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工業的生産方法がついに確立! 話題の"ペロブスカイト型量子ドット"のすごさを専門家に解説してもらいました | リケラボ

工業的生産方法がついに確立! 話題の“ペロブスカイト型量子ドット”って何だ?

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みなさんこんにちは、ライターの笹沼です。リケラボで「その研究、私も理解したい!!文系女子が最先端の理系研究室に突撃取材」シリーズを担当しています。

先日、ネットでこんな話題を発見しました。

「冨士色素株式会社が、ペロブスカイト型量子ドットの工業的生産方法を確立」

ぺ、ペロブスカイト型量子ドット……? なんだか強そうな名前です。ざっと内容を見てみた限りだと、どうやら“ペロブスカイト型量子ドット”は“量子ドット”のなかでも特に最先端の材料で、発光したり発色したりするもののよう。ディスプレイなどに応用できるみたいです。そして、このペロブスカイト型量子ドットを大量生産できる企業は冨士色素が世界初かもしれないとのこと。これはすごい!(気がする)。

だけどそもそも、量子ドットって何だろう? ペロブスカイト型量子ドットって何がすごいんだろう? 大量生産するとどんなことができるようになるんだろう? 理系知識がない私にはわからないことが多く、いろいろ気になります……。

せっかくだから、すごさをもっと詳しく知りたい! ということで、冨士色素株式会社の代表取締役社長で工学博士の森良平さんにお話を伺いました!

(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)


次々世代ディスプレイ技術の要? より明るく鮮明に

そもそも、量子ドットって何ですか……?

量子ドットというのは、半導体原子が集まった発光性の超微粒子のこと。だいたい10nm以下で、平均すると1~3nmほどのとても小さな粒子です。量子ドットには、粒径によってエネルギーの状態が変化するという性質があります。そのため、大きさを変えると発光する色も変わるんです。ちなみに、小さければ青色寄りに、大きければ赤色寄りになります。

自由自在に色を変えられるなんてすごい! では、どんなことに活用できるのでしょうか?

たとえば、テレビなどのディスプレイに使うと、さらに色が鮮明になります。現在、韓国や中国で量子ドットテレビの実用化が進んでいますが、まだまだ空港などの施設で使うためのものや、展示品が中心。一般家庭で使えるようになるのは、有機ELの次の世代になると考えられています。ほかにも、LEDライトなどの照明や、細胞を染色する医療用のバイオマーカーにも活用され始めていますね。さらにもう少し未来の話になりそうですが、より効率的に発電できる太陽電池や、コンピュータへの活用についても研究開発が進められています。

とても幅広い活用方法があるのですね! では、今回生産方法が確立された“ペロブスカイト型”量子ドットの特徴はどんなところなのですか?

量子ドットを構成する物質や粒子の構造にはいくつか種類があり、“ペロブスカイト型量子ドット”は、ペロブスカイト(=灰チタン石)と同じ結晶構造を持つ量子ドットなんです。特徴は、発光スペクトルの半値幅──つまり、光の波長の幅が狭いこと。

図:420nmの励起波長下でのペロブスカイト量子ドットの発光スペクトル

ざっくり言うと、この幅が狭いほど色が鮮明になります。幅が広いと、そのぶんほかの色が重なることになるため濁った感じになってしまうのですが、狭ければより純度の高い色になるというわけです。さらに、ペロブスカイト型量子ドットは量子収率が高いため、より明るく発光します。

要は、ほかの量子ドットよりも色がきれいで明るいということですね。

では、ペロブスカイト型量子ドットを一度にたくさん生産できるようになったというのは、どれほどすごいことなのでしょうか?

そもそも、ペロブスカイト型量子ドットを商業的に取り扱うことだけでも、世界初と言ってもいいくらいのことなんです。量子ドット自体、商用に製造している企業は世界でも数が少なく、なかでもペロブスカイト型はかなり最先端の分野なので、大学の研究機関などごく一部で研究されているレベルです。ましてやそれを商業化しようと考えるような人はまだほとんどいなかったのではないでしょうか。

また、量子ドットにはカドミウムといった強い毒性を持つものが用いられることが多く、安全性なども含め、業界全体で課題が残っている状況です。そんななか、当社は小さい会社ながらも、世界の大企業に負けない最先端の研究をしていこうと考えてきました。カドミウムを含まない量子ドットの開発なども積極的に進めていたため、ペロブスカイト型量子ドットの合成にもチャレンジすることに。幸いにもうまくいき、商業化を実現できました。

今後、当社のペロブスカイト型量子ドットが順調に売れていけば、一ヶ月あたり数トン単位(水溶液の状態)で生産できるようにもなると思います。商業化できたことで、まだ一般的になっていない量子ドットテレビなどの実用化がぐんと進む可能性がありますし、そうなってくれたら僕もうれしいですね。


日本発の研究技術が、世界中の身近な製品に採用される日も近いかもしれません。期待が高まりますね!

<取材協力>
冨士色素株式会社
http://www.fuji-pigment.co.jp/index.html
■ペロブスカイト型量子ドットの工業的生産方法を確立(プレスリリース)
https://www.atpress.ne.jp/news/136250

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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