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テクノロジーで学びの環境を変えていこう!オンライン教育はどこまで可能か。 コロナ下で数々のオンラインワークショップに取り組むCANVAS石戸代表に聞く想像力と創造力の育み方

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今年(2020年)は小学校でのプログラミング教育が必修化されたエポックの年ですが、一方で、新型コロナウィルスの感染拡大によって休校になった子どもたちに、学校から大量のプリント(宿題)が配布されるなど、教育現場はまだまだアナログだったと痛感させられた年でもあります。

その後、大学の授業はほぼオンラインになるなど、急速にオンライン化・デジタル化が進んだのは周知のとおりですが、海外では一流大学をはじめ複数の大学がコロナ以前から講義を無料で公開し始めていたので、日本がむしろ遅れ気味だったとも言えます。

オンライン教育は、現段階では実際どこまで教育効果が出せるか未知数な部分も多いです。ですが、Withコロナの新しい日常の中で、教育のオンライン化は時代の要請となりつつあることは間違いなく、効果の出せるオンライン教育の開発が求められています。

そこで今回は、オンラインでの教育の可能性を追究している第一人者に取材しました。プログラミング教育をはじめとして、子どもたちに早い時期から数学や科学に親しんでもらうことの大切さを唱え、実践してきたNPO法人CANVAS(キャンバス)の石戸代表です。CANVASはコロナ禍において、いち早くオンラインでの子ども向けワークショップを多数開催。この半年の実践の中で得た知見やこれからの時代に求められる教育との向き合い方についてお話を伺いました。

 

石戸奈々子さん
CANVAS代表/慶應義塾大学教授 

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。慶應義塾大学教授。総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。著書には「子どもの創造力スイッチ!」、「日本のオンライン教育最前線──アフターコロナの学びを考える」など多数。これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。
https://www.canvas.ws/kenkyujo/

 

次世代を担う子どもたちに「想像力と創造力」を

 
──CANVASはどのような活動をされているのでしょうか?

石戸 2002年の設立以来、子どもたちのためのワークショップを開催してきました。造形やサイエンス、デジタル技術を使うものや身体的なもの、音楽、数学、国語……など、テクノロジーを駆使しながらも、コンピュータには代替できないコミュニケーション力やクリエイティビティを育む様々なプログラムを提供しています。すべてに共通するのは「作る」という要素で、心で感じ、頭で考え、全身で作り、それを人に伝える、というスパイラルを大切にしています。

 
──CANVAS立ち上げ時、石戸さんはマサチューセッツ工科大学(以降MIT)メディアラボで客員研究員をされていたそうですね。

石戸 メディアラボ時代の恩師は「STEM教育からSTEAM教育へ(※)」を提唱してきた先生で、頂いた「Imagine & Realize(想像と創造)」という言葉は私の座右の銘になっています。頭で考えることに加えてそれを現実化する、実践して形にすることの大切さが込められた言葉です。また、MITそのものも、常識にとらわれず常に新しいことにチャレンジをし、新たな価値を創造することに最大限の称賛をおくる理想的な学びの場、創造の源泉でした。まるでおもちゃ箱のような雰囲気で、まさに「想像と創造」が生まれ続ける環境でした。

MITは技術と社会の接点を常に模索するラボでもあり、ちょうど私がいた2001年ごろには、主に発展途上国の子どもたちに100ドルのパソコンを配るという取り組みが行われていました。100ドルつまり約1万円のパソコンを作ろうという技術的チャレンジでありながら、「ネットワークにつながったパソコンを配ることがすべての子どもたちに学びの機会を提供することにつながる」という教育改革チャレンジでもありました。このような、テクノロジーで学びの環境を変えていくというMITの姿勢に感銘を受けたことも、CANVAS設立のひとつのきっかけになっています。

※STEM教育/STEAM教育とは
STEM教育とは、「Science (科学) Technology (技術) Engineering (工学) Mathematics (数学) 」を統合した理数系教育。近年ではさらにクリエイティビティを育む必要性が重視されるようになり、STEMに「Art(芸術)」を加えたSTEAM教育が浸透してきている。

 
──その後日本に戻って、活動を開始されたと。当時の日本では、STEAM教育はまだそれほど関心は高くなかったのではないですか?

石戸 私たちは、CANVAS設立当初からSTEAM教育も含め「主体的で協働的で創造的な学び」を提唱し続けていますが、ワークショップもプログラミング教育もSTEAM教育も教育への関心が高いごく一部の限られた層の間でしか知られていませんでした。どうすればうまく身近に感じてもらえるかという伝え方を考えた結果、ファッションショーのようにポップに学びを伝えることができればと思い始めたのが、ワークショップコレクションです。

ワークショップコレクションは、「主体的で協働的で創造的な学び」をより広く普及させていくために始めた博覧会イベントです。CANVAS設立当初には「ITを子どもに使わせるなんて」といった懐疑的な声もありましたし、ワークショップという言葉も浸透していませんでしたが、今では首都圏のみならず北海道や仙台、京都、大阪、福岡、沖縄など様々な地域で開催されるようにもなりました。

そうした地道な活動が徐々に仲間を増やしてゆき、結果として2010年頃からようやくプラグラミング教育が受け入れられるようになり、2020年には小学校での必修化にもつなげることができたと感じています。

 
ワークショップコレクションの様子

 

オンラインだからこその楽しさ、学びとは?

 
──CANVASのワークショップは、集合型のリアルイベントが主流だったように思いますが、新型コロナウィルスの影響もあり、現在はほとんどオンラインに移行されていますね。取り組まれていかがでしたか?

石戸 学びの場にテクノロジーを活用することは当初からの私たちのミッションなので、これまでにもオンラインで国を越えて子どもたちをつなぎ、共同で4コマ漫画をつくったり、日本各地の子どもたちが協力して音楽を作るプログラムなども行なってきました。

ですが今回世界的にステイホームが広がったことで、これまであまりオンライン環境に慣れ親しんでこなかった人たちにも、急速に浸透するきっかけになりました。

私たちの活動においても対面での実施が難しいということで、これまでリアルで開催してきたワークショップをすべてオンラインに切り替えました。

 
──参加者の方々の反応に変化はありましたか?

石戸 もともと、ワークショップは非日常空間での学びという点に魅力を感じていた参加者の方も多かったようなのですが、いざオンラインで開催してみると、オンラインならではのメリットが見えてきました。例えば、ワークショップの場が非日常から自宅という日常空間に移行したことで、前後の時間も含めてのワークショップ体験ができるようになりました。事前準備として身近なものを採取する必要があるプログラムでは、いつもの近所での散歩が、突如色鮮やかな冒険になるといった体験が生まれたり、家の中にあるものを活用することで、ワークショップ終了後もそのまま子どもたちが納得いくまで試行錯誤が続けられるのもよい点です。また、遠方に住んでいてこれまではなかなか参加が難しかった子どもたちが参加してくれるようにもなりました。インターネットを活用することで、距離が離れていても共同で何かを創造するという機会が格段に増えています。

 
──オンラインでのワークショップでは特にどんな工夫をされていますか?

石戸 よく、オンラインに移行したことによる苦労などを聞かれることもあるのですが、私たちはこれもチャンスと捉えていて、特別不便だと思ったことはないです。気を付けている点は従来と変わらず、世界中の多様な価値観の人たちと協働し、新しい価値を創造する環境を提供することです。

 
──実際にオンラインワークショップの様子も見学させていただいて、画面越しだからこそ子どもたちがしっかりと言葉で考えや思いを伝えようと努力しているようにも感じました。

石戸 そうですね、自分がどのような工夫をしたのかしっかりと言語化して伝えたり、ほかの子どもの発表から新たな発見を得ることが次の新たな創造やコミュニケーションにつながる大きな刺激になります。そのあたりは、リアルでのワークショップよりもさらにファシリテーターが意識してやっている点かもしれません。

リケラボ編集部もCANVASのオンラインワークショップのひとつ「キッズクリエイティブ研究所 うちのなかのひみつきち」シリーズに参加をさせてもらいました。

この日のテーマは、身近にある「セロハンテープ」を使って遊んでみようというもの。子どもたちが正解に向けてではなくそれぞれの自由な発想で造形し、遊び方を工夫しているのが印象的でした。


石戸 オンラインだからこその工夫は、先ほども申し上げたような、日常の連続の中で前後の時間も含めた設計にすることと、ICTを日常の道具として使いこなす機会とすることの二点ですね。

日常のなかにしっかりと溶け込むワークショップをデザインすることで、子どもたちが日常の中で「?」と「!」を繰り返して探求が続けられるカリキュラムにしていくことを意識しています。またオンライン会議ツールの設定や操作は、保護者の手を借りずに子どもたちにやってもらっています。そうした体験の積み重ねが、ICTの単なるユーザーとしてではなく、ゆくゆくはテクノロジーの原理原則を理解したうえで使いこなすことにつながってゆくと考えています。

ワークショップの前半ではそれぞれが自由に手を動かし、後半には一人ずつ画面の向こうのスタッフさんや子どもたちに向けて、自分の言葉で工夫やこだわりを伝える発表の時間が設けられました。発表を聞いてほかの子のよいところを真似してみたり、新しい遊び方を見つけたり、次々と発想が広がっていきます。

自宅で参加できるので日常と非日常の隔たりがなく、ワークショップ終了後も「もっとやりたい!」と夢中になって続けていました。

 

新型コロナで加速する教育のオンライン化とこれからの教育のあり方

 
──テクノロジーで学びの環境を変えていくというミッションが、2020年に図らずも急速に進んだとも捉えられるわけですね。

石戸 そうですね。これまで日本の学校のICT環境整備状況は世界と比較しても遅れをとっていました。その課題に多くの人が気づくきっかけにもなりました。今後も子どもたちの学びを止めないためにも、まずは学校でも家庭でもICT環境を早急に整備していく必要があると思います。

そして、対面の代替手段としてオンラインを取り入れるのではなく、オンラインならではの利点を見出して、上手に活用していくことが大切だと思います。また、対面だからこそできることもあらためて見直されています。

Society 5.0(※)に向かおうとしている今、デジタルとアナログのそれぞれの利点を組み合わせたハイブリット型の教育手段を日々社会の変化に対応しながら模索することが、より一層質の高い学びと遊びにつながる道だろうと考えています。

※Society 5.0とは
IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有される社会。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く未来社会のあり方として日本が提唱するコンセプト。

 
──最後に、リケラボ読者に向けてメッセージをお願いします。

石戸 私の座右の銘である「Imagine & Realize(想像と創造)」という言葉を、私自身は「子どもたちの学びと遊びの場をつくること」で実践してきたつもりですが「頭で考えるだけで完結させず、実践し、形にすることで社会を一歩ずつ前進させる」ということはどのような挑戦においても大切な心掛けではないかと思っています。ぜひ今回読んでくださったみなさんも、それぞれのフィールドで「Imagine & Realize」を続けていけるよう、時々この言葉を思い返してもらえたら嬉しいですね。

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