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「密度差0溶液の世界」とは?? 水と油で新発見、サイエンス・インカレ受賞者に聞いた!(同志社大学 荒木田さん・片山さん・後藤さん) | リケラボ

「密度差0溶液の世界」とは?? 水と油で新発見、サイエンス・インカレ受賞者に聞いた!(同志社大学 荒木田さん・片山さん・後藤さん)

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サイエンス・インカレ(2018)受賞者インタビュー第三弾。今回は「密度差0溶液の世界:水と油で新発見」という研究でサイエンス・インカレ審査員特別賞を受賞された、同志社大学生命医科学部 2年(受賞時は1年)の後藤篤子さん、荒木田怜那さん、片山瑞月さんです。密度差0溶液の世界にどんな発見が隠れているのでしょうか。

ラーメンの油がきっかけに!? 水と油の分離に注目

研究の内容を教えてください!

荒木田さん:あるとき、ラーメンを食べながら次のことを考えました。「この浮かんでいる油はお湯よりも軽いに違いない。仮にお湯よりも重たかったら油は底に沈むだろう。では、もし油の密度がお湯と同じであれば、油は浮かぶのか? 沈むのか…?」そこで本研究では、水(H2O + D2O)とアニリンを用いてこの疑問の解明に取り組みました。

後藤さん:身近な有機溶媒であるアニリンは密度が1.02g/mlと、軽水に非常に近い値を持つものです。しかし、軽水よりは少し密度が大きいために、軽水にアニリンを入れてもアニリンは沈んでしまいます。逆に重水のように密度が大きいものにアニリンを入れると浮きます。そこで、重水と水を混ぜ、アニリンと等しい密度にするとアニリン液滴はどのような様子になるのかという事に私達は興味をもち、アニリンがどのように振舞うのか研究したのです。

荒木田さん:室温において、H2OとD2Oの密度はそれぞれ0.998 g/cm3と1.104 g/cm3です。H2O + D2Oの密度は混合比によって変化し、H2Oを0.73 mL、D2Oを0.27mLの割合で混合させたときに、アニリンの密度1.026 g/cm3と等しくなります。図1(a)は、H2OとD2Oの組成比を系統的に変化させながら、水/アニリンの混合状態を目視観察した結果です。ここでΔρは水の密度とアニリンの密度の差を示します。Δρ = -2.9 × 10-2 g/cm3のとき(H2Oとアニリンを混合させたとき)、およびΔρ = 7.8 × 10-2 g/cm3のとき(D2Oとアニリンを混合させたとき)は「アニリン-rich」と「水-rich」の2層に分離しています。一方、Δρ = 0 g/cm3のときは「アニリン-rich」「水-rich」「アニリン-rich」の3層に分離することが分かりました。更に、1H NMRによる成分分析の結果から、このような「3層構造」は平衡状態にあることも示唆されています。

3層構造が形成されるメカニズムについては、①アニリンの表面張力、②アニリン-ガラスの界面張力、③水-ガラスの界面張力、④水-アニリンの界面張力の影響を考慮した自由エネルギーモデルにより理解することができ、更に、組織化膜によりガラス容器を撥水処理して②③を変化させたり、界面活性剤を加えて①④を変化させたときの混合状態の変化についても観察し、自由エネルギーモデルの妥当について検証しました。

図1: (a) 水(H2O + D2O)とアニリンの混合状態の目視観察の結果。黄色に見える層は「アニリン-rich」、透明に見える層は「水-rich」である。(b) Δρ = 0 g/cm3の溶液の3層構造の模式図。(①アニリンの表面張力、②アニリン-ガラスの界面張力、③水-ガラスの界面張力、④水-アニリンの界面張力)

以上のように、重力の影響が無視できるとき、水と油は2層でなく3層に分離する、という新しい知見を得ることができました。この現象は、宇宙空間のような無重力の空間では常に出現するものと考えられます。

将来の宇宙開発につながる可能性も!

研究を進めるうえで大変だったことはありますか?

荒木田さん:3-layer状態の安定性を考察したことです。はじめは表面張力、界面張力、ギブスの相律についても理解が及んでいませんでした。研究と勉強を平行して進めながら考察するのは大変でした。

片山さん:研究を行うのはこれが初めてで、僅かなミスで予想していたものとは異なってくるため、慎重に進めました。

研究の結果が、今後どんなことに活かされていけばうれしいですか?

後藤さん:宇宙空間のような、無重力状態の場所での溶液の混ざり方がこの研究によって少し解明されたので、将来の宇宙開発に役立ったら嬉しいです。

荒木田さん:宇宙という無重力空間での混合溶媒の混ざり方や生体内環境を考えるうえで、本来ならば宇宙に持っていかないとできないはずの実験を、地球上でも簡単に行える方法として活かされれば嬉しいなと思います。

片山さん:油が含まれている宇宙食の開発に活かされたら、とても嬉しいですね。 スケールが大きい話ですが(笑)

みなさんの今後の目標を教えてください!

荒木田さん:容器内を撥水加工して容器内の濡れ性を変えたときや、容器の形状を変えてみるなど、より条件を増やしてこの研究を深く掘り下げていきたいと思います。また塩水の表面を見ていく研究にも興味があるので、興味を持ったものにはどんどん取り組んでいきたいと思います。

片山さん:この実験を今後も進めていきたいです。なかでも、今は水にアニリンを浮かばせたときのアニリンの振動の仕方について調べてみたいなと思っています。

後藤さん:私は、特に具体的なテーマは決まっていませんが、人の役に立つ研究をしていきたいと考えています。

荒木田さん・後藤さん・片山さん、ありがとうございました。ラーメンを食べながら浮かんだ疑問が、宇宙開発に貢献する可能性にまで広がるとは…。今後の研究活動も、応援しています!

リケラボ編集部

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