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市販品から天気管作ってみた│ヘルドクターくられの1万円実験室│リケラボ

市販品から天気管作ってみた│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第27回目のお題は「天気管」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!


皆さんこんにちは。レイユールです。

今回は、サイエンス系インテリアとしても人気な「天気管」を市販の材料から作ってみようと思います。

天気管

皆さんは、天気管というものをご存知でしょうか。ストームグラスとも呼ばれており、理系のインテリアとして人気が高く、デスクに飾ったりしている人もいるでしょう。

そんな天気管ですが、19世紀ごろにイギリスで用いられた気象予報具であり、天気に応じて結晶の形や量が変化するというものです。現在は天候や気圧との因果関係は否定される流れにありますが、実際に天候を予測できるかどうかは別として、日々色々な形の結晶が出るので、眺めて楽しむには十分なグッズであるといえそうです。

天気管の組成

天気管は19世紀に製造されたことからもわかるように、あまり高度な化学薬品は使用されていません。この時代に比較的容易に入手できるものである以下の5成分から成っています。

・水

・エタノール

・樟脳(カンフル)

・硝石

・塩安 

水とエタノールはお酒の蒸留によって19世紀でも容易に入手できました。樟脳というのは、日本では着物の防虫剤としてタンスに仕込んだもので、クスノキの葉や枝を水蒸気蒸留することで得られる白色の結晶です。硝石は現代でいう「硝酸カリウム」です。黒色火薬の主成分であり、19世紀でも兵器の原料として盛んに製造されていました。また塩安は現代でいう「塩化アンモニウム」で、塩酸とアンモニアの反応で生じる白色の粉末です。昇華性をもつことから容易に高純度なものが得られたと考えられています。現代では、それぞれが化学薬品として各メーカーから販売されていますが、硝酸カリウムは火薬の原料になるということで、個人の入手はほぼ困難です。

硝酸カリウムの入手

硝酸カリウムは硝酸と水酸化カリウムや炭酸カリウムなどの反応で得られる白色の粉末ですが、硝酸カリウムや硝酸は基本的に入手ができません。そこで、今回は身近な製品である「冷却パック」の中身の「硝酸アンモニウム」を原料に硝酸カリウムを作り出すことにします。冷却パックは、硝酸アンモニウムが水に溶ける時に熱を吸収する性質を利用しているので、これを分解すると、高純度の硝酸アンモニウムを入手できます。尿素などを使用した製品もあるので、事前に成分を確かめて購入しましょう。

合成した硝酸カリウムを結晶として取り出すにはいくつかのハードルがありますが、今回は溶液のまま使用することができるため、合成した硝酸カリウムは溶液から取り出さずに使用します。

注意!!

硝酸カリウムは火薬の1成分ではありますが、今回扱う分量や溶液の状態であれば安定した安全な物質です。発火等の危険性は低いのでご安心ください。ただし実験を行う際には薬品の分量を表記通りに計り、必ず手順を守って調合を行なってください。

硝酸アンモニウムの表記。硝酸アンモニウムと水のみの商品を選ぼう

天気管を作る

それでは、実際に天気管を作っていきましょう。

計量には0.1g単位で計れるキッチンスケールを使用して精密に測定を行ってください。

1 瞬間冷却パックを分解し、中身の硝酸アンモニウムを取り出す。

分解したところ。白いビーズ状のものが硝酸アンモニウム。水の入った袋は破けやすいので慎重に取り出し処分する。

2 塩化カリウム2.24gと硝酸アンモニウム2.40gを計量する。

硝酸アンモニウム(左)と塩化カリウム(右)

3 水53.7gに塩化カリウムと硝酸アンモニウムを溶解する。

硝酸アンモニウムの溶解。非常に水に溶けやすいのであまり時間はかからない。

塩化カリウムの溶解。硝酸アンモニウム溶液に塩化カリウムを加える。こちらも水によく溶ける。

4 全てが溶解したら、塩化アンモニウム1.40gを加えて完全に溶解する。→A液

塩化アンモニウムの溶解。不足分の塩化アンモニウムを追加する。

溶液A。全てが溶け、A液が完成した。濁りが気になる場合にはコーヒーフィルターなどで濾過しよう。

5 別の容器にエタノール42.3gを計量する。

エタノール。水分を含まない「無水エタノール」を使用しよう。

6 エタノールに樟脳12gを溶解する。→B液

樟脳の溶解。量が多いが極めて溶けやすいので、すぐに溶液となる。

溶液B。すぐに溶解してB液が完成。濁る場合はA液同様に濾過をして取り除く。

A液とB液。それぞれの溶液が完成した。

7 A液とB液をそれぞれ全量混合し、これを加熱して全てを溶解させる。

A液とB液の混合。準備した溶液を全て混合すること。

生じた沈殿。二つの溶液を混合すると多量の沈殿が発生するので、全て溶けるまで加熱する。

溶解後の溶液。加熱にはホットプレートか湯煎を使う。直火では引火の危険がある。

8 容器を密閉して室温で一晩様子を見る。

完成した天気管

美しい結晶が析出している

少し手順は複雑ですが、薬品を正確に計って溶かしていくだけで完成します。

結晶の量はエタノールと水とのバランスに大きく影響を受けます。結晶が出すぎる時にはエタノールを、結晶が少なすぎる時には水をスポイトで数滴ずつ加えて調整しましょう。

結晶の量は主に温度で変化するため、冬場には8分目ほど、夏場には3分目ほどの結晶量が適正です。冬場にちょうど良い結晶量で調整してしまうと、夏場には結晶が消えてしまうなんてこともあるので結晶の量の変化を見越して、少しずつ調整してみましょう。

硝酸アンモニウムを使った理由

さて、天気管が完成したわけですが、これは本当にオリジナルレシピと同じ成分となっているでしょうか。硝酸カリウムを直接入手する代わりに塩化カリウムと硝酸アンモニウムを用いたわけですが、これらは溶液中で以下のような反応を起こします。

NH₄NO₃+KCl→NH₄Cl+KNO₃

化学式だけを見せられてもよくわからないと思うので、少し解説をします。これは、硝酸アンモニウムと塩化カリウムが反応すると、塩化アンモニウムと硝酸カリウムになることを表しています。通常、硝酸カリウムの合成を目的にこの反応を行うと、塩化アンモニウムを何らかの方法で除去する必要がありますが、今回は副生成物の塩化アンモニウムも天気管の構成成分であることから分離や精製を行わずに使用することができます。ただ、この反応では硝酸カリウムに比べて塩化アンモニウムの生成量が少ないので、足りない分を足して補ったわけです。

実験にかかった費用

・ガラス瓶 300円程度
・冷却パック 200円程度
・塩化カリウム 1,500円程度
・エタノール 1,500円程度
・塩化アンモニウム 1,500円程度
・樟脳(カンフル) 1,000円程度
・キッチンスケール 3,000円程度

掲載写真,図全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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