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理系の職種紹介vol.1 CMC開発研究 協和キリン株式会社

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理系の仕事といっても、職種は?仕事内容は?
求人募集を見ても、いまひとつ仕事内容のイメージがわかないことってありませんか?

そこで理系の“仕事内容”にフォーカスを当て、よくある理系職種について、実際にその仕事で活躍している先輩に詳しい内容を教えてもらおう!という企画を始めました。

名付けて「理系の職種紹介」。
みなさんの就職/転職活動に役立てるように頑張って取材しようと思います!

今回取り上げるのは医薬品の「CMC開発研究」

CMCはChemistry, Manufacturing and Controlの略で、医薬品を製造する際の最適な生産工程、つまり生産プロセスや品質評価のための試験法などを開発する仕事です。未経験者にとって、非常にわかりにくい職種のひとつですよね。

そんなCMC開発研究の仕事を説明していただいたのは、日本におけるバイオ医薬品のリーディングカンパニーである、協和キリン株式会社さま。バイオ生産技術研究所で、CMC開発研究の中でも原薬の精製プロセスをご担当されている菊池信介さん(2010年入社)に、医薬品のCMC開発研究の仕事のナカミとやりがい、必要な心構えについて教えていただきました!

 

そもそもなぜ生産プロセスを研究・開発する必要があるのか

ラボで作ったクスリのタネ。ラボと同じ方法では、工場での大量生産はできません。

医薬品のCMC開発研究の具体的な説明に入る前に、まず医薬品の開発について簡単にご説明しますね。

医薬品の開発は、最先端の論文などを元に、医薬品になり得る物質を探すところから始まります(探索研究)。候補物質が見つかったら、in vitro、in vivoで繰り返し薬効や毒性、代謝などを評価、確認し、ヒトに投与しても安全で有効だと判断できたものを、薬の形状にして(製剤化)、少数の患者さんに投与する臨床試験を行います。何年もかけて慎重に臨床試験を実施し、ヒトに対しての安全性と有効性が確認されて初めて、医薬品として国から製造・販売承認を得ます。

医薬品開発のフロー図

CMC開発研究員は、創薬研究の後半からプロジェクトに参画し、生産細胞の構築、培養法、精製法、製剤処方、試験法開発などさまざまな検討を分担実施し、非臨床試験に用いる高品質なサンプルを提供します。その後、こうした検討により得られた技術情報を生産工場に技術移転し、臨床試験に用いる治験薬の製造供給をサポートします。

医薬品には、従来から使われてきた低分子医薬品(化学合成で作られる)と、近年目覚ましく進歩したバイオ医薬品があります。バイオ医薬品は、主にタンパク質を有効成分とする医薬品で、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて製造します。これまで治療薬のなかった病気や、低分子医薬品では効果が少なかった病気に対しても有望とされており、協和キリンは、バイオ医薬品の研究開発・製造において日本を代表するメーカーのひとつです。

バイオ医薬品は生きている細胞を扱うため、低分子医薬品に比べ非常にデリケート。原料となる細胞に目的のタンパク質(有効成分)を作らせ、それを高純度で取り出すのですが、生き物なので性質が多様であり、特性を把握しながら最適な方法を模索する必要があります。ラボで少量の細胞を使って作る際はうまくできたとしても、工場の数キロリットルの設備で培養するとなると、ラボスケールで作り上げた条件をそのまま再現できるとは限りません。(編集部注:例えば一人分のカレーを作るのと30人分のカレーを作るのとでは、具材の大きさ、熱の加え方、調味料の投入方法、かき混ぜ方など色々と違うというのに似ているといえば、わかりやすいでしょうか)

また、ラボでいくら流体計算をして検討を重ねても、シミュレーションの域を出ません。そこで、実際に細胞を培養する装置を少しずつ大きく(スケールアップ)しながら、実際の生産設備を使った際に再現できる条件を探していきます。

バイオ医薬品は、製造工程のわずかな変化によって品質が変わってしまいます。薬によって品質[有効性(効き目)と安全性]がバラバラでは患者さんの命にかかわるので、常に【高品質】で、【有効性・安全性を保証した、同じ品質の医薬品】を作り続ける必要があります。その方法を確立し、製造方法に落とし込むことがCMC開発研究の最大のミッションです。

以上のことをまとめると、医薬品のCMC開発研究の仕事とは、探索研究(初期探索研究、基盤技術研究等)で見つけ出した医薬品のタネを、いかに効率よく、高品質に作れるかを検討し、多くの医療現場で使えるように製剤化し、大量生産するためのプロセスを研究すること、ということができます。

それでは、いよいよ、医薬品のCMC開発研究について、順を追って詳しく見ていきましょう!

 

生産プロセスが鍵を握る大量生産へのスケールアップ

<バイオ医薬品の主な生産プロセス>

バイオ医薬品は、治療に有効なタンパク質を発現させるための遺伝子を細胞に導入し、その細胞を培養で増やすことで大量生産を行います。主な生産プロセスは下記のとおりです。

【原薬製造①培養】細胞を培養して増やすCMC開発研究
【原薬製造②精製】細胞培養液から目的のタンパク質のみを抽出・精製するCMC開発研究
【製剤化】抽出した有効成分を投与・保存に最適な形にするCMC開発研究

※その他に、原薬、製剤の各段階で品質や物性を確認するため、各種分析を行います。

原薬を医薬品として出荷するまで、複数の工程でCMC開発研究が行われますが、ここでは、あくまで協和キリンの例をご紹介します。

 

【原薬製造①】原薬となる細胞を培養して増やすCMC開発研究

目的のタンパク質を大スケールで生産するために、頑健且つ生産性が高い培養プロセスを作り上げるための研究です。
探索研究の段階ではマイクロリットルのバイオリアクター(培養装置)を使いますが、最終的には数キロリットル規模での培養が必要になります。

CMC開発研究では、容量が数ミリリッターから数リッター程度のリアクターを使ってプロセス開発を行います。
栄養成分の添加量や、気体の吹き込み量、攪拌数など培養に影響を与えるさまざまなパラメーターについて検討を行い、最適なプロセスを作り上げます。

ラボスケールで作り上げたプロセスを用いて、数キロリッターの培養を行うことになるわけですが、生き物である細胞を思うようにコントロールすることは難しく、スケールアップにはさまざまな課題があります。ラボスケールの検討から始まり、大スケール培養において安定生産を達成するためにはさまざまな知識と技術、ノウハウが必要になってきます。

たくさんのバイオリアクターが並ぶラボ、圧巻です!上写真よりも下のほうが、リアクターが大きくなっています。

<ポイント>
設備が変わると諸々の要因が影響するため、最後まで予測できないことが多い。生産性・品質ともに安定して生産するためにも、培養プロセスの制御・コントロールは非常に大切。

これぞという細胞株を見つけたら、セルバンクを作製し、常に同じ細胞株から安定して製造ができるようにもしています。生育が難しい細胞株が選定されることもあるため、安定培養のための研究も重要な仕事です。

工場のバイオリアクター。協和キリンは、世界最大規模のバイオリアクターを有しています。

 

【原薬製造②】細胞培養液から目的のタンパク質のみを抽出・精製するCMC開発研究

培養が終わったら、細胞を分離し、溶液だけの状態にしたもの(培養上清)を精製して、目的の有効成分を取り出す工程に移ります。培養上清には細胞の代謝物など、医薬品にとっての不純物が大量に含まれています。基本的には、カラムクロマトグラフィーを使って精製しますが、アフィニティークロマトやイオン交換クロマトなどいくつかの選択肢があり、組み合わせて最適な精製方法を確立します。純度を高めるための精製工程の他に、ウイルスを不活化又は除去するための工程や、製剤化に向けて最適な緩衝溶液に置換するための工程も必要になります。

精製プロセスでは、工程ごとに詳細な検討が必要になり、何十項目もあるパラメーターを一つ一つ設定するという作業を行います。個々の精度の向上のほか、精製手法の組み合わせが品質や収量を向上させるための大切なポイント。有効性や安全性を担保するために高い品質のものを恒常的に得られるプロセスを構築することはもちろんですが、いかに安く・短期間で目的物質を取得できるかといった、コスト面への意識も企業研究としては必要です。

ずらりと並んだ自動化クロマトグラフィーシステム

<ポイント>
医薬品発売後も、プロセスの見直しは継続します。精製では高額な資材を使用し、複数の工程を長時間にわたって実施することになるため、精製プロセスを改良できれば、品質に加えてコスト面や生産スピードを向上させることができる可能性があります。限られた時間で品質を高め、かつコストを削減するという、相反する要素を満たすためには、企業が持つ技術やさまざまなノウハウが生きています。

 

【製剤研究】精製した有効成分を投与・保存に最適な形にするCMC開発研究

精製で取り出した有効成分は、医薬品として最適な形にされて医療現場へ提供されます。このプロセスを製剤化といい、ここでもいろいろな工夫があります。

まずは処方成分、処方溶液の調合方法、剤形などを決めていきます。液剤がいいのか、凍結乾燥製剤がいいのかなど、有効成分の品質を長期間維持できる形態を探索します。さらに、投与の際に医療従事者や、患者さんの負担にならないよう、最適な容器を設計します。同じ注射剤でも、バイアルやプレフィルドシリンジ等、さまざまな容器の医薬品が開発されています。製剤研究では、医薬品の効果だけでなく、QOL (クオリティオブライフ)が向上するような剤形を目指した開発を行っています。

<ポイント>
医薬品は工場から出荷した後、医療機関へ運んでいる間や、保管している間に変質しないことがとても大切。有効性と安全性が保てるベストな剤形は何かを研究します。

いろいろな組成を試して、処方を決定していきます。一日に1000本のサンプルを調製することも。

 

医薬品のCMC開発研究における仕事のやりがい

製造プロセスの開発なしには、医薬品を患者さんに届けられない

学生時代から製薬業界志望だったものの、CMC開発研究の仕事は入社するまでまったく知りませんでした。数年間この業務に従事した今では、自分が考えたプロセスで作った薬が世界中の患者さんに届いて喜んでもらえるのだということを実感でき、本当に意義深い仕事だと感じています。それに、一度作り上げて医薬品の製造プロセスとして採用したものでも、後から「ここを改良すればもっと現場の人が楽になるかも」「あそこを工夫できれば生産性が上がるかも」など大小さまざまな改良点を思いつくことが常であり、次のプロセス構築に向けていくらでも考えて工夫を積み重ねることができる点が面白いです。

医薬品は、どんなに優れた有効成分が探索研究で見つかっても、CMC開発研究がうまくいかないと、医薬品として製造し、承認を取得することができません。高い品質のものを安定して生産できる一連のプロセスが確立していること、製造及び分析に必要な設備がすべて適切に管理されていることなど、生産プロセスのすみからすみまでをきちんと科学的・技術的に証明できて初めて、製造・販売する許可が下ります。安全でよく効く薬を、いかに早く患者さんに届けられるかは、CMC開発研究にかかっているのです。有望な薬のタネを、「なんとしても医薬品として世の中に送り出すぞ!」という使命感を持って、研究を続けています。

 

CMC開発研究に関わる仕事に向いている人

CMC開発研究はチームプレー!各々の技術を磨きつつ、メンバーとのコミュニケーションが成功の鍵

CMC開発研究では、個人やその部署だけで完結する業務はほとんどありません。自分の担当業務と繋がりがある複数の部署の仲間と常に関わりながらプロジェクトを進めるので、個人プレーよりもチームプレーを好む人の方が向いていると思います。協和キリンでは、ひとつの製剤について、複数の部署から代表メンバーがアサインされCMC開発研究に取り組みます。チームメンバーとコミュニケーションを取りながら全体最適化を考えることで、効率よく質の高い仕事が可能になります。工場の人ともよく話しますね。スケールアップはCMC開発研究の重要な要素ですので、実際の生産現場を知ることは良いプロセスを構築するためには不可欠です。製薬企業の中でも研究所と工場が同じ敷地内にあるのは珍しく、とてもコミュニケーションがとりやすいのは当社の強みだと思います。

また、モノづくりには、トラブルがつきもの。製造過程では予期せぬことが起こり得ます。医薬品生産は、多くの要素が高い水準で保たれて初めて成立しています。万一何かあった時は、各部署の専門家が集まり、もてるあらゆる知識・ノウハウ・技術を総動員して解決にあたります。そこでは非常に高いレベルでのディスカッションが繰り広げられます。
人の命にかかわる製品のため、緊張感は桁違いですが、プレッシャーはやりがいと背中合わせですね。さらなる高みを目指す原動力になります。

このように、常にチームで喜びも苦しみも共有しているので、努力が実り、当局に認められて医薬品として承認が下りたときには、本当にみんなで喜び合うことができます。医薬品開発の中で承認に立ち会える機会は多くありませんが、それ故に自分が担当した製品が承認を獲得した瞬間はとても感動的です。

 

どんな勉強をしておくべきか

必要な知識は入社してから身につけられる

CMC開発研究に必要な知識は会社に入ってから学ぶことができるので、専攻はそれほど気にしなくてよいと思います。私自身は、学部時代は工学、修士では生命科学を学びました。専攻はなんであれ、実験の立案や結果のまとめ方、考察の仕方といった、研究者としての基礎がきっちりと身についてさえいれば企業研究においても活躍できます。同僚たちも出身は、工学・薬学・農学・理学部などかなりバラバラです。なお、実験のほかに、医薬品の申請書作成も大事な業務です。申請書では、医薬品として認可を取るために生産プロセスについて科学的・技術的に国から求められている要件を満たしていることを文書で示すことが必要なので、文書作成能力は高いほうがいいですね。また、海外のグループ会社や海外メーカーとやり取りする機会もあるので、英語能力が高いに越したことはありません。ただ、やはり一番大事なのは自分の仕事をいかに高い水準でこなしているかです。研究レベルが高く、面白い技術を持っていれば、例えカタコトの英語でも興味を持って聞いてもらえますし、リスペクトもしてもらえるということは実感しているので、それほど神経質になることはないかと思います。まずは研究、そして余裕があれば英語を学ぶという優先順位でよいと思います。

CMC開発研究の仕事は終わりがなく、私は10年やりましたが、マスターできたとは思っていません。でもそれでいいのだと考えています。医薬品に関するガイドラインや業界を取り巻く環境は日々変化しますし、新しい生産技術も次々と生まれるので、「自分はもう一人前」と考えてしまうと進化が止まってしまいます。これからも常にアンテナをオープンに広く張り、いい薬をたくさん患者さんに届けていきたいと思っています。

 

編集部より

基礎研究でいい薬ができても、それを高い品質で安定的に大量に生産する技術が必要だというのは、当たり前ではありますが、普段製造現場を身近に感じることが少ないと、意識しにくいものではないでしょうか。生産は機械で行うので、バイオの知識だけでなく、工学や機械などの知見など、とても幅広い勉強が必要そうですが、入社後に学んでキャッチアップする人が多いということです。学生時代の専門はそこまで重要ではなく、またチームで開発に取り組むので、全てにおいてプロフェッショナルであることを求められるわけではありません。研究者としての基礎とコミュニケーション能力を高めることを心がければ、理系出身であればどんな方にもチャレンジしていただける仕事だと感じました。

ご協力いただいた協和キリンさまは、バイオテクノロジー、抗体医薬の分野で業界を牽引しており、海外のメガファーマにも負けない存在感を持っています。菊池さんをはじめ、みなさんが患者さんにいい薬を届けたい!という熱い想いを仕事の一番のモチベーションにしておられる様子が、お話から強く感じられました。目標に向かって自分の技術を高めていく仕事は、とてもやりがいがあり、充実した毎日が送れそうです!

菊池さん、協和キリンさま、ご協力くださいまして、本当にありがとうございました。

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著者プロフィール:

リケラボ編集部

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