、算数から英語まですべてを使うので、貪欲に勉強したほうがいいと伝えています。これは大学生にも言えることです。「恐竜学」があるわけじゃないので、化石などからどんな情報を引き出すか、その引き出し方にはいろんな手法があります。解剖学はもちろん、他にもコンピューターシミュレーションや、力学的、物理学的なアプローチもあるでしょう。

生物学と地質学は絶対に外せない基礎として、そこからなるべく幅広く基礎勉強しておいたほうが化石から様々な情報を引き出せるということが、経験則からみなさんに伝えられることですね。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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