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HPLC(高速液体クロマトグラフィー)とは

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HPLC(高速液体クロマトグラフィー:High Performance Liquid Chromatography)とは

HPLCは、液体の混合物から各成分を分離・検出する方法です。測定対象に応じて、分離方法や検出器を選択することができ、さまざまな有機化合物の定性・定量的な分析が可能です。近年の化学分析では必須の分析技術の1つです。

以下に本内容で使用する用語についてまとめます。

  • クロマトグラフィー(Chromatography):分離手法のこと。
  • クロマトグラフ(Chromatograph):クロマトグラフィーを行う分析機器のこと。
  • クロマトグラム(Chromatogram):クロマトグラフィーの測定結果のこと。(分離した成分が流出する保持時間に現れる、各成分の量に比例する面積を持つ複数のピークで表される)
  • 固定相(Stationary phase):移動する溶媒(移動相)に対して、固定されて動かない相のこと。クロマトグラフィーを行う際に、サンプルや溶媒が流れるろ紙や樹脂などの固体、またはそれらに含ませた液体などを指します。固定相となる樹脂などの粒子を担体と呼び、担体を筒状容器に充填したものをカラムと呼びます。
  • 移動相(Mobile phase):固定相に対して、その表面を移動する相を指します。クロマトグラフィーを行う際に、サンプルが溶解する溶媒となるもので、展開液や溶離液とも呼ばれます。溶媒として有機溶媒、水、メタノールや緩衝液など液体や、不活性なHeガスなどの気体が使われています。なお、移動相に気体を用いる場合は、「ガスクロマトグラフィー」と呼ばれます。今回は移動相に液体を用いる「液体クロマトグラフィー」にフォーカスします。
  • 展開(development):固定相上 (ペーパークロマトグラフィーのろ紙上など) をサンプルと溶媒の混合液が移動すると、サンプルと固定相の相互作用(※説明は後述)の差によって、混合物中の各成分が分離することを指します。液体クロマトグラフィーでは、溶離(elution)という用語が使われる場合があります。

クロマトグラフィーの開発

数種類の混合物の中にどのような物質が、どの程度存在しているのかを知るためにさまざまな方法が開発されてきました。混合物の沸点の差を利用して分離する蒸留や、温度による溶解度の差を利用して分離する再結晶が古くからあり、クロマトグラフィーもその流れの中に生まれました。

クロマトグラフィーは、カラムやろ紙と物質の相互作用の差を利用して混合物を分離する分析技術で、1906年にロシア人植物学者のツヴェット(Tswett)により発表されました。ツヴェットは、植物を研究する過程で葉緑体のクロロフィルは複数の色素分子によって構成されていると予測し、各色素を分離するためにさまざまな手法を試みました。その結果、立てたガラス管に炭酸カルシウムを詰めカラムとし、そこに植物の抽出液を入れ、石油エーテルで流すことで、カラムの中で色素が分離(展開)することを発見しました。これは、各色素の炭酸カルシウムへの吸着度が異なるために起こる現象で、吸着度が強い物質はゆっくりカラム内を移動し、吸着度が弱い物質は速く移動します。ツヴェットは複数の色素が分離した結果を「クロマトグラム」、手法を「クロマトグラフィー」と名付けました。物質間の吸着力の違いから成分を分離するこの方法は、今日では「(順相)吸着クロマトグラフィー」と呼ばれています。

ツヴェットが発表した当時、「クロロフィルは単一成分である」という主張が大勢を占めていたためこの研究はあまり注目されませんでした。しかし、1930年半ばごろから見直され始め、カロテノイドやアントシアニンなど天然色素の分析に関する論文が発表されます。その後、クロマトグラフィーはさまざまな測定対象に対応する形で進歩していきます。

クロマトグラフィーの発展

クロマトグラフィーの発展において、重要な人物が2人います。一人はリチャード・L・マーティン(Richard L. Martin)ともう一人はアーネスト・L・シング(Ernest L. Sing)です。1941年にマーティンとシングが分配クロマトグラフィーを発表し、その業績により、両者は1952年にノーベル化学賞を受賞します。彼らの成果を軸にHPLCの開発に至るまで、さまざまなクロマトグラフィーが開発されます。

分配クロマトグラフィーは、ツヴェットの吸着クロマトグラフィーで生じる「固定相の担体表面を溶媒が覆ってしまうことで、物質の吸着性が悪くなり、その強弱を正確に反映できない」という課題から考案されました。分配クロマトグラフィーでは、固定相そのものに物質を吸着させるのではなく、水と有機溶媒など、混ざり合わない性質の異なる2つの液相間を、物質がその疎水性の強さにより行き来する(分配)する性質を用いて、分離を行います。具体的には、カラム中の固定相の担体表面を水などで覆い親水性を高め、サンプルを流す移動相には疎水性が高い有機溶媒を使用します。サンプルをカラムに流し込むと、各物質は固定相の担体表面の親水性の高い層と、移動相の疎水性の高い層という2つの液体間を行き来します。そのとき疎水性の弱い(より親水性の)物質は、水に留まりやすい(分配されやすい)ため、固定相表面の水の影響を受けゆっくりと移動(展開)し、疎水性の強い物質ほど、固定相表面の水の影響を受けにくく、速く移動(展開)します。

親水性と疎水性という物性の違いを詳細に分離できる方法が開発された結果、羊毛由来のタンパク質加水分解物中のアミノ酸(フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、バリン、メチオニン)が決定されました。このとき決定できたのは主に疎水性のアミノ酸でした(メチオニンのみ中程度の疎水性として分類されることもあります)。

さらにマーティンらは分配クロマトグラフィーを発展させ、分離が困難な親水性のアミノ酸の分離を検討しました。マーティンらはろ紙を固定相とし、異なる性質を持つ溶媒を用いて直角方向に2回展開させる二次元ペーパークロマトグラフィーを考案し、1944年に発表しました。この方法により、羊毛に含まれる22種類のアミノ酸全てを分離することに成功しました。

マーティンらはノーベル化学賞を受賞した1952年にも、分配クロマトグラフィーを発展させ、移動相に液体ではなく気体を使ったガスクロマトグラフィーを発表します。この開発により、低分子・低沸点の有機化合物やH₂やCO₂などの無機ガスの測定が可能となりました。

1947年にはボスコット(Boscott)により前述の分配クロマトグラフィーとは逆に、固定相の担体表面に有機溶媒を保持させ、親水性の移動相を用いる逆相クロマトグラフィーが発表されます。
一方、分配クロマトグラフィーとは異なる原理のものとしては、1953年にエルマン(Lerman)により、基質と酵素間の特異的な結合力を分離に用いるアフィニティクロマトグラフィーや、1959年にはポラス(Porath)とフローディン(Flodin)により、物質を分子サイズでふるい分けるゲルろ過クロマトグラフィーが発表されています。

この時代までに登場した液体を移動相とするクロマトグラフィーはカラムの内径が大きく、試料や溶媒が大量に必要となることや、低い分離能、展開に用いる移動相が重力または低圧ポンプにより小さな流速で行われていたので、分離に時間を要するという課題がありました。そこで、内径の小さなカラムと高圧ポンプを用いて、高分解能・高速展開を達成するHPLCが開発されました。原型は1960年代後半に考案され、1969年には分析機器各社からHPLC装置がリリースされました。1970年代に入ると現在一般的に使用される逆相系のODS(オクタデシルシリル基)カラムが実用化されブレークスルーとなりました。これが、今日我々がよく目にするHPLC(高速液体クロマトグラフ)の原型になっています。

HPLCは、液体に溶解する物質であれば試料に制限はなく、カラムや検出器を変えることで、前述のさまざまな液体を移動相とするカラムクロマトグラフィーを1台で行うことができます。例えば、熱に不安定な物質や高沸点の化合物、イオン性物質、高分子化合物なども分析可能であり、そのため、一般的な有機化合物の定性、定量分析だけではなく高分子化学、生化学、錯体合成化学など、さまざまな化合物の分離分析技術として幅広く用いられています。さらに、目的成分の単離、精製、濃縮といった前処理法としても用いることができます。

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HPLCの仕組み

HPLCは送液ポンプ(移動相の送り出しに使用)、試料注入装置、カラム、検出器、データ処理機の主に5つの装置で構成されます。移動相とカラム、そして装置の分離モードの組み合わせによりさまざまなものを分離できます。分離モードとカラムには以下のようなものがあります。

<分離モードとカラム>

順相モード:脂溶性の高い物質(糖、ペプチド、核酸)の分離を目的とし、固定相に極性の高いシリカゲル、移動相に極性の低いヘキサンやクロロホルムなどを用いた分離方法。シリカゲルカラムやシリカゲルにアミノプロピル基を結合させたアミノカラムなどがあります。

逆相モード:低分子化合物の分離を目的とし、一般的に最もよく用いられるモードです。疎水性相互作用を利用した分離方法で、疎水性が高い物質は強く吸着され、疎水性が低い物質は弱く吸着されます。使用するカラムの種類は、シリカゲルやオクタデシルシリル基を結合させたODSカラムなどがあり、移動相としては極性の高い溶媒(例:水)にメタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを混合し,極性を適当に制御することで使用します。

サイズ排除モード:分子量の大きなポリマーの分離を目的とし、ゲルろ過カラムを用いた分離方法。疎水性ポリマーの分離を目的とした際にはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)、親水性ポリマーの分離を目的とした際にはGFC(ゲルろ過クロマトグラフィー)と呼ばれます。

イオン交換モード:タンパク質やアミノ酸の分離を目的とし、試料とカラムのイオン結合を使って分離する方法。ゲルに陰イオンや陽イオンを結合させたイオン交換樹脂カラムを用います。

また、充填剤の粒径、カラムは長さ、太さなども様々なタイプがあり、分離したい成分や、HPLCのスペックにより変更します。

<固定相の形状が与える影響>

充填剤の粒径:一般的な逆相クロマトグラフィーでは5 μm程度の粒径の充填剤が使われています。粒径を小さくすると固定相の表面積が増えるため、分解能が向上しますが、充填剤同士の隙間が少なくなるため、夾雑物などが詰まったり溶出に圧力が必要になります。粒子径を小さくする場合は、短いカラムや高い圧力などを検討する必要があります。

長さ:カラムが短くなるほど分析時間が短く済み、また溶媒の消費量も抑えられます。しかし、成分同士のピークの位置が近づき、分解能が低くなるというデメリットがあります。そのため、混合液中の各物質の性質が似ていて分離が難しい試料は長いカラムを使用します。一方で、長いストローほど吸うのに力が必要なように、長いカラムに液体を流すためには高い圧力が必要なため、高圧のポンプを用いる必要があります。

太さ:一般的な逆相クロマトグラフィーでは内径4.6 mmのカラムが使われています。サンプル量が同じ場合、内径の細いカラムを用いることで、高い分解能を得ることができることから、内径の細いカラムを用いると、少量のサンプルでも同じ分解能を得ることができます。試料の準備や溶媒にかかるコストを削減できるというメリットがあります。一方、大量のサンプルを精製する場合、10 mm以上の太い内径カラムが用いられ、成分を取り分ける「分取カラム」として機能します。

分離後の検出器は解析対象となる化合物の性質や分析条件の相性をもとに選択、調整されるので、さまざまなものが用意されています。

<検出器と解析対象となる化合物>

吸光度検出器:対象となる化合物は吸光物質です。紫外(UV)吸光度検出器やフォトダイオードアレイ検出器を指し、最もよく使われています。

蛍光検出器:UV吸収により蛍光を発する化合物を対象とした検出器です。化合物から発せられた蛍光を検出します。

電気伝導度検出器:水溶液中の陽イオンや陰イオンを分析対象とする検出器です。目的のイオンが通過した際の電流値の変化を検出します。

示差屈折率検出器:移動相と異なる全ての化合物を対象とする汎用性の高い検出器です。解析対象が通過する際に光の屈折率が変化することを利用しています。

質量分析計:イオン性の化合物を分析対象とする検出器です。分離した各成分の質量(分子量と電荷の比)情報を得ることができます。

新しいHPLC技術

HPLCに関する技術は現在も研究開発が進んでおり、新しい装置や原理が開発されています。さらなる高速化や小型化、既存の装置との組み合わせなど、いくつかの事例を紹介します。

超高速液体クロマトグラフ(UHPLC:Ultra High Performance Liquid Chromatography):2 µm以下の超微粒子充塡カラムを用いて、高圧(~130 MPa)で分離を行うことで、高い分離能を維持したまま高速で分離を行います。従来のHPLCと比較して分析時間を1/5〜1/10に短時間化できると同時に、移動相溶媒の使用量を1/10近くまで削減できます。

HPLCフィンガープリント分析:HPLCを用いた複雑なサンプルの解析手法です。単一成分のみが薬効に寄与する合成薬に対し、複数成分が薬効に寄与する生薬の品質評価方法として注目されています。複数の生薬の検体を用意し、それぞれから多成分をHPLCで分離、ピーク保持時間やピーク面積などを定量的に測定することで、その生薬固有の標準指紋クロマトグラム(フィンガープリント:物質の同一性を判別するために用いるその物質固有の特徴)を作製します。標準指紋クロマトグラムを用いることで、他検体の品質調査などを行います。現在生薬の品質の国際規格は統一されていないものもあるため、HPLCフィンガープリントは品質規格の国際調和や標準化の観点からも重要となります。

その他、可搬性にすぐれたHPLCの開発も進んでいます。

これらの新しい技術は、HPLCの分析能力を向上させ、より高速で正確な分析が可能になっています。今後もHPLCの技術は進化し続け、より高度な分析が行えるようになることが期待されています。

まとめ

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1906年に吸着クロマトグラフィーが考案されて以降、さまざまな検出対象に対するクロマトグラフィーが開発されてきました。1969年に開発されたHPLCにより、移動相やカラム、検出器を変えることで、さまざまな液体クロマトグラフィーを1台で行うことができるようになりました。
HPLCは社会で広く活用されるようになり、医薬品分野では、原料中の不純物や製品中の有効成分、代謝成分の分析などに用いられています。特にビタミン類は熱に不安定なので、HPLCによる分析が製品開発、品質管理に適しています。食品分野では、栄養成分、機能性成分、食品添加物、残留農薬、残留医薬品、かび毒などの分析に用いられています。生化学分野では、タンパク質や核酸関連物質といった生体由来成分の分析に不可欠です。さらに、環境分野では、水道水、環境水、大気、土壌中の成分分析に用いられ、汚染物質の分析に役立っています。
現在でも、さらなる高速化や小型化、カラムや検出器の開発などが行われ、HPLCの進歩から目が離せません。


記事執筆:百目木幸枝(北海道大学大学院 生命科学院 修士課程 修了 / 再考編集室 室長 / さいこうファーム 副農場長
記事監修:秋津貴城(東京理科大学 理学部第二部 化学科 教授)


<参考文献>
香川信之,高速液体クロマトグラフィーを用いた高分子の分析, ネットワークポリマー, 2011,32巻5号 283-289p
田中 誠司, HPLCフィンガープリント分析による生薬品質評価の発展性,ファルマシア, 2020,56巻12号,1132p

リケラボ編集部

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