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「博士を活かせ!」キャリア支援の現場担当者に聞く、博士就活の実情とヒント:理学博士KOTORAのキャリア相談室 最終回特別編

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これまで11回に渡りお届けしてきた「理学博士KOTORAのキャリア相談室」は、今回をもっていったんの連載完結となります。最終回は特別企画として、北海道大学の先端人材育成センターで博士前期・後期課程学生と博士研究員(ポストドクター)のキャリア支援を専門に行っている吉原拓也教授とKOTORAさんとの対談を通じて、プロの目から見た博士の就職事情の現状と、就職成功に向けたアドバイスについて伺いました。

吉原拓也教授
北海道大学大学院教育推進機構先端人材育成センター教員

大手メーカー研究所で研究開発職から採用まで幅広い業務を経験した後に北海道大学大学院教育推進機構先端人材育成センター(旧人材育成本部)にて博士人材の教員となる。博士自身が持つ力を適切に発信するためのトレーニングと企業とのマッチングに注力している。

画像提供:吉原教授

 

「博士の就職は厳しい」は本当か?

 

リケラボ編集部:「博士課程に進むと就職に不利」「博士の就職は厳しい」という話は依然としてよく聞かれますが、吉原先生から見たここ数年の実感としてはいかがでしょうか?

吉原:状況はかなり良くなってきてると思います。といいますか、実態としては学部卒でも大学院卒でも本人がいいと思う就職先に巡り合ってる人もいるしそうでない人もいるというだけのシンプルな話なのですが、世の中どうしても「博士まで行ったのにこんなに不幸、こんなに薄給」というネガティブな仕立ての話のほうが拡散されやすいものだから、世間的にはそういうイメージが定着してしまっているのだと思います。

 

リケラボ編集部:「博士の就職は厳しい」という話は、誇張されすぎているということでしょうか?

吉原:いえ、ひと昔前は確かに状況が悪かったのは事実です。なぜかというと、1990年代に国の政策で「ポストドクター等一万人支援計画」…いわゆる「ポスドク一万人計画」というものがあって、博士号取得者を増やす取り組みの一環で、期限付きの雇用ポストを劇的に増やしたのです。ところが、この施策にはかなり勇み足なところがあって、ポスドクたちがその後どこに就職するのかということまでは充分に考えられていなかったんですね。結果、それまでは採用市場で需給のバランスがある程度うまく釣り合っていた博士人材の、供給の方だけが増えてしまった。その一時期はやっぱり、本当に博士卒の方の行き先がなかったんですよ。

KOTORA:私はまさにその「ポスドク一万人計画」の頃に大学院進学を目指した人間でした。大学の4年生の時、先輩方は当然多くの皆さんがアカデミアの研究者になるつもりで大学院に進学されていて、でもいざ博士号を取ってみたら、正規のポジションは全くなくて、2年とか3年の期限付きの予算で雇われるポスドクのポジションに入る。その辺りでポスドクを取り巻く状況に対する悪い評判が一気に噴出したんですね。ポストドクターといえば聞こえはいいけれど、30歳前後になって家庭を持ってる方も少なくない年齢の方が、実態として2~3年で仕事がなくなるから次を探さなくてはいけない。年収も多くて600万円ぐらいまでで、低い場合には100万円台という場合もあり、そういう厳しい状況に置かれてどうやって研究に集中しろというのだとか、家族をどうしろというのか、これでやっていけると思うのかとか。そういう話が取り沙汰されるようになったのが、ちょうど2000年頃だったと思います。

吉原:その頃に比べると今は格段に状況が良いのですけれども、まだまだそれが世間はおろか、当の学生やポスドクたちの間にも充分には伝わっていないなと思います。

 

リケラボ編集部:状況が好転してきたというのは、具体的にどういうところで感じられますか?

吉原:グローバル化が進んだことによって、欧米のように博士号をある種の資格に近い役割を果たすものとして認識するようになった企業が増えたと思います。海外ではプロフェッショナルな研究者は博士号をもっていることがそもそも最低条件という場合がほとんどですから、彼らと円滑にコミュニケーション取ろうと思ったらやっぱり博士号を持っている人材が望ましいという点で、日本の企業でも博士人材のニーズは高まっています。分野でいうと製薬系、とくに外資系は以前から博士を積極的に採用する傾向がありました。最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の領域などでも顕著です。あとは金融工学などもそうですよね。プログラミングを自分でできることは前提で、発想的な面でもゼロからイチを開発していけるような人を採るので、そういう分野だとやっぱり博士じゃないと世界と戦えない、みたいな認識になりつつあります。

KOTORA:博士号を資格として捉える企業が増えていることで、学生の側も、分野によってはむしろ博士号を持っていたほうが就職に有利という意識で博士課程に進むケースが増えていますよね。従来であれば「研究が好きだから博士を目指すのだ」というある種漠然とした動機の学生がほとんどだったので、そのあたりは時代の変化を感じます。

吉原:そうですね。もちろん今も博士後期課程に進む学生は基本的にはアカデミックポジションを目指す人が多くはありますけれども、以前に比べると先ほど述べたように博士の価値をわかる企業が増えていて、その結果、学生側の選択肢も多様化してきています。

 

エントリーシートが書けない!博士就活の最初の壁の突破法

 

リケラボ編集部:吉原先生のいらっしゃる北大の先端人材育成センターで、学生あるいはポスドクの方から受ける相談で多いのはどのような内容でしょうか?

吉原:就職に関する相談に絞れば、最も多いのは「エントリーシートを見てほしい」というものです。

KOTORA:エントリーシートをご覧になって、どのようなフィードバックをされることが多いのですか?

吉原:「あなたはもっとすごい力を持ってるのに全然表現できてないよ」「あなたは100の力を持ってるのに、そのエントリーシートの書き方だと50も出てないよ」っていうのが、最も多いですね。多くの博士学生がそのような事態に陥ってしまっています。

 

リケラボ編集部:どうしてでしょうか?

吉原:世の中に溢れている就職関係の情報って、ほとんどが学部生とかマスターを対象に発信されている情報なんですね。にも関わらずその情報を博士が鵜呑みにしてしまうと、どうしてもミスマッチが起きてしまう。たとえば「学生のとき最も力を入れたことは何でしょう」という定番のお題に対して、博士の学生が何に悩むかっていうと「自分は研究に没頭してたのでアルバイトをしていません、部活やサークルのリーダー経験もありません、なので書くことがありません」というようなことなのです。企業が研究職を採ろうという場面で、アルバイト経験がないなら採りませんなんてことはありません。研究の中でどれだけのことをやったかってことを、最も力入れたこととして書けばいいんだよって言っても「いや、ネットには何か特別な経験を書くようにという記事が大量にある」とか、「私は研究ばかりやってたんで、全然他に力を入れたひとつのことがなくて…」と言われるのです。そんなことが頻繁に起きているんですね。

 

リケラボ編集部:学生時代に力を入れたことが学業なのは、博士ならなおさら本来の姿なのにも関わらず、ですね。

吉原:アルバイトがよいとか悪いとかではないけれど、少なくともあなた方博士人材は希少価値の高いことを勉強し、高度研究人材としての訓練も受けているのだから、自信を持ってそのことを書けばいい。

KOTORA:それってまさに就活の王道の話ですね。学部生でも修士でも、皆さんすごいテクニック論に偏るんですけど、就活っていうのはつまるところ自分を伝える場なんです。自分を伝えた結果、企業側がうちの会社で活躍できそうかどうかってことを判断するものであって。その自分を伝えるツールとして学部生とか修士だったらアルバイトの経験とかを使うわけだけど、博士だったら研究を使わずにどうする、とそういうことですよね。

 

「研究成果がでていない=能力がない」ではない

 

リケラボ編集部:「研究を頑張ったことは確かだけど、自分はこれといった研究成果が出せていないので、研究でアピールすることがない」とおっしゃる博士も少なくないと思いますが、その方へはどのようなアドバイスをされていらっしゃいますか?

吉原:学生に言っているのは、「企業はあなたの研究成果を買いに来てるんじゃない」ということです。もしそうだとしたら研究室に共同研究の申し入れをしますよね。そうじゃなくて、企業はあなたが入社した後どう活躍するかを見に来てるんです。なので、なぜ他ならぬその研究テーマを選んだのか、その研究を進めるときにいろんな方法があるなかでなぜ自分が今やってる方法を選んだのか、そのときの価値観は何なのか、どういう見立てをしたのか、出てきた成果にどういう意味があると解釈をしたのかっていうところを話してください。それを話すことによって、あなたの「能力」が伝わります。能力が伝わるプレゼンをしてください、ということを一貫して伝えています。

 

リケラボ編集部:研究の「内容」や「成果」と「その人が持つ能力」はイコールではないということですね。

吉原:その通りです。企業の人はあなたの研究を勉強したくて、教えてもらいたいと思っているわけじゃない、あなたを知りたいんだ。あなたを知りたいけど、それを知るためのツールとしてあなたの研究内容を聞いてるだけだから、そこをちゃんと理解してくださいっていうというようにいつも指導します。

 

リケラボ編集部:面接の練習をしていると、研究内容を細部にわたって長時間かけてお話ししてくださる博士にしばしばお会いしますが、企業面接の目的とずれているということですね。

吉原:北大では企業と会う就職イベントへの参加を希望する学生に、事前にキャリア相談員に向けて実際に模擬プレゼンをしてもらいます。一発で合格が出る人は、多分1%もいないです。必要なのは、華々しい研究業績ではなく、博士課程の研究で得た能力を企業にわかりやすく伝えるスキルですね。そしてこれはトレーニングで解決できます。研究に没頭した人であればあるほど理解しづらい点なので、実際にプレゼンテーションをしてもらって、それを作り直してもらいながら少しずつ理解してもらうようにしています。

博士の就活のカギは支援機関をうまく使うこと

 

リケラボ編集部:吉原先生のいらっしゃる北大は、博士の就職支援が非常に手厚いという印象があります。

吉原:各大学の就職支援部門にもおそらく1人か2人は博士のキャリア相談ができる人がいると思います。そういう人に1回コンタクト取ってみるっていうのが、大事かなと思います。

KOTORA:学生やポスドクの方にとって身近な相談先といえば、所属する研究室の教授や卒業生などになると思います。もちろんそれも大切なネットワークなのですが、一方で研究者として生きてる人たちのコミュニティに閉じてしまうと視野が狭まってしまったり、つい人と比べてしまったり、とかえって悩みが深くなってしまうこともありがちです。時には研究者のコミュニティだけではなくて、大学の就職支援部門であったり、人材会社であったり、研究者以外の協力者にも目を向けてみるのはよいことだと思います。

 

リケラボ編集部:学問の専門性ではなく、研究能力そのものが評価されるということは、専門外の業界にも可能性が広がっているということを意味します。専門外のことは、自分のコミュニティの外からしか情報を得られません。そういう意味でも、キャリアの専門家には遠慮なくサポートを求めたほうがよいということですね。

意外なマッチング事例も! 多様化する博士人材の活躍の場

 

KOTORA:ここで少し、博士のキャリアの多様化についてお話を伺いたいと思います。吉原先生が北大でキャリア支援をされている中で、大学での研究とリンクしないお仕事に就かれる卒業生の方は、どのぐらいいらっしゃいますか?

吉原:結構多いですよ。数パーセントのレベルではなくて、何割か、という感じでいらっしゃいます。

KOTORA:具体的にはどういった就職先に行かれるケースがありますか?

吉原:まずは公務員になるなど、そもそも研究に関わらない仕事に就くケースも多いです。研究に関わる仕事の中だと、例えばバイオの研究をしていた学生さんで、本人としてもバイオ関係の会社に行くのかなあと漠然と思っていたけれど、キャリア支援を受けるなかで実はIT企業でもバイオの研究者を募集していることを知りそちらへ進んだというようなパターンは結構多いですね。

KOTORA:自分の研究分野以外での活躍の可能性というのは、どのように博士人材の方に示せるものでしょうか?

吉原:たとえば北大では「赤い糸会」という、博士学生と企業とのマッチングイベントを年に数回開催しています。そのなかでこだわっているのが、情報系、バイオ系、化学系など、様々な分野の企業を混ぜて参加いただいていることです。それはまさに、結果として意外な組み合わせの採用が決まることがあるからなんですね。これはWeb上の採用広報ではなかなか実現ができない部分です。例えば、電子機器メーカーのホームページはIT系や電気系の学生は見にくるけど、バイオ系の学生はなかなか見に行かないですよね。あるいは製薬会社がホームページで情報技術者の募集をかけても、IT系の学生は見に行かない。今、創薬はITを活用してやってるから、ちょっとバイオがわかるIT系の学生がいたら製薬会社としては非常に来てほしいのだけど、そういう学生には普通にはなかなか出会えないんですよね。なので「赤い糸会」では、必ず、学生も企業もバラエティーに富んだ分野を揃えて、全員が異分野の企業とも面談できるように人数も調整しています。1回あたり学生は50人ほど、企業は20社ほどですね。それ以上になると相互交流が十分にできないので、マッチングにつながりにくくなります。

KOTORA:吉原先生ご自身が特に印象に残っている最近のマッチング事例はありますか?

吉原:「赤い糸会」とは別の話ですが、近いところで印象的だったのは、ある製薬会社さんからの相談で、新しく始める植物関係の事業に関わる植物専門の博士を募集しているが、なかなか見つからないと。植物関係の人は、製薬業界は自分の専門外だとして応募の選択肢からは外してしまいがちなのですよね。そのときたまたま私のところに相談に来ていたのが、海外にポスドクで行くはずだったのに先方の事情で行けなくなってしまった博士後期課程3年の学生で。就職先を今から探すのが難しいと困って相談にきていたのですが、彼、植物の研究やってたんですよ。そこでその製薬会社さんと引き合わせたら、見事に意気投合しまして、そのまま内定に。こういうのは、やっぱり我々が普段から企業と頻繁に情報のやりとりをしていればこそのマッチングだという、ちょっと我ながらそういう自負を抱くような嬉しい例ではありますね。

KOTORA:単独で就職活動をしていると、なかなか起き得ないことですよね。

吉原:やっぱり一人ひとりに違う事情と個性があって、同じく会社側にもそれぞれ事情があるっていうのを、うまくマッチングできた時っていうのが、私としてはいちばん嬉しいです。

 

うまくいく人の傾向に学ぶ、博士就職の成功のコツとは?

 

リケラボ編集部:吉原先生から見て、就職がうまくいく学生、ポスドクの方に共通の特徴や傾向はありますか?

吉原:まずはやっぱり、ある分野で飛び抜けた研究の才能を持っている人ですね。こういう人はアカデミックポストに進むことが多いですが、本人が望めば就職も決まりやすいのは事実です。次にうまくいくタイプは「制約条件の中でどうやって自分は役に立とうか」という考え方ができる人。そのような人は就職においても「この会社に入ったらこういうことで貢献しよう」ってことが主体的に考えられるから企業とのコミュニケーションもうまくいく。逆に言うと「自分はこれをやりたくてこれ以外はやりたくない」って言ってる人は、たまたまそのような研究者を求めている就職先があるとか、よほどその研究能力が高いなど、特別のことが無い限り、うまく行かないことが多いです。

リケラボ編集部:ものすごく優秀な人の中にも、なぜかうまくいかない人もいたりしませんか?

吉原:それももちろんあります。就活の場面に限らず「私はものすごく頑張って、成果も出しているのに全然報われない」っておっしゃる人がたまにいるんですけど、報われるということは相手がいてのことなので、そこを考えているかどうかということかと思います。相手がして欲しいと思っていることについて成果をだせば報われると思いますが、相手が望んでいない、もしくは優先順位が低い成果であれば報われなくてもしょうがないですよね。報われたいのなら相手のことを考える、とにかく自分がやりたいことをするのであれば、報われなくても気にしないことかと思います。

KOTORA:自分本位でなく、相手の話を聞く姿勢をもつことが大事ですね。

吉原:そう。常に自分は優秀だ、自分は正しいと我を張ってばかりの人は、結果的に報われないことが特に会社では多いですよね。KOTORAさんは、就職がうまくいく人の傾向についてはどう思われますか?

KOTORA:私は人材会社のキャリアコンサルタントとして博士やポスドクの方々と会う立場だったので、まずお会いする時点でアカデミックポストの研究者になれなかったことへのとても大きな挫折感を持たれている方が多くて。やっぱりそこをちゃんと乗り越えて自分で気持ちの整理をつけて、企業ではたらくということに前向きになれるかどうかが、就職がうまくいくかどうかの大きな分かれ目でしたね。

 

リケラボ編集部:挫折感を抱くこと自体はしかたないとしても、どこで切り替えるかが重要ということですね。

KOTORA:そうですね。挫折感をずっと引きずってしまって「正社員ならどこでもいい」とか「もうできる仕事ならなんでもいいですから私にできる仕事はありますか」とか、そんなちょっと投げやりな感じになってしまう人は、かえってどこにも決まらないんです。うまくいく人というのはその逆で、挫折感から抜け出して、自分が研究してきたことや自分の興味とか、自分が研究を通じて鍛えてきたことをうまく組み合わせて、こういう分野だと面白く取り組めるかもしれない、こういう分野だとこういうふうに貢献できるかもしれないって、前向きな発想になれた方ですね。その状態で会社とマッチングすると、とてもうまくいくし、本人の幸福度も高い。先ほど吉原先生が仰った「制約がある中で自分がどう貢献できるかを考えられる人」というのと、とても似ている話なんですけど。

吉原:就職は、大学入試のように上から成績順に何人入れるっていうものじゃなくて、個々の会社のその時々のニーズとその人の持つ強みの相性で決まるもの。あなたには充分いいところがあるんだから、まずはそれを認識して自信を持って欲しい。

KOTORA:本当に、自分の能力が既に充分に高いことを客観的に認識できていない人が多いと感じます。以前リケラボの記事で取り上げた方の話なんですが、研究室の先生とちょっとトラブルになって卒業直前に博士号取れずに辞めちゃった学生さんがいました。当時私が勤務していた人材会社でアシスタントとして社会人としてのイロハを身につけて、そこから正社員を目指しましょうと提案して私と一緒にはたらいてもらったんですけど、入社の初日に彼女から「花瓶の水換えとかすればいいんですか?」って聞かれたのは驚きました。「博士課程で鍛えられた人の得意分野は頭脳労働でしょ!」と言って勤務初日からがっつり頭脳労働をしていただきましたけど(笑)。博士後期課程で3年間やって、ひととおり何でもできるしデータも扱えるという人でも「自分はアカデミアの研究者にはなれなかった」という挫折感から派生して、私にできることなんてほとんどない、とすべてネガティブに考えてしまう。

吉原:でもそれは博士という世界のなかでたまたま飛び抜けた成果が出せなかっただけの話であって、「制約条件の中で工夫できる」というのはそれだけで実は社会的にはとてもニーズのある能力なんですよね。もちろんアカデミアの研究者になれたらなれたでラッキーだし、でもなれなかったらなれなかったで、自分の力を活かせる仕事は別に必ずあるから、じっくり考えていけばいいんじゃないかなって思います。

 

就職を検討中の博士の方への応援メッセージ

 

リケラボ編集部:最後に、今まさに就活中や就職を検討中の博士・ポスドクの方に応援のメッセージをお願いしたいと思います。

吉原:北大の博士支援の活動で使うポスターなどに必ず入れている言葉で「博士を活かせ!」というのがあるんですけど、お伝えしたいことはこれに尽きます。博士号取得者は、みんな力を持っています。もちろんその力の中身は人それぞれですが、ベースとして研究力と適応力、社会実装力と言われてるものは間違いなく持っている。活かしてほしいな、と思ってます。

 

リケラボ編集部:逆に言うと、活かせてない人が多いということでしょうか?

吉原:はい。先ほども言いましたけども「赤い糸会」のプレゼンテーション訓練で、一発で通る学生はほぼゼロですから。伝え方を鍛えなければ活かせないという側面はあると思います。だからこそ今一度、キーワードは「博士を活かせ!」です。

「博士を活かせ!」と力強く語る吉原先生

リケラボ編集部:KOTORAさんからも連載の締めくくりとしてひとこと、お願いします!

KOTORA:研究のことも進路のことも、楽しんでほしいですね。苦しい場面もすごく多いと思うんですけど、そこを乗り越えて幸せに生きてる人はたくさんいるし、そして何よりあなたを支援してくれる人もたくさんいるということを知ってもらって、前向きな気持ちで今を生きてほしいです。私は人材会社のキャリアコンサルタントとして、挫折を味わって本当につらい思いをされている方からの相談をたくさん受けてきました。それでも相談に来てくださった方は一歩踏み出してるからまだよくて、つらさを抱えたまま相談に来られない方もきっとたくさんいらっしゃると思う。そういう人に向けて、私は記事を書いていたつもりです。私自身もかつては研究者の道を諦めて人生に絶望してた時期がありますが、でも、今は自分に合ったやりがいのある仕事を見つけて幸せに生きている。人生結構何とでもなるんだよ、だから研究にしてもそれ以外でもとにかく目の前のことを精一杯楽しんでっていうのが、私からお伝えしたいいちばんのメッセージです。

 

<編集部より>

吉原先生、お忙しい中対談にご協力くださいまして、誠にありがとうございました。

理学博士であり国家資格キャリアコンサルタントのKOTORAさんのキャリア相談室、KOTORAさんが本業に専念されるためいったん今回で終了となります。理系博士の幸せなキャリアを願う同志として、今後ますますのご活躍を心からお祈りしております!

著者プロフィール:

KOTORA

キャリアコンサルタント。博士(理学)。生物系で博士号取得後、ポスドク、大学非常勤講師などの職を経てから民間企業の非研究職へキャリアチェンジし、人材会社の中の人10年超。主に理系求職者のキャリア相談・求人紹介を担当。現在はメーカー人事に勤務。これまでに自身も派遣社員・契約社員・正社員と多様な雇用形態を経験し、担当した業務は大学での生物学の講義・実験補助・就活生向けキャリアセミナー、人材会社でのキャリアアドバイザー・人材育成など幅広い。「人材会社の中の人」「人材サービスの利用者」の両方の立場を経験した人として、文系理系問わずキャリア選択をサポートする活動をしている。 twitter:@KOTORA_CC

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