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ポリマー(集合体)とは

ポリマー(集合体)とは

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ポリマーとは

ポリマーとは同種の分子が多量に連なった集合体のことで、一般的に数100個以上の分子が互いに結合した高分子のことを言います。また、分子1個をモノマーもしくは単量体と言い、分子2個をダイマー、二量体と言います。モノマーの「モノ」は「1つ」、ダイマーの「ダイ」は「2つ」、そしてポリマーの「ポリ」は「たくさん」を意味します。これはギリシャ語の接頭語で、化学の世界ではよくギリシャ語を起源とする用語が使われています。ちなみに3つ以降は以下のような数を表す語で表します。

3:トリ、4:テトラ、5:ペンタ、6:ヘキサ・・・

これらの接頭語は私たちの普段の生活でも耳馴染みがあり、例えばモノレールやテトラポット、ペンタゴンといった言葉もそれに該当します。モノレールはレールが1本であることからモノレール、テトラポットは足が4つ伸びているポットであることからテトラポット、ペンタゴンは5角形を意味します。そして、モノマーがたくさん連なったものが「ポリマー」となります。ただし分子が多数連なっていればすべてポリマーと呼ぶかというとそうではありません。分子レベルでどのように連なっているかによって異なります。

例えば、二酸化炭素を凍結することでできるドライアイス。このドライアイスを分子レベルで観察してみると二酸化炭素分子が互いに接近しあって固体を形成しています。「モノマーである二酸化炭素分子が多数連なっているためドライアイスはポリマーである」と思われるかもしれませんが、互いに結合していないので、これはポリマーではありません。

ポリマーは分子それぞれが共有結合で強固に結合した集合体のことを言います。ドライアイスの場合は、固体中の がファンデルワールス力※という弱い力で相互作用しています。そのため力を加えるとすぐに分子同士が離れてしまい、このような集合体はポリマーとは呼びません。では、プラスチックの仲間であるポリエチレンはどうでしょうか。ポリエチレンはコンビニやスーパー等で貰うレジ袋の材料です。名前の通り、エチレンモノマーが結合を組み替えて共有結合をつくり強固に連なり(重合する、と言います)高分子を形成したものです。このように一般的にポリマーとはそれぞれのモノマー間の繋がりが強く重合して、丈夫であるため、私たちの人体にも(後述するタンパク質など)たくさん存在しますし、人工的にも多くの製品に利用されています。

※ファンデルワールス力:原子、イオン、分子の間に働く力(分子間力)の一種。

私たちの生活を支えてくれるポリマーたち

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自然界にも存在する身近なポリマーとは

一般的にポリマーというと化学合成されたポリエチレンやポリスチレンなどをイメージする方も多いかと思います。しかし、 前述した通りポリマーとはモノマーが共有結合で連なった高分子のことを言いますので、 そのような高分子は化学合成した物質以外に自然界にも多量に存在しています。そして、私たちはそのポリマーを昔から上手に利用して生活してきました。

私たちが昔から利用してきた自然界に存在するポリマーで特に身近なものに「セルロース」があります。セルロースはグルコースが直鎖上に多数結合したポリマーで、木材や綿といった植物の細胞壁を構成する主要成分です。このポリマーは植物の中では生合成※によって自然に合成されていき、木材を家屋や紙に、綿を衣類などに加工し利用してきました。

※生合成:生体内で有機物が合成されること(簡単な化合物から複雑な化合物がつくられること)

自然界に存在するセルロースは植物の中だけではありません。植物が産生するセルロースと比較すると、極わずかではありますが、セルロースを産生する細菌も存在します。そして、私たちはその細菌が合成するセルロースを喜んで口に運んでいます。皆さんもナタデココは食べたことがあるのではないでしょうか。ナタデココは酢酸菌という細菌がココナッツ果汁を発酵させることによってつくられ、細かなセルロース繊維が水で膨潤※したものです。セルロースを食べても人間は分解することができないため栄養にはなりませんが、食物繊維として私たちの腸内環境を整えてくれる重要な働きをしてくれています。

※膨潤:物質が水などの溶媒を吸収して体積が増加する現象のこと

古くから私たちの衣・食・住を支えてくれているセルロースですが、実は今後もさらに私たちの生活を発展させてくれる可能性を持ったポリマーです。細かいセルロース繊維のことをセルロースナノファイバーと言い、これを複数束ねたものは強度が非常に強く鋼鉄の1/5の軽さで鋼鉄の5倍の強度を有するという特徴を持ちます。また、プラスチックのように環境中に長く留まり続けることもなく生分解されるため、環境にも良いです。

このように人工的に創ることが難しい優れた特色を多く有するので、セルロースナノファイバーは現在、様々な分野で活用方法が模索されています。そもそもセルロースナノファイバーを商業利用できるようになったのは最近で、それまでは安定的にセルロースナノファイバーを生産する技術がありませんでした。2006年に東京大学の画期的な発見により、木材からセルロース繊維を1本レベルまでほぐす技術が確立され、一気に実用化が進みました。今後、高強度であることを活用した自動車ボディや人工血管などの人工臓器への展開が見込まれています。

ライフラインを支えるポリマー

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私たちの生活を支えてくれているポリマーはまだまだあります。自然由来のポリマーの例としてセルロースを挙げましたが、人工的に合成される無機物のポリマーとして、ポリ塩化アルミニウムを紹介します。

ポリ塩化アルミニウムは、あまり聞き馴染みがない物質かと思いますが、私たちの命を守ってくれる大切な役割を担っています。例えば、私たちの飲み水など生活用水をつくるために利用されています。

日本では蛇口をひねれば綺麗な水が出てくるのが当たり前ですが、この水はどこから来るのかご存知でしょうか。一般的には、ダムや湖などの水を人間が飲んでも安全なレベルまで浄水場で処理し、排水管を通って皆さんの家庭に運ばれています。ダムや湖の水は不純物だらけです。泥や藻、細菌といったものが大量に含まれ濁った状態です。この水をろ過することで綺麗な水に仕上げるのですが、いきなりろ過器にかけると不純物がすぐに目詰まりを起こしてフィルターを頻繁に取替えなければなりません。そこでろ過の前段階として、大きな不純物を沈殿させて取り除く際に活躍するのが、ポリ塩化アルミニウムです。単位重量が水よりも重い物質は、時間を置くと自然に沈殿していきますが、さほど水と変わりない不純物は沈殿するのに非常に時間がかかります。そこで、ポリ塩化アルミニウムを凝集剤として使用し、小さな不純物を凝集させ大きな集合体とし、質量を重くすることで沈殿速度を速めます。

なぜ、ポリ塩化アルミニウムを入れると不純物が凝集するのでしょうか。少し難しい話になりますが、水に含まれる微粒子は一般的にはマイナスに帯電しています。一方、ポリ塩化アルミニウムは水に入るとプラスに帯電したイオンとなります。そして2つの物質が水中で出会うと、プラスのポリ塩化アルミニウムとマイナスの微粒子は互いに引き寄せあい、どんどん凝集し大きな集合体となります。結果的に質量も大きくなり、底へ沈殿していきます。この機構を利用し、浄水施設ではダムや湖の水をろ過にかける前段階としてポリ塩化アルミニウムで前処理を行い、浄水処理を行います。このように、ポリ塩化アルミニウムのおかげで浄水効率が非常に上がり、私たちの家庭に安定的に安全な水が届くようになっています。

私たちはポリマーでできている!?

さて、最後にご紹介するポリマーは私たち人間です。そこまで言うと少し大袈裟かもしれませんが、人間の体を形づくるためにはポリマーが欠かせません。人間の体の構成要素の内、最も多いのは水分で約60%を占めると言われています。次に多い構成要素はタンパク質で約16%を占めます。このタンパク質は、筋肉や皮膚、髪の毛といった体内のあらゆる場所に存在しています。そしてこのタンパク質はアミノ酸をモノマーとするポリマーです。アミノ酸はグルタミン酸等のうま味調味料でも知られますが、タンパク質はこのような20種類のアミノ酸が鎖状に連なったポリマーです。このポリマーがからまり特定のはたらきをもつ形になることでタンパク質となり、それらが筋肉や髪の毛といった組織を構成しています。

まとめ

ポリマーに関して、 具体例を交えながら解説してきました。こうして見てみると、私たちの周りには、自分自身を含めポリマーで溢れています。むしろ、それなりの形をもった物質は全てポリマーで出来ているといっても過言ではないかもしれません。一概にポリマーといってもセルロースのように高強度のポリマーから、不純物を凝集させるポリ塩化アルミニウムのようなポリマーなど、物質それぞれに固有の特徴があります。そして、最先端の研究現場では、これまでなかった特徴のポリマーをつくり出す研究が日々行われています。 食品、建築、医療など様々な分野で活躍するポリマーが今後もさらに開発されることでしょう。


記事監修:秋津貴城(東京理科大学 理学部第二部 化学科 教授)

リケラボ編集部

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